~近赤外イメージングで『見える』を構成する~
Xenics社製近赤外線カメラの特長

セキュリティ・検査・研究・医療など様々な用途で、近赤外線領域を用いたイメージングの需要がさらに高まっている。

それぞれのアプリケーションに最適なシステムを構成するためには、核となる赤外線カメラが多様なプラットフォームに対応できなければならない。本稿ではベルギーに拠点を置く、Xenics社が製造している様々なモデルの近赤外線カメラを 紹介する。

はじめに

近年、シリコンを用いたCCD・CMOSイメージセンサは低ノイズ・高解像度化が進んだことで、分野を問わず様々なアプリケーションで使用されている。

近赤外イメージングにおいても可視光に近い赤外波長帯域ではCCD・CMOSを使用する場合もあるが、対象となる赤外線波長によっては感度をもたない可能性がある。

本稿ではシリコンイメージセンサでは検知できない波長帯域において、 高い感度と性能をもつXenics社製の近赤外線カメラのラインナップを紹介する。

1.近赤外線カメラとは

一般的に CMOS などは 1.1μmまでの赤外線に感度をもつとされているが、0.9μmより長い波長では感度が低いため、赤外線イメージングにおいて十分に性能を発揮できないことがある。

InGaAs(インジウムガリウムヒ素)イメージセンサを搭載した近赤外線カメラは、0.9μmから1.7μmの波長帯域において感度をもっており、人間の目では見ることのできない近赤外線領域の波長を検知することができる(図1)。

図1 CCD・CMOSとInGaAsイメージセンサのQEグラフ

近赤外線カメラに搭載されているInGaAsイメージセンサは1画素がCMOS読み出し回路(ROIC: readout integrated circuit)とInGaAsフォトダイオードで構成されており、バンプにより電気的に接続されている。

センサに入射する赤外光をInGaAsフォトダイオードが光電変換して、ROICにより信号として読み出される構造となっている(図2)。 研究用途などのアプリケーションに応じて、近赤外線カメラはさらに高いSN比を要求される場合があり、いくつかの追加設計が必要になる。

図2 InGaAsイメージセンサの概略構成図

たとえば、近赤外線カメラは量子効率を最適化するために、反射防止(AR : anti-reflective)コーティングを施し、透過率の高い光学ウィンドウを選択する。またInGaAsセンサは暗電流の影響を受けやすいため、抑制効果のある冷却機構を設けることや、固定パターンノイズに対する補正処理など施すことが必須となる(図3)。

図3 近赤外線カメラの追加設計概略図

近赤外線カメラの冷却機構はペルチェ冷却が主流となっており、微弱光観察用途などで長時間露光が必要な場合は液体窒素を用いたモデルを使用することがある。

ただし、InGaAsセンサのカットオフ波長は温度依存性が高く、冷却するたびに長波長側のカットオフが短くなる。たとえば約80Kまで冷却する液体窒素モデルの場合、感度波長帯域は約1.55μmまで制限される。1.5~1.7μm付近の波長を用いる場合は注意が必要である。

2.Xenics社製 近赤外線カメラ

Xenics社では最適なウィンドウを搭載し、ARコーティングを施した画素欠陥率 1%未満のInGaAsイメージセンサを自社で開発・製造しており、それらを搭載した近赤外線カメラを取り扱っている。

冷却/非冷却モデルをはじめ、高速撮像に特化したモデルやラインスキャンカメラなど、用途に応じて以下のような幅広いラインナップからモデル選定を行う。

2.1 Xeva-1.7シリーズ
Xeva-1.7シリーズは最大3段のペルチェ冷却機構と空冷ファンを搭載しており、ペルチェ冷却モデルの中で、最も長い露光時間を設定できる近赤外線カメラである(図4、表1)。

図4 Xeva-1.7シリーズ

表1 Xeva-1.7シリーズ仕様表

2つのゲインモードが搭載されており(Lowゲイン&Highゲイン)、カメラ制御はUSB2.0で行う。必要なフレームレートやビット数に応じて、USB2.0かCameraLinkを選択し、画像を取り込む。感度を要求されるアプリケーションに最適なモデルである。

2.2 XS-1.7シリーズ
 XS-1.7シリーズは非冷却であり、カメラ筐体は5cm 3 と非常にコンパクトな近赤外線カメラである(図5、表2)。

図5 XS-1.7シリーズ

表2 XS-1.7シリーズ仕様表

2つのゲインモードが搭載されており(Lowゲイン&Highゲイン)、カメラ制御と画像取り込みはUSB2.0で行う。アナログ出力やトリガ入力にも対応している。露光時間に応じたキャリブレーションファイルを作成することができるため、非冷却でも最良の画像品質を維持することが可能なモデルである。

2.3 Bobcatシリーズ
 Bobcatシリーズは安定化用に1段のペルチェ冷却機構を設けており、放熱設計されたコンパクトな近赤外線カメラである(図6、表3、4)。

図6 Bobcatシリーズ

表3 Bobcat-320シリーズ仕様表

表4 Bobcat-640シリーズ仕様表

冷却機構により一定の露光時間調整ができ、GigE とCameraLinkに対応しており、100Hz以上の高フレームレート出力が可能である。トリガ入出力のどちらかを構成することもできるため、汎用性の高いモデルである。

