マシンビジョンにおける照明の役割と最新技術
照明の明るさ自動管理と予知保全

マシンビジョンシステムとは、照明、レンズ、カメラ、画像処理装置が組み合わさったシステムであり、そもそも光源からの光なくして画像処理は始まらない。

しかし、ただ照明で明るくすればうまくいくというものでもなく、照明の最適化がマシンビジョンシステムの成否を左右すると言っても過言ではない。本稿では、マシンビジョンにおける照明の役割と最新技術による明るさの管理について紹介する。

マシンビジョンにおける照明の重要性

画像処理を行うための元となる画像データは、照明とレンズによって光の明暗が決定づけられる。この光の明暗で認識したい内容を特徴付けられていなければ、いくら高度な画像処理を行なっても見えないものは見えない。

ここでの画像品質が、マシンビジョンシステム全体の性能を左右するのである。ではどうやって特徴量を最大化するのかというと、その多くが照明の役割となる。

通常はカメラと対象物の相対位置は固定であることが多いため、どんな照明でどの方向からどこに向かってどれくらいの強さで光を照射するかなど、様々な条件を最適化しながら、特徴量を最大化することを目指すことになる。これがマシンビジョンにおける照明の役割となる。

LED照明の課題

マシンビジョン用LED照明のさらなる性能向上のために、いくつか改善したい課題がある。

事例1 フィルムの印字検査

事例2 ピッキングのための中心座標確認

1)LED個々の明るさのバラツキ
ひとつは複数光源の集合であるがゆえの個々の明るさのバラツキである。原因のひとつはLED個々の光度のバラツキである。これにはLEDメーカが光度測定による選別を行い、ランクを設けることで同一ランク内でのバラツキ幅を小さくすることで対応している。

もうひとつは順電圧のバラツキである。LED照明は通常数個直列に接続し、これを複数並列で接続した回路で構成されている。順電圧のバラツキによりこの並列回路間で電流値の違いが生じ、結果明るさのバラツキとなっている。

2)温度変化による明るさの変動
LEDは点灯により発光層の温度が上昇し、温度が高くなるほど発光効率は低下する。特に赤色で顕著に低下する。これまではLEDチップから筐体までの熱抵抗を下げたり、筐体の表面積を増やすことで熱放射を増やして温度を下げる等の放熱対策を行ってきたが、満足のいく十分な効果は得られていなかった。

3)長期的な輝度劣化に対する明るさの管理
LEDの性能が向上し寿命も飛躍的に延びた。最近のLED単体では4万時間で30%の光度低下と言われている。マシンビジョンシステムでは照明が一定の明るさレベルを維持することで、画像処理の性能を担保している。

よって長期的な光量の低下には調光値の調整によってそのシステムを維持している。ユーザはシステム維持のための明るさ管理を避けて通ることはできない。

センシング照明による課題解決

こうした課題解決に向けて、オプテックス・エフエーが独自開発したLED照明が、センシングLED照明である(写真1)。

写真1 センシングLED照明

1)明るさ変動安定化回路「FALUX(ファルクス)」
先に挙げたLED個々の明るさのバラツキに対する対策として、順電圧にバラツキがあっても一定の電流が流れるように、照明に入力電圧依存型の定電流回路を内蔵した。これは入力電圧から各並列回路の電流を制御するカレントミラー回路により、それぞれ一定の電流が流れるようにするものである。

これにより並列回路間の電流バラツキがなくなり、個々のLEDに同じ電流が流れて明るさのバラツキもなくなる。 電流を一定にすることで明るさのバラツキはなくなるが、LEDの特性でもある自己発熱や周囲温度の上昇による発光効率低下の問題が残る。

赤色LEDでは温度による発光効率の低下が大きく、20%程度明るさが低下していた。温度による明るさ変動の解決方法として、照明に温度補償回路を内蔵した。これはLED照明の色ごとに異なる温度変動特性により、電流値の調整で明るさを補正するものである。

これにより温度による明るさ変動は1~2%程度となり、従来品比1/20まで変動を抑えることができ業界最高水準を達成している(図1)。これら入力電圧依存型定電流回路と温度補償回路をあわせて“FALUX(ファルクス)”と呼んでいる(特許登録済)

図1 FALUX有無の内部温度と明るさの変動

2)輝度管理と長期安定性
センシング照明は、照明にフォトダイオードを搭載してLEDの光をセンシングする回路を内蔵している。これにより自身の輝度をモニタリングすることが可能となる。さらにそのモニタ値からフィードバック制御により約4万時間もの長期の輝度安定が可能となる。

先に述べた「FALUX」の温度補償回路は時間軸として秒から分単位の変動を抑え、明るさを安定させるものであった。しかしLED照明は数万時間という長期にわたり使われるものであり、長寿命のLED照明とは言えLEDの劣化により4~5万時間で輝度は半減する。

