リコーインダストリアルソリューションズ株式会社は、リコー独自の光学シミュレーション技術を活かしてFAレンズの高解像・高性能設計を実現させ、量産化に成功したことで、お客様に安心と信頼を持ってご使用いただける環境を構築してきた。
本稿では、リコー FAレンズのなかでも新開発となる5メガを超えたFL-5MXレンズと、高画素モデルである12M(1.1型)/9M(1型)レンズの紹介を踏まえつつ、そのキーポイントとなるメカニズム「フローティング・フォーカス機構」について紹介する。
リコーグループの沿革およびFAレンズを取り巻く環境の変化
銀塩カメラからデジタルカメラへ、アナログ複写機からデジタル複写機へ、1936年の創業から80年を超えてリコーグループで培われた技術は時代のニーズに即しながら表現方法を変え進化を続けてきた。
1970年代後半から自社での自動化設備の開発を開始。検査工程などに光学技術を活用しながら、マシンビジョンに関する技術ノウハウを蓄積してきた。2011年にはFAレンズに関する高い技術を所有していたPENTAXと協業を開始。
2014年6月には、新会社「リコーインダストリアルソリューションズ株式会社」を設立。リコーグループ内に分散していた光学、画像処理、電装などに関する技術や人材を集約して事業展開を図ってきた。
リコーのFAレンズは、マシンビジョン業界のニーズの流れに合わせて進化を続けながら、産業分野の発展に貢献し豊かな社会の実現を目指している。
FAレンズを取り巻く環境の変化としては、かつては人間が介在した検査や監視などに使う視認用としてのニーズが多かったが、今では、取得した画像に画像処理を施し、自動的に検査や判断ができる装置の入力手段として捉えられることが多い。
画像を取得するカメラは、小画素化・多画素化が年々進んでおり、それに対応するべくFAレンズにおける高解像のニーズも変化してきている。
マシンビジョン業界で求められるFAレンズとは?
FAレンズは幅広いアプリケーションに組み込まれている。FA/マシンビジョンとしては、デバイス、基盤実装、自動車、製紙/印刷、食品・薬品等のアプリケーションへの導入と幅広く利用されている。
さらに、セキュリティやインフラ監視、IoT、自動式ロボットや研究用途など、産業用途の枠にとらわれることなくさまざまな目的で使われているFAレンズは、多様な条件でストレスなく利用できるものであることが望ましい。
リコーは、どのような条件でも高いパフォーマンスを維持することですべてのお客様に一番に選んでいただけるFAレンズの開発を進めている。リコーFAレンズが採用されやすい理由としては、以下3つが挙げられる。
① 幅広いアプリケーションに対応する、画像周辺でも安定した検出
②幅広い撮影距離に対応
③ 個体ごとの性能差を最小化(「高性能レンズを成り立たせるリコーの技術について」を参照)
レンズに常に求められる性能は「原物を忠実に再現する像の正確さ」=収差の低減である。収差について、次で解説する。
収差とは?
レンズに求められる性能は、一言で言えば、像の正確さ(ボケの少なさ、歪みの少なさ、色にじみの少なさなど)である。求められる正確さは、その物の使われ方によって異なる。
たとえば、虫眼鏡で物を見るときのように人の目で見る場合であれば、ピントが甘い、形状が歪んでいる状態のように理想的で正確な像でなくてもある程度は気にならずに使うことができる。
ところが、FAレンズを使う状況では、センサで読み取り、画像にして検査に使ったり寸法を測ったりするので、高い正確性を求められる。特に一度の撮影で画面全体を見ることが多いので、画面全域で像の正確さが求められる場合が多い。
正確な像からのズレは、原理的に生じる収差から発生している。収差には、ザイデルの5収差と呼ばれるものと、色収差とがある。
レンズの正確性の向上に関しての研究、すなわち収差の低減に関する研究は、ガリレオガリレイの時代から続けられており、収差をできるだけ小さくするためにさまざまな方法が提案されている。
レンズの枚数を増やしたり、形状を工夫したり、材質を工夫することにより、収差の低減を図っている。ただし、球面のレンズでは収差をゼロにすることは原理的に不可能であり、製品仕様の範囲内に入れるように設計して、製品として使われているのが現状である。
高解像レンズを成り立たせる
フローティング・フォーカス機構についてレンズは画面の周辺に行くに従い色々な収差が大きくなる影響を受け、特性が落ちる。FAレンズでは、レンズを複数枚にして、周辺の特性も上げるように設計していく。
FAレンズの使用方法については装置に取り付けた状態で、対象物までの距離を簡単に変えられないケースが多い。物体までの距離が変わった場合は、特性は変化していく。
よって、ある狙いの設計距離の状態で、中心と周辺部の特性を良くしたとしても、物体までの距離が変わるとその状況が変わり、中心や周辺部の特性が悪くなったりする。
高解像で高性能なレンズを設計する場合、中心だけでなく、周辺までの特性を見ながら、かつ異なる距離での特性を見ながら設計する必要が生じる。このような状況を解決する手段の1つが、フローティング・フォーカス機構と呼ばれるレンズ構成である。
図1に一般的なフローティング・フォーカス機構の1例を挙げる。フローティング・フォーカス機構とは、被写体距離による収差の変化を抑制するために光学系の一部の間隔を変化させながらフォーカスする機構のことである。
レンズに要求される性能的な要求や重量、コストなどを考慮し、構造を決めていくことになる。本構造は、ピントを合わせるときに動かすフォーカス群と、移動しない固定群とを分けた構成となっている。
レンズ本体にあるフォーカスリングの回転部を回転させることで、フォーカス群のみを前後に動かし、対象物までの距離に応じてピントを合わせることになる(図2)。
フローティング・フォーカス機構採用レンズの強み
以下に、フローティング・フォーカス機構を採用した弊社製品の特性の1例を挙げる。
【ケース①:撮影距離別の解像度変化率】
