産業用カメラレンズ

画像計測・検査システムを構築するときに、レンズはカメラとともに重要なアイテムである。ここでは、レンズの基本的な要素と設計指針、一般では馴染みのない光学用語などを解説する。

1. 種類による分類

1.1 汎用レンズ
近年ではカメラの高画素化が進み、旧来のものではカメラの性能を十分に発揮できなくなってきた。このようなカメラの進化に合わせて、光学メーカでは高画素カメラの性能を発揮できるようにその性能を向上させ、「高解像力」「低ディストーション」に重点を置いて設計された高画素カメラ対応画像処理用レンズが主流になってきた。

1.2 単焦点レンズ
焦点距離が固定されているレンズである。レンズ構造としては、構成枚数が少ないのでF値が小さい(明るい)、ディストーションの少ないレンズが多い。画像計測・検査では、撮影条件を頻繁に変更して使用することはほとんどないので、主にこのタイプが使われる。

1.3 ズームレンズ
焦点距離を可変することが可能で、このときフォーカスが追随するように設計されているレンズである。単焦点レンズとは逆に、レンズの構成枚数は増えてしまい、F値の大きい(暗い)ものが多い。

また、焦点距離を変えることによってディストーションも変化する。したがって、ディストーションの影響を受けるシステムでは、その都度キャリブレーション補正が必要になる。

1.4 可変焦点レンズ
ズームレンズのように、焦点距離が可変できるレンズであるが、焦点距離を変えたときにフォーカスが追随する機能がないため再調整する必要がある。ズームレンズより構造が簡単になり、F値が小さいものを作りやすい。バリフォーカルレンズともいう。

1.5 特殊用途レンズ
超広角撮影用 :魚眼レンズ、フィッシュアイレンズともいう。画角が広いので広範囲を撮影することができるが、周辺部のディストーションが大きいので正確な計測・検査には向かない。大まかなキズや汚れの有無検査程度に使用する。

全周撮影用:パイプなどの管内の壁面検査に使用される。レンズ先端が鉛筆のように尖っており、レンズ先端の周囲を360°観察できる。

2. マウントによる分類

2.1 Cマウント・CSマウント
Cマウント :FB=17.526mm
CSマウント :FB=12.5mm
※FB:フランジバック(図1

図1 レンズとカメラの組み立て

双方のマウントとも、取付けネジ径:25.4mm、ネジピッチ1-32UNFなので、機械的には同一であるため、ねじ込むことが可能である。しかし、光学的にはフランジバックが約5mm違うため、フォーカスを合わせることができない。

CマウントカメラにCSマウントレンズ、CSマウントカメラにCマウントレンズの混用は、絶対にしてはならない。CSマウントカメラは、フランジ面から12.5mm後方にCCDを配している。一方、Cマウントレンズの型番によっては、フランジ面より後方にレンズが飛び出しているものがある。

この組み合わせで装着すると、レンズと撮像素子が物理的に干渉して衝突する可能性があり、このとき、撮像素子やレンズの表面にすりキズがついてしまうので絶対に間違ってはならない。

ただし、CマウントレンズをCSマウントレンズに変換するアダプタを用意することにより、CSマウントカメラに使用することができる。

2.2 一眼レフカメラマウント
Nikon Fマウント :46.5mm
PENTAX Kマウント :45.46mm

ラインスキャンカメラやラージフォーマットのエリアカメラなどでは、撮像素子のサイズが大きいので、有効像円が大きな一眼レフカメラ用のレンズのマウントをもつものがある。

一般的に一眼レフ用のマウントは、接合部の周囲に3~4箇所の爪を有し、カメラ側内爪とレンズ側の外爪を嵌合させて固定する、バヨネット式なので若干のガタがあるので注意する。

2.3 その他のねじ込みマウント
写真の引伸ばし機用レンズやカスタムレンズなどでは、レンズマウントの製作や取り扱いが簡単なこともあって、ねじ込みマウントが使用される。カメラとレンズのネジの規格が合致してないと、ネジ山を壊すことになるので注意する。

