高出力高線量小型冷陰極 X線検査装置

今回、非破壊検査で要望の多い、小型かつバッテリ駆動ながら、高出力で高線量という性能をもつX線検査装置を新開発した。

本稿では予熱不要、省電力・長寿命の冷陰極X線管を搭載して小型軽量、バッテリ駆動ながら、高出力で高線量を実現して、現場に持ち出し、AC100Vなしで、漏洩線量も抑えて安全に各種対象物を非破壊でX線検査できる小型冷陰極X線検査装置について紹介する。

はじめに

X線、超音波などを使い、対象物の目で見えない部分の損傷や欠陥を非破壊で検査する「非破壊検査」は、工業製品の品質管理から、ビル、鉄道、橋梁をはじめとするインフラの検査や維持管理まで、幅広い分野でなくてはならないものとなっている。

われわれは産業技術総合研究所の技術移転ベンチャーとして、工業製品から産業および社会インフラの各種検査を目的として、世界初の非破壊検査装置を開発、製品化している。

なかでもX線装置は、単3乾電池1本で駆動可能な手のひらサイズの小型冷陰極X線発生装置を開発し、それをもとに各種対象物への展開を進めている 1~4) 。今回、非破壊検査で要望の多い、小型かつバッテリ駆動ながら、高出力で高線量という性能をもつX線検査装置を新開発した。

本稿では予熱不要、省電力・長寿命の冷陰極X線管を搭載して小型軽量、バッテリ駆動ながら、高出力で高線量を実現して、現場に持ち出し、AC100Vなしで、漏洩線量も抑えて安全に各種対象物を非破壊でX線検査できる小型冷陰極X線検査装置について紹介する。

開発の経緯、独自開発の特筆すべき技術の特長および優位性

 まず開発の経緯としては、弊社は産業技術総合研究所の技術移転ベンチャーとして、産業技術総合研究所と開発した技術を世の中に広めていくというミッションがある。

そこで、弊社は産業技術総合研究所で研究開発された新しい検査技術に基づいた各種検査装置を事業化すべく、製品化を進めている。その中で、今までにないX線発生技術の研究から本稿で紹介する冷陰極X線管を搭載したX線源を開発したという経緯がある。

次に、独自開発の特筆すべき技術の特長および優位性について述べる。写真1にわれわれの冷陰極X線管の電子源であるカーボンナノ構造体冷陰極電子源の写真を示す。

写真1 カーボンナノ構造体冷陰極電子源の表面SEM写真

このカーボンナノ構造体冷陰極電子源は、今までの熱電子を放出する電子源と違い、電界電子放出により電子を放出するため、予熱、待機電圧が不要で、電圧をかけるとすぐ電子を放出するという特長がある。

そのため、X線の即時照射が可能であり、X線を照射するときだけ電力を必要とするので、省電力なため、乾電池やバッテリでの駆動が可能となる。

したがって、X線の発生時にしか電力を消費しないことから、単3乾電池1本でもX線の照射が可能であり、われわれが実際に開発した単3乾電池1本でパルスX線を100回程度照射できる手のひらサイズの単3乾電池駆動小型X線発生装置を写真2に示す。もちろん、バッテリなら、約8,000ショット照射でき、AC100Vなしで、どこでもX線照射できるという優位性をもっている。

写真2 手のひらサイズの単3乾電池1本で駆動する
小型冷陰極X線発生装置

高出力高線量 小型冷陰極X線検査装置 開発事例

上述の単3乾電池駆動小型X線発生装置の技術を応用して、より高出力で高線量の装置を開発した。写真3にその高出力高線量小型冷陰極X線検査装置を示す。

写真3 高出力高線量小型冷陰極X線検査装置

この装置はX線を照射する本体とそこから10m離れてバッテリを取り付けてX線の照射条件を制御・コントロールするコントローラとから成っている。また、表1に、この装置本体の仕様を示す。

表1 高出力高線量小型冷陰極X線検査装置本体の仕様

この装置の最大の特長は、小型のバッテリながら、最大150kVのX線を瞬時に照射でき、そのパルス幅も2,000msまで連続照射が可能となったことである。これにより、高出力と高線量の両方を兼ね備えた装置となり、その応用分野が広がった。

X線の照射に関しては、コントローラからパソコンにケーブルをつなぎ、パソコンで所望の管電圧、管電流、パルス幅、パルス数、パルス周期の条件設定ができる。

この装置はX線の照射を行うが、実際に検査を行う場合、既存のX線フィルムやイメージングプレート、またはデジタル検出器などを検査したい対象物に合わせて選択することができる。

特にデジタル検出器と組み合わせると、感度が高く、1秒以内で撮影画像を表示でき、いわゆるリアルタイム検査ができ、さらに何度も取り直しもできるので、便利である。次に、本装置を使った撮影例を紹介する。

写真4に示す直径約10㎝、片側肉厚約7mmの配管をデジタル検出器と組み合わせて撮影試験を行った。表2にデジタル検出器の仕様を示す。

写真4 デジタル検出器による配管の撮影試験

表2 デジタル検出器の仕様

このデジタル検出器(Teledyne Rad-icon Imaging社、Shad-o-Box 1548 HS)は、検出エリアが約10cm×15cm、解像度が99μmであり、小型の対象物撮影に適している。

