画面周辺部まで均一な高い解像性能を実現する
マシンビジョンカメラ用レンズ 「FUJINON HF-12Mシリーズ」の紹介

富士フイルムは、製造ラインの製品検査や計測などで使用するマシンビジョンカメラ用レンズの最上位シリーズとして、2/3型センサ・2.7μmピクセルピッチに対応し、多様な設置条件下で画像の中心部から周辺部まで均一な高い解像性能を実現する「FUJINON HF-12Mシリーズ」(以下、「HF-12M」)を2016年6月に発売した。本稿ではその性能を実現するテクノロジーについて紹介する。

1.開発経緯

 近年、製造現場では、マシンビジョンシステムにより画像を認識し、対象物の位置決めや計測、検査などを自動で行うのが一般的である。

マシンビジョンシステムの需要は、製造ラインの自動化や省人化の進展により、ますます伸長していくと予想される。製品の生産効率向上や厳格な品質管理に対する要求が従来以上に高まっているなか、マシンビジョンシステムの画像認識精度や処理速度のさらなる向上が求められている。

このニーズに対応するため、マシンビジョンシステムに搭載するカメラの「大型センサ化」、「高画素化」、「高フレームレート化」が進んでいる。

一方、画像情報の入り口となるレンズには、システムの認識精度を確保するため、画像周辺部まで均一な高い解像性能が要求されており、そのニーズに合わせた製品を開発した(図1)。

図1 FUJINON HF-12Mシリーズ

2.最上位シリーズにふさわしい高い光学性能

「HF-12M」シリーズは、画面全域で2.7μmピクセルピッチ(2/3型センサ・8メガピクセル相当)に対応し、安定的な寸法検査・外観検査に寄与。

特に、お客さまの使用頻度が高い絞り値F4かつ撮影距離50cmの場合には、アイリス(絞り)をレンズ鏡筒部に印されたオレンジ色のF4指標に合わせることで、画像全域に渡って、2.1μm ピクセルピッチ(2/3型センサ・12メガピクセル相当)よりも高い解像性能が得られ、マシンビジョンシステムの認識力向上に貢献する高性能固定焦点レンズである(図2)。

図2 レンズ鏡筒部に記されたオレンジ色のF4指標

3.フジノンレンズ独自の高解像性能『4D High Resolution』

 一般的なマシンビジョンカメラ用レンズでは、撮影距離や絞り値を変更することで解像性能が低下するという課題があった。

「HF-12M」シリーズは、フジノンレンズ独自の高解像性能『4D High Resolution』を実現。画像の中心部から周辺部まで高い解像性能を保持し、さらに、撮影距離や絞り値の変更に伴う解像性能の低下も抑制する。

これにより、幅広い設置・撮影条件下で一貫して高解像な画像が得られる。『4D High Resolution』は、3つのテクノロジーに支えられている。高い解像力を維持することは、収差との戦いである。

3.1 フローティング設計技術~撮影距離変化による解像力低下の抑制~
 レンズ設計において、最もよく使用される撮影距離内の1点または2点の撮影距離を設計の「基準距離」とし、その距離で解像度がベストとなるよう、収差(色ずれ・周辺ボケ・歪み)補正の最適なバランスが考慮され、レンズ構成が決定される。

従来の設計技術では、基準距離では理想的に収差が除かれていても、ほかの撮影距離では収差が発生し解像力が低下する懸念があった。特に広角系レンズでは原理的に像面湾曲収差(周辺ボケ)が発生しやすいという問題があった(図3)。

図3

「HF-12M」シリーズは、全撮影距離にわたって収差を抑制する『フローティング効果をもたせた設計(フローティング設計)』を採用。レンズ構成を前群と後群に分割し、後群のみを移動することによって、フォーカス合わせを行っている。

この移動はレンズ構成全体からみた場合、撮影距離によってレンズの間隔が異なることになるため、あらかじめこの点を考慮した設計としフローティング効果を持たせている。それにより、撮影距離が変化しても解像性能を最大限に保持する。

3.2 高精度組立技術~画面周辺部まで均一な解像力を保持~
 レンズ製造工程において、レンズ同士の中心部分(芯)がずれていると、目指した性能が発揮されないため、製造過程においてレンズの芯を、ミクロン単位で抑えることが重要である。

「HF-12M」シリーズは、富士フイルムのレンズ製造技術を結集した検査装置を用い、レンズ本体全数で、組み立て時のレンズ玉の芯の偏りを検出し、ミクロンレベルの精度で組み立てを行うことで、画像周辺部まで均一な高解像性能を実現している(図4)。

図4

ここには、高次元で均一な品質が要求される放送用レンズの高精度技術を、携帯用カメラモジュールなどの小型レンズ生産に組み込んだ、当社独自の製造ノウハウが活きている。

3.3 硝材マッチング技術(独自の光学設計ソフト「FOCUS」)~絞り値変動による解像力低下を抑制~
絞り値を変えた際に解像度が低下する主な原因となっているのが、「倍率色収差(色ずれ)」である。光は波長(色)ごとに屈折率が異なるため、色によって結像する位置のずれが発生する

その結果、画面の端の方で色がずれてしまうという問題が起きてしまう。この色ずれを抑制するためには、レンズ材料(硝材)の組み合わせが重要である。

一般的な硝材では、光の三原色であるRGB(赤・緑・青)のうち2色しか補正できないが、異常分散性が高い特殊な硝材を用いることで、すべての色を高次元に操ることが可能となる。

「HF-12M」シリーズでは、色ずれを抑制するため、異常分散性の高い特殊な硝材を採用し、絞り値を変えても高い解像性能を実現している。

富士フイルムのレンズ設計は、独自開発の光学設計ソフト『FOCUS(Fujifilm Optical Class Library and Utility System)』を用い、無限にある硝材の組み合わせからシュミレーションし、最適な硝材を決定している。

70年以上にわたりレンズ開発を行ってきた富士フイルムの英知がここに凝縮されている(図5)。 

図5

なお、「HF-12M」シリーズに採用されているフジノンレンズ独自の高解像性能『4D High Resolution』は、2017年2月に新たに発売した「HF-XA-5M」シリーズ(焦点距離は6mmから35mmまでの計6モデル)にも採用されている。

「HF-XA-5M」シリーズは、「HF-12M」シリーズよりも、よりコンパクトな外径サイズを実現しており、世界各国のお客さまから好評を得ている(図6