2.4 Rufus-640シリーズ
 Rufus-640シリーズはBobcatシリーズのアナログ信号モデルであり、安定化用に1段のペルチェ冷却機構を設けたコンパクトな近赤外線カメラである(図7、表5)。低消費電力である事からセキュリティ用途などで使用されるモデルである。

図7 Rufus-640シリーズ

表5 Rufus-640シリーズ仕様表

2.5 Cheetah-640-CLシリーズ
 Cheetah-640-CLシリーズは最大3段のペルチェ冷却機構を搭載可能な世界一速い近赤外線ハイスピードカメラである(図8、表6)。

図8 Cheetah-640 CLシリーズ

表6 Cheetah-640-CLシリーズ仕様表

特殊な構成をしており、ペルチェ1段のモデルで最速1,730Hzのフレームレートを実現しているペルチェ3段のモデルはファンを用いた空冷よりも安定的に冷却可能な水冷方式となっている。制御と出力はCameraLinkのみとなっており、医療や研究開発の分野で優れた性能を発揮するモデルである。

2.6 Cougar-640シリーズ
 Cougar-640シリーズは液体窒素冷却(LN2)機構をもつ近赤外線カメラであり、微弱光測定用に、低ノイズで高感度に設計されている(図9、表7)。

図9 Couger-640シリーズ

表7 Couger-640シリーズ仕様表

露光時間は2つのモードがあり、エミッションモードでは飽和状態になるまで露光時間の延長が可能である。ADコンバータも24bitを搭載しており、最適なデータ取得を実現できるモデルである。

2.7 Lynxシリーズ
 Lynxシリーズは高速モデルの近赤外線ラインカメラであり、コンパクトで最大2,048pixelの解像度モデルが用意され、非冷却ながら高解像度で高感度な撮像が可能である(図10、表8)。

図10 Lynxシリーズ

表8 Lynxシリーズ仕様表

制御と出力はGigEとCameraLinkが選択可能であり、汎用的な正方形(Square)画素のほかに、光干渉断層像(OCT: Optical Coherence Tomography)や分光計測などで使用される特殊な長方形(Rectangular)画素にも対応できるモデルである(図11)。

図11 Square画素とRectangular画素

これらの製品ラインナップは、InGaAsイメージセンサの基本波長帯域である0.9~1.7μmにのみ適応しており、近赤外線イメージングではより短波長(~0.95μm)・長波長(1.6μm~)側の波長感度を要求される場合がある。Xenics社ではこれらの要望に応えるため、追加仕様やInGaAs以外のセンサを搭載した新製品を開発している。

3.追加仕様と新製品情報に関して

3.1 VisNIR仕様
短波長側の近赤外線領域においてはInGaAsフォトダイオードアレイのInP基板を薄くすることにより、0.9μm以下の波長に対して高い感度をもつことが可能である(図12)。

図12 InGaAsフォトダイオードアレイ構造概略図(NIR&VisNIR)

特に0.8~1.0μmの領域はシリコン・InGaAs両イメージセンサとも感度が低く、システム構成が難しい波長領域であるが、本VisNIR仕様は冷却・非冷却にかかわらず、ほぼすべてのエリアカメラシリーズに対応できるため、様々なシステムに対応できる(図13)。

図13 各イメージセンサのQEグラフ

長波長側の近赤外線領域においてはInGaAsセンサでは感度がないため、T2SL(裏面照射型InGaAs/GaAsSb TypeⅡ超格子素子)や中赤外線領域に感度をもつInSb(インジウムアンチモン)やMCT(HgCdTe:水銀カドミウムテルル)の追加仕様モデルを使用する必要がある。

3.2 Xeva-2.35/Xeva-2.5シリーズ
Xenics社では新製品としてT2SLセンサを搭載した、Xeva-2.35シリーズとXeva-2.5シリーズの販売を開始した。筐体のデザインはXeva1.7シリーズと同じものであり、冷却用のファンと4段のペルチェ冷却機構を搭載している。

T2SLセンサでは2μm以上の波長帯域にも感度をもち、1.8~2.3μmの波長帯域ではXeva2.35の方が高感度であり、2.3~2.5μmの波長帯域ではXeva-2.5が高感度である(図14)。

図14 Xeva2.35&Xeva2.5シリーズのQEグラフ

3.3 Tigris-640シリーズ
また新製品の高速中赤外線カメラTigris-640シリーズはMCTとInSbセンサを搭載したモデルがあり、その中でも広帯域に対応したブロードバンドモデルが近赤外線領域にも感度をもっている(図15、表9)。

図15 Tigris-640シリーズ

表9 Tigris-640シリーズ仕様表

センサ冷却にスターリングクーラーを用いているが、コンパクトで使いやすいモデルになっており、T2SLでも感度の低い2μm以降の近赤外線イメージングにも応用できる。

さいごに

今回説明できなかった実際のアプリケーション例や細かい仕様に関しては、弊社で紹介・選定することが可能である。各種デモ機を用意できるモデルもあるため、実際に撮像評価を行うことができる。本稿にてXenics社製近赤外線カメラに興味をもっていただけたら幸いである。

※映像情報インダストリアル2017年2月号より転載

問い合わせ
株式会社アド・サイエンス
TEL.:047-434-2090
http://www.ads-img.co.jp/

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