また、このデジタル検出器は、三菱化学製のシンチレータをCMOSイメージセンサにダイレクトコンタクトしていて、ダイナミックレンジ3,000:1の高感度なX線検出を実現している。

PCにはLANケーブルで接続し、X線を照射すると、デジタル検出器からの信号がPCに取り込まれ、画面上にリアルタイムで撮影画像が表示される。

撮影した画像は、各種の画像処理が施され、画面上で拡大縮小、ヒストグラム、明るさ、コントラスト等の調整が可能となっている。 このデジタル検出器により、次の撮影条件で取得した画像を写真5に示す。
(1)管中心から検出器までの距離:30cm
(2)X線源設定:管電圧150kV, 管電流1.0mA, 照射時間600ms

写真5 配管内異物の検査例

ここで、この配管内異物の撮影の際に、透過度計16Fを置いて、識別度を評価した。16F の 7 本の線は、0.40、0.50、0.63、0.80、1.0、1.25、1.6mmとなっており、画像を見ると、この配管の両側肉厚は14mmで、7本目の0.40mmの線まで判別できるので、識別度は、2.86となり、満足できる識別度となった。

応用/ユーザメリット

この高出力高線量小型冷陰極X線検査装置の応用としては、何と言っても小型、軽量でバッテリ動作ながら、高出力高線量のX線を照射できるため、写真 6 のように狭いところに持ち込んで、AC100Vなしの現場でリアルタイムのX線検査に使えることである。

写真6 火力発電所ボイラーの検査風景

また、この装置は、装置そのものに鉛遮蔽を施して、直接線以外の漏洩線量を抑えているので、今までの装置に比べて、作業者が近くでも安全に撮影できる。

これは今までの既存のX線検査装置にはなかったユーザメリットである。その際、小型、軽量なので作業者の持ち運びや現地での設置の手間などの負担も軽減されることになり、そういう意味でもユーザにとって今までにないメリットがある。

市場動向とその対応

次にわれわれの同じ150kVの小型X線装置で検査体として厚さ10cmのコンクリート内のΦ3cmの鉄筋の腐食を検査した例を紹介する。その際の撮影の様子を写真7に示す。

写真7 コンクリート内鉄筋の検査例

その時の撮影画像を写真8に示す。このように、今までは工業製品の良品検査や工業製品の経年変化による劣化検査が多かったが、現在コンクリートなどの社会インフラの検査ニーズが急速に高まっている。

写真8 コンクリート内鉄筋3本の撮影画像

これは住民の安全安心に直結するので、検査業界としても急いで対応を進めているところである。われわれの装置では写真7のように、X線発生装置をコンクリートから数十cmの位置に近づけて、デジタル検出器によりコンクリート内の鉄筋を検査してみた。

この場合も検査体に最適なX線照射の条件をX線装置のコントローラ経由でPCから設定できる。もし、画像が所望通りでない場合は、管電圧、パルス幅などのX線の設定値を変えて何度でも撮影が可能である。

写真8を見ると、コンクリート内の3本の鉄筋の状態が判別でき、周囲のコンクリートの状態についても隙間があるかないかなどがわかる画像となっている。

今後のロードマップ

われわれの小型冷陰極X線検査装置は、市場のニーズに従い、単3乾電池1本で駆動できる60kVの小型X線発生装置の技術から、現在150kVの高出力高線量の装置まで開発、製品化している。

今後はより高出力のニーズが高いこともあり、150kV以上の高出力を達成できる装置を計画している。また、並行してこのような装置を市場に普及させるため、装置の量産化に向けて準備を進めているところである。

おわりに

本稿では、高出力高線量小型冷陰極X線検査装置の開発とその応用について紹介した。この装置は、X線管にカーボンナノ構造体冷陰極電子源を採用し、今までにない小型軽量、長寿命、バッテリ駆動という利点をもっている。

それにより、この装置を使えば、今までのような重く、大きく、AC電源が必要で、被ばくが心配というX線装置のイメージを脱し、非破壊検査をスムーズに、スマートに実施できるものと考える。そして、多くの作業者に多くの現場でこの装置を使っていただくことを目指している。その結果、社会の安全安心に貢献していく所存である。

■ 参考文献
1) 齊藤典生、王暁東、松岡一夫、王波:“単3乾電池駆動X線装置による電線用小型X線検査装置”、映像情報インダストリアル第2号 pp.41-46 2014
2) 齊藤典生、王 波、王暁東、安達健太郎、于大選:“単3乾電池駆動小型X線装置の実用化”、映像情報インダストリアル第2号 pp.13-17 2015
3) 齊藤典生、王 波、劉 小軍、鈴木 修一、吉本 弘正:“小型X線検査装置”、映像情報インダストリアル第2号 pp.49-53 2016
4) 齊藤典生、王 波、劉 小軍、鈴木 修一:“乾電池駆動可能な配管用小型X線検査装置における非破壊検査への応用”、映像情報インダストリアル第7号 pp.31-38 2016

問い合わせ
つくばテクノロジー株式会社
TEL:029-852-7777
E-mail:info@tsukubatech.co.jp
http://www.tsukubatech.co.jp/ 

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