3. レンズ動作による分類

3.1 前玉フォーカス・全体繰り出しフォーカス
一番前のレンズ、またはレンズ全体が前後してフォーカスを合わせる。このとき、作動距離が変わってしまうと同時に、撮影倍率が大きく変わるのでキャリブレーションをやり直す必要がある。

3.2 インターナルフォーカス
外観上は駆動する部分はないが、レンズ鏡筒内の中間群または後群のレンズが移動して、フォーカスを合わせる機構を有する。このとき撮影倍率はほとんど変化しないので、いろいろな撮影条件でのテストを繰り返すとき、倍率調整をしながらフォーカスを合わせることが容易にできる。したがって、作業効率を向上させることにも有効である。

3.3 テレセントリック光学系
ノンテレセントリックレンズは、高さがある立体の対象物のときに立体の側面が見えてしまい、計測・検査のときに精度低下などの不都合が生じることが多い。

しかし、テレセントリックレンズでは、対象物を平行に観察することにより、立体の側面が見えないので精度を向上させることができる(図2)。

図 2 ノンテレセントリックレンズでの見え

3.4 ノンテレセントリックレンズ
一般に使用されるレンズ(図3)。

図 3 ノンテレセントリックレンズ

3.5 物体側テレセントリックレンズ
入射瞳が無限遠にあるレンズ(図4)。

図 4 物体側テレセントリックレンズ

3.6 像側テレセントリックレンズ
射出瞳が無限遠にあるレンズ(図5)。

図 5 像側テレセントリックレンズ

3.7 両側テレセントリックレンズ
入射瞳と射出瞳の両方が無限遠にあるレンズ。上記の両方の性質をもっている(図6)。平行光を入射すると平行光が射出されるので、焦点距離は無限大になる。

図 6 両側テレセントリックレンズ

3.8 長所と短所
長 所
• 作動距離をずらしても対象物の大きさが変わらない。
• 高さのある対象物を、平面状に撮影できる。

短 所
• 光学系が暗い
• 絞り調節がない
• 視野がレンズの口径で決まる
• 作動距離が固定されている

4. システム設計

4.1 分解能
検査対象の分解能を検討する。要求仕様による精度が30μm、使用するツールの1/4Pixelまで計測可能であれば、30/(1/4)=120[μm/Pixel]の分解能が必要になる。カメラを640×480画素であれば、視野範囲は76.8×57.6mmとなる。

4.2 焦点距離
図7において、△ABOと△abOは相似形であるので、H:h=L:fが成り立つ。したがって、次のとおりとなる。L=f(H/h) ・・・①

分解能の設計において、120[μm/Pixel]としたときについて考える。このとき、使用するカメラの画素サイズが7.4μmであれば、120μmの点像に対しレンズを介して7.4μmに投影することになる。よってH=120[μm]、h=7.4[μm]となる。

図 7 焦点距離

【例】
このとき、使用するレンズの焦点距離を25mmとして①式にあてはめると、L=25×(120/7.4)=405.4mm
図8において、L+f=OL+FB となる。OL=(L+f)-FB ・・・②

ここで使用するレンズがCマウントであるので、FB=17.5[mm]となる。
OL=(405.4+25)-17.5=412.9[mm]
したがって、カメラフランジ面から対象物までの距離は、412.9[mm]となる。

図 8 焦点距離と被写体距離

【別のレンズで再計算】
この設計では被写体距離が遠い場合には、レンズの焦点距離を16mmとして再計算すると、L=259.5[mm]OL=267.0[mm]カメラフランジ面から対象物までの距離は、267.0[mm]となる。

5. アクセサリ

5.1 PLフィルタ
偏光フィルタともいわれる。ガラスや金属表面などの不要な表面反射を除去するために用いる。使用すると光量も減少するので注意する。

5.2 NDフィルタ
減光フィルタともいわれ、レンズに入る光量を減少させるフィルタ。鏡面反射する対象物を観察するとき、照明の調光やレンズの絞りでは充分に減光させることができないときに使用する。ND2、ND4、ND8などの種類があり、ND2で1/2にND4 で1/4に減光される。NDはNeutral Densityの略。