図3のグラフは、物体距離250mmを基準として解像度の変化率を撮影距離別に比較したグラフである。青線はフローティング・フォーカス機構を採用している弊社新機種5MXレンズ「FL-CC3524-5MX」である。
オレンジ点線はフローティング・フォーカス機構を採用していない一般的なレンズである。250mm~400mmはマシンビジョンに最も組み込まれやすい撮影距離であり、フローティング・フォーカス機構を採用している弊社のレンズは自動車部品やウエハーの外観検査装置への導入にお客様からご好評いただいている。
一方、ケース②にて実施したとおり、フローティング・フォーカス機構採用レンズは、撮影距離を長くしても画像が劣化しない点が特徴のひとつである。
そのため、5m~50m遠くを撮影することが多いITS・交通監視やセキュリティ分野に適したレンズであることを確認できる。また、近接撮影でもその性能を発揮し、研究用途などに採用されている。
【ケース②】
以下に、実画像の比較の例を挙げる。撮影条件は次のとおり。
・ 使用レンズ:フローティング・フォーカス機構採用のRICOH FAレンズ/フローティング・フォーカス機構を採用しない他社FAレンズ(全体繰り出しタイプ)
・撮影距離:1,300mm
・ 被対象物:ラベルを画面の中央と画面の端部に置く(図4)。
・ ピント合わせの条件:画面の中心のバーコードラベルが認識できるようにピントを合わせる。
◎結果
端部画像の比較を図5~8に示す。図5~8のように、中心部でピントを合わせた場合でも、端部の画質が劣化していると、バーコードや文字の読取ができなくなる。弊社のフローティング・フォーカス機構採用のFAレンズは、このような画質劣化をできるだけ少なくなるように構成されている。
リコーのフローティング・フォーカス機構採用の高性能レンズ
新開発のFL-CC1218-5MX、FL-CC1618-5MX、FL-CC2518-5MX、FL-CC3524-5MXにおいては、フローティング・フォーカス機構を採用することで、JIIA(日本インダストリアルイメージング協会)が定める、高精細カメラ用レンズの性能等級・評価基準で、最高性能等級であるSランクの基準を満たしている。
また、設計中心以外の距離においても、弊社の定める製品特性規格をクリアしており、端部の画質劣化が非常に少ないレンズとして、良好な光学特性を確保している。高解像カメラ用レンズとして、自信を持ってお勧めできるレンズとなっている。
◆ 新製品 RICOH FL-CC1218-5MX、FL-CC1618-5MX、FL-CC2518-5MX、FL-CC3524-5MX(図9)(表1)
http://industry.ricoh.com/fa_camera_lens/lens/5m_mx/
◆ RICOH 12メガ(1.1型)/9メガ(1型)対応レンズ(図10)(表2)(焦点距離12mm、16mm、25mm、35mm、50mm、75mm)
http://industry.ricoh.com/fa_camera_lens/lens/9m/
高性能レンズを成り立たせるリコーの技術について
光学シミュレーション上で性能の確保は言うまでもなく、実機そのもので特性を出すため、リコーでは以下の技術を活用して高性能なレンズの市場提供を行っている。
1)経験と実績に支えられた光学シミュレーション技術
製品を成り立たせるために、最も重要な光学設計技術をリコーグループ内の他の製品などと情報共有し、常に新しい技術の導入を行っている。
また、解像力、ゴースト解析について、リコー独自のアルゴリズムを導入し、設計後の試作において実機における特性がシミュレーション通りになっていることを確認。
その結果をシミュレーションにフィードバックし、性能確保の技術をブラッシュアップさせ、技術を蓄積している。
2)量産時のばらつきを考慮した公差積み上げ技術
リコーでは、光学ユニットとしてのノウハウを詰め込んだ部品加工精度と歩留まりを考慮した部品公差積み上げシステムを構築している。自社開発のアルゴリズムに従い、部品単位で必要な精度を設定し、実物検証を行っている。
3)量産時の精密調整技術
従来から行っているレンズの精密加工と精密組立に加え、調整に関する技術を導入。リコーグループで生み出された精密調整技術を結集し、より高品質で均一な製品を作り出している。
リコーのFAレンズラインアップと選定のサポートについて
お客様の多様なニーズにお応えするため、現在リコーのFAレンズは、画素数はVGAから12メガピクセル、センササイズは1/2型から1.1型までのエリアスキャンレンズ、またラインスキャンカメラ用レンズやUV光に対応したレンズなど、多種多様なラインナップを取り揃えているため、システム構築の際にはお客様へのお役立ちができると考えている(図11)。
なお、被写界範囲(FOV)早見表はカタログ各ページから、簡易選定は以下のWEBサイトをご利用いただくことでお客様のお探しのレンズ選定が可能である。
■FAレンズカタログのダウンロードはこちら
https://industry.ricoh.com/-/Media/Ricoh/Sites/industry/fa_camera_lens/pdf/sougou.pdf
■FAレンズの簡易選定はこちら
https://www.ricoh-iosd.eu/en/MV-lens-selector.html
■ご購入・お見積りのお問い合わせはこちら
http://industry.ricoh.com/support/fa_camera_lens/contact.html
■問い合わせ
リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
TEL:045-477-1551
E-mail:sales@rins.ricoh.co.jp
https://industry.ricoh.com/fa_camera_lens/lens/
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