この長期にわたる輝度の安定化を担うのが「FALUX sensing」である(図2)。「FALUX sensing」は次の3ステップによって実現される。

図2 FALUX sensing

➀センシング:照明に内蔵したフォトダイオードで輝度を測定
➁モニタリング:コントローラ側で輝度の測定値を取得
➂フィードバック:輝度の変動を電圧調整/PWM調整により安定化

照明の明るさをセンシングし、コントローラの表示パネルに輝度を表示することで、外部機器や測定器を用いずとも輝度をモニタリングすることができる。

さらには工場出荷時の明るさを維持するために、モニタ値が安定するよう自動的に出力電圧を調整するフィードバック制御が可能となる。これにより長期の使用でも輝度の変動を1%程度に抑えることができる。

また、フィードバック機能は長い延長ケーブル使用時の電圧降下による輝度低下を補正することにも有効に作用する。

「FALUX」が内部温度パラメータによる静的制御とすれば、「FALUX sensing」は複数のパラメータの変動による輝度変化を、フィードバックにより安定させる動的制御と言える。

照明は従来どおりの2ピンのコネクタを採用し、この2線により電力供給とデータ通信を行う電力線通信を実現している。

照明の予知保全がIoTで可能に

LED照明の輝度をリアルタイムでモニタリングができるということは、照明の明るさの継時変化を見える化することができるということである。LEDは長年の使用により劣化し、輝度が落ちてくる。

従来、この状態では画像の明るさが足りず、NG判定としていたが、輝度のモニタリングが可能になることで照明の交換時期の予知・保全が可能となった。

特に、当社の照明コントローラOPPD-30Eは、業界で唯一、イーサネット通信で照明の明るさを外部モニタリングすることが可能なため、IoTツールの1つとしてパソコンやPLCと通信し、画像検査装置の予知保全を可能にした。

このような機能と標準価格で39,800円(税別)という高いコストパフォーマンスが評価され、本製品はロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)が主催する「中堅・中小企業向けIoTツール募集イベント」において、「OPPD-30E」が「スマートものづくり応援ツール」に、「センシング照明とOPPD-30E」が、「スマートものづくり応援レシピ」にと、2年連続で選出され、業界では初の選出となった(写真2)。

写真2 LED照明コントローラ「OPPD-30E」

センシング照明のラインナップと新製品

当社のセンシング照明は上述の「FALUX」ならびに「FALUX sensing」を搭載した照明で、マシンビジョンにおいて利用頻度の高いバー照明に始まり、リング照明、スポット照明、バックライト照明、同軸照明、と市場のニーズに合わせてラインナップを増やしてきた。

そして、2018年12月の国際画像機器展において参考出品という形ではあるが、曲面形状の拡散板を搭載し様々な角度の光を照射できるマルチリング照明と均一照射に適したドーム照明を新たにラインナップに追加した。これによってマシンビジョンで一般的に利用される照明形状は一通り揃ったと言える。

1)【新製品】センシングマルチリング照明 OPMシリーズ
近距離設置では、ローアングル光照射でエッジ・キズ抽出、遠距離設置ではハイアングルからの均一光照射で各種外観検査や印字検査に利用できるマルチユースのリング照明である(写真3)。

外径φ 116mm、内径φ 66mmの OPM-S100 □(□:照明色。W(白)・B(青)・R(赤))を2019年3月発売予定。サイズ展開は順次。

写真3 センシングマルチリング照明「OPMシリーズ」

2)【新製品】センシングドーム照明 OPDシリーズ
ドーム形状の拡散面に光を反射させ、均一な拡散光を照射できるドーム照明。R形状や凹凸面でも影のない画像を取得でき、外観検査に有効である(写真4)。 

OPM シリーズと共通筐体を採用し、外径φ116mm、内径φ66mmサイズのOPD-S1000□(□:照明色。W(白)・B(青)・R(赤))を2019年3月発売予定。サイズ展開も同様に順次。

写真4 センシングドーム照明「OPDシリーズ」

おわりに

本稿ではマシンビジョン用照明の役割とライティング技術とともに、最新の動向としてLED照明のセンシング技術について述べた。 マシンビジョンにおける照明の役割は、単に明るくするためのものではなく、特徴抽出のために最適な画像を撮像するためのキーファクターであり、マシンビジョンシステムの成否を分ける。

ライティング技術とは、アプリケーションの目的を正しく理解し、経験と最新の知見から、お客様の要求に対して最適な照明条件を提示するものである。

最新の技術として「FALUX」によるバラツキの補正や温度補償回路での輝度安定化と、「FALUX sensing」による長期的な明るさ管理を紹介したが、今後も当技術に対応したセンシングLED照明のラインナップを順次増やしていくとともに、お客様に対してさらなる価値を提供していく。

※映像情報インダストリアル2019年1・2月号より転載

■問い合わせ先
オプテックス・エフエー株式会社
TEL:075-325-2922
E-mail:fa@optex-fa.com
URL:https://www.optex-fa.jp/

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