5.3 カラーフィルタ
特定の波長の光線のみを透過させるこができるフィルタ。対象物の色調から特定の色を除去したいときに使用する。RGBの三原色フィルタとしてR60(赤)、G533(緑)、B440(青)が代表的な型番である。

5.4 接写リング
レンズとカメラとの結合部分であるマウントの間に挟み込んで使用し、レンズのフランジバックを長くする。この効果として、最短撮影距離を短くすることができ拡大率を向上させることができる。

6. 用語

これまで説明した中にでてきた言葉や、基礎的な光学用語について解説する。

•作動距離
レンズ先端から対象物までの距離。フォーカス調整のときに、レンズ先端が繰り出すレンズでは、調整することによって作動距離が変化するので注意が必要。ワーキングディスタンスともいう。

装置に組み込んだり、サンプル評価などで他人に説明したりするときなど、物理的な距離と位置を規定するためには作動距離ではなく、カメラのフランジ面から対象物までの距離、「フランジ-対物距離」を主とし、作動距離を参考データとして示したほうがよい。

•至近端・無限端
フォーカス転輪を回転させたとき、レンズに対して対象物が一番近い状態でフォーカス調整ができるときの転輪位置が至近端(Near端ともいう)。逆に対象物が無限遠にあるときにフォーカス調整できるときの転輪位置を無限端(Inf端ともいう)。

•最短撮影距離
対象物をレンズに近づけたとき、レンズのフォーカス調整によって合わせられる最も近いレンズと対象物の距離。

•解像力
どれだけ精細なパターンを識別できるかについて、1mmの範囲にある白黒の縞模様のラインペアが何本確認できるかを表したもの。○○[ 本/mm]という。一般的に、50[本/mm]~250[本/mm]程度である。類義語として、分解能という用語がある。

分解能
どれだけ精細なパターンを識別できるかについて、微細な大きさの点を識別できるかを表したもの。○○μmという。解像力の逆数。一般的に20μm ~ 4μm程度である。

有効像円
レンズが結像する円形の範囲のこと。φ○○mmという。撮像素子がこの範囲に入らないと画像の周囲に黒い影が見えるケラレが発生する。イメージサークルともいう。

錯乱円
点光源からの光は、レンズを通過するときにわずかに広がりが出て結像面上で結ぶ像は円形になる。この円のことを錯乱円と呼ぶ。フォーカスが合っていないかどうか判断できない最大の大きさをもつ錯乱円のことを許容錯乱円という。一般的に撮像素子の画素サイズがこれに該当する。

フランジバック
レンズマウントのフランジ面(カメラ-レンズの取付け面)から結像面(撮像素子)までの距離。

被写界深度・焦点深度
対象物が前後しても、結像した画像がボケていないと判断できる範囲のことを被写界深度という。結像面が前後しても、画像がボケていないと判断できる範囲のこと焦点深度という。よく混同して使われているが、まったく別物なので注意しなければならない(図9)。

図 9 被写界深度と許容錯乱円

ディストーション
レンズを通して撮影された画像に生じる歪みのことをディストーションという(図10)。 ディストーションの見え方は、同心円状の等ピッチのパターンをもつ対象物に対して、パターン中心とレンズ中心を合わせて撮影する。

図10 ディストーションの様子

このとき、得られた画像は中心から円のピッチが正確に再現できれば、ディストーションがないレンズといえる。通常は、中心から離れるほどピッチが狭く/広くなる。これがディストーションであり、この様子を示したものが上段である。 また、これらの3通りの見え方を格子状パターンで再現すると下段のような見え方をする。

F値
レンズの絞り値。数値が小さいほど明るいレンズ、逆に大きくなるほど暗いレンズである。この数値は、F1.0、1.4、2、2.8、4、5.6、8、11、16、…のように√2倍ずつ大きくなる。この数値が1ステップ上がると、像の明るさは1/2になる。Fナンバーともいう。

入射瞳
レンズを物体側から覗いたときに観察できる、見かけ上の絞りの位置。

射出瞳
レンズを像側から覗いたときに観察できる、見かけ上の絞りの位置。

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