人共存型双腕スカラロボット「duAro」

日本では少子高齢化、生産年齢人口の減少が進展する中、製造業の生産現場、医療・介護現場、農業・建設・インフラの作業現場等の幅広い分野で、人手不足の解消、過重な労働からの解放、生産性の向上が課題となっている。

本稿では、当社が「easy to use」、「人とロボットの共存と協調」をキーワードに開発した人共存型双腕スカラロボットduAroの特長と適用事例について紹介する。

はじめに

これまでの産業用ロボットは、自動車業界等の製品のライフサイクルが長い量産分野を中心に導入が進み発展してきた。

一方で、電気・電子業界等製品のライフサイクルが短く、数ヵ月単位でモデルチェンジを繰り返す分野では、ロボット導入への期待があったものの準備期間や費用対効果の観点から自働化が困難と考えられてきた。

また、40年以上に及ぶ日本の産業用ロボットの歴史で、日本国内に導入されたロボットの台数は30万台と言われているが、産業用ロボットはほぼ大手企業のみで採用されてきたのが実情である。

労働力不足を補うには、国内企業の99.7%を占める中小企業への導入が不可欠だが、従来のように安全柵を必要とし、専門的な取扱いの習得が必要なロボットの普及は困難となっていた。

このような背景を踏まえ、当社は「easy to use」、「人とロボットの共存と協調」をキーワードに使いやすさを徹底的に追求した、安全柵が不要な人共存型双腕スカラロボットduAroを開発し、製品化した。

人共存型双腕スカラロボットduAroの特長

「easy to use」、「人とロボットの共存と協調」をキーワードに開発した人共存型双腕スカラロボットduAroシリーズは、図1に示すとおり可搬質量、上下ストロークが異なる2機種をラインナップしている。

図1 duAroラインナップ

これにより、ねじ締めや部品実装といった机上での組立作業から箱詰めといった大きなストロークが必要な作業まで、様々な作業工程へのロボット導入を可能とした。

さらに、ロボット導入への障壁を下げるため、従来産業用ロボットに設置が義務付けられてきた安全柵を不要とし、生産ラインの作業者をそのままロボットに置き換えられるようにした。

1)人との共存
安全柵を不要とし、人とロボットの共存を可能にするため、エリア監視による速度低減機能、図2に示す衝突検知機能等様々な安全に配慮した機能を用意した。

図2 衝突検知機能

さらに、オプションの「Cubic-S」を使用することで産業用ロボットの安全要求にかかわる国際規格ISO10218-1に準拠することが可能である。

duAroを利用する際には、適用に合わせてリスクが残存していないか確認するリスクアセスメントを実施することで、人は安心感をもってロボットと同じ空間で作業を行うことができる。

2)省スペース
人一人分のスペースに設置できるよう、duAroは人の作業範囲とほぼ同じである半径800mmでの作業を可能とした。図3に示すように2つのアームを同軸に配置し、これらを1つのコントローラで制御することで、人一人分と同程度のスペースに収まる省スペースを実現した。

図3 duAroと人の作業範囲の比較

また、双腕の同軸配置により、従来のスカラロボット2台では実現できない、両腕を使って物を運ぶといった広範囲での協調動作を可能とした。

3)簡単設置
duAroがターゲットとしている中小企業の製造現場では、現場のレイアウト変更が困難である場合が多い。そこで、アームが取り付けられている台車の中にコントローラを収納することで、従来のようにコントローラの設置場所を検討する必要がなくなり、台車ごと移動させることで使用する場所にロボットを容易に設置することを可能にした。

これにより、図4のように生産ラインを変更することなく任意の作業者をロボットに置き換えることができる。さらに、アームとコントローラを分離したオプションを用意することで、お客様の現場に合わせた自由度の高いレイアウトも可能にした。

図4 duAroによる作業者の置き換え

4)簡単教示
従来のロボット導入の際には、作業の手順をプログラムで定義して教示する必要があったが、duAroではダイレクトティーチ機能とタブレット端末の使用により教示作業の容易化を実現した。

ダイレクトティーチ機能は、図5に示すように作業者が実際の動作に従って直接ロボットアームを動かしてロボットの姿勢を教示する機能である。

図5 ダイレクトティーチング機能

ダイレクトティーチの際には、アーム先端に取付けられたハンドの重量に応じた重力補償値を計測、設定することで、水平方向だけでなく上下方向にもアームをスムーズに動かして教示することが可能である。

また、従来のロボットのようにティーチペンダントを使用することなく、市販のAndroidタブレットにティーチペンダント機能を有するアプリ(図6)をインストールすることで、今までロボットを使用したことがない人でも容易に教示作業を行うことができる。

図6 タブレットとアプリの組合せによる教示の容易化

5)簡単・安価導入
自働化を行いたいお客様は、作業環境はそのままに作業者だけをロボットに置き換えたい、導入コストを低減するために現状の工具や治具をそのまま使いたいと考えていることが多い。

そこで、duAroはベースチャックと呼ばれる部品を両腕に装備させることで作業者が普段使用している工具や治具を使用できるようにした。duAroは、それぞれの工具、治具に拡張アタッチメントを取り付けることで、まるで人が工具や治具を持ち替えて作業をするようにベースチャックで工具、治具を持ち替えながら作業を行うことができる(図7)。

図7 ベースチャック、拡張アタッチメントによる
ツールの持ち替え

また、一般的な単腕のロボットでは、作業対象のワークを定位置に固定するための位置決め治具、ワークの大きさに合わせた様々な種類のハンド等多くの周辺設備が必要であった。

一方、duAroは双腕であることを活かし、図8に示すように人が作業をするように一方の腕でワークを固定しながら他方の腕で作業を行う、両腕を協調して動作させることで汎用のハンドのみで様々な種類のワークの搬送を行う等、周辺設備の削減による導入コストの低減を可能にした。

図8 双腕を活かした組み立て作業(ねじ締め)

6)新ビジョンシステムの構築
duAroは、最新のコントローラを採用することで、ビジョン機能の内蔵化を可能とした。本システムは、従来必要とされていたビジョン処理専用のPCを廃し、ロボットコントローラのCPUを使用して画像認識による位置決め処理を行うことで、シンプルな用途に絞れば安価なシステムを提供可能である。

なお、より高度な画像認識処理が必要な場合は、従来の2次元ビジョンシステム「K-VFinder」を使用することが可能である(図9)。

図9 ビジョンシステム機能の比較

duAroシリーズの導入例

duAroによる生産システムとして、実際の現場に導入された事例を紹介する。これらは、duAroの特長を活かし、生産システムへの適用コンセプトを盛り込んで導入されたものである。

1)ねじ締め工程への適用
図8に示したねじ締め工程への適用について、本導入事例は「人とロボットの共存」がなされており、duAroは作業者と作業を分担している。

この工程では、duAroは元々その場にいた作業者に代わって導入されている。duAroは今まで作業者が使用していた電動ドライバーを把持し、片腕でワークを押えながらねじ締め作業を行うことで、位置決め治具等を減らしたシンプルなシステム構成を実現した。

また、作業時間についても、作業者が14 秒かかっていた作業を9秒で行うことができ、導入による費用対効果の面でも自働化のメリットを十分発揮することができた。

2)箱詰め工程への適用
箱詰め作業は、食品・医薬品・電気電子業界など様々な業界で行われている作業である。しかし、製品のライフサイクルが短く、数ヵ月単位でモデルチェンジを繰り返すため、都度改造が発生するなど費用対効果の観点から自働化が困難と考えられてきた。

本事例では、duAro2の特長の1つである長い上下ストロークを活かし、図10に示すように様々な大きさの箱を段ボールなどに詰めることが可能である。

図10 箱詰め作業

さらに、図11に示すように本システムでは段ボールの組立も行うことができるので、duAro2 1台で2役をこなし、さらなる省人化への貢献が可能である。

図11 段ボール組立作業

また、製品がモデルチェンジした場合でもハンドの調整とロボット動作の設定変更で対応可能であるため、十分に運用中のコスト低減が可能であり、高い費用対効果を発揮することができる。

3)おにぎりの番重詰めへの適用
duAroは食品業界からも注目を集めており、衛生面を担保するために、食品向けグリスを使用し、ロボット用クリーン服を着せることが可能な食品仕様の開発も行った。

食品業界では、労働人口減少や高齢化が問題となっており、自働化が急務となっているが、食品工場は、限られたスペースに多くの作業者と設備が並んでおり、機械を導入したくても導入できるだけのスペースがない。そこで、duAroの「省スペース」が注目を集め多くの引合いをいただいている。

たとえば、図12は上流より搬送されてきた手巻きの三角形おにぎりを番重に詰める適用を示している。本システムは現在の作業スペースと同等のスペースに導入することが可能となっており、今まで設備に携わっていなかった作業者も容易に触ることができるように、シンプルなシステム構成とともに、タブレットを用いて設定等ができるように工夫を施している。

図12 おにぎり番重詰め作業

4)お弁当のトッピング工程への適用
図13のように、本適用は食品仕様のduAro、ビジョンシステム、コンベア同期機能を用いた適用である。固定のビジョンカメラにより上流から流れるお弁当の形や位置を認識し、コンベア同期することで人作業と同じように流れるお弁当を追従しながらゴマやパセリなどの食材をトッピングすることが可能である。

図13 お弁当のトッピング作業

また、ビジョンによりお弁当を認識しているため、品種が変更された場合でも段取り替えせずにトッピング作業ができ、段取り替え作業にかかる時間や負担も削減できる。

さらに、duAroの特長である「人との共存」「省スペース」により、今まで作業者がいた既設のラインにそのまま導入することができ、人とロボットの共存作業が可能である。

今後の展開

日本の共存・協働ロボットの広がりは加速しており、duAroシリーズによる人とロボットが共存する生産システムは、今後の製造業等の労働力減少、高齢化に対する有効な対策となると考えている。

今後は、ロボット単体の使いやすさだけでなく、需要の多い適用に関してはシステム全体の使いやすさを追求したシステムのパッケージ化をさらに進めていく予定である。

これにより、システム導入までの期間をさらに短くし、すぐにお客様の工場等でご使用いただけるようにすることで、さらなる製造現場の自働化に貢献していきたいと考えている。

問い合わせ
川崎重工業株式会社
TEL:03-3435-2501
E-mail:robot@khi.co.jp
https://robotics.kawasaki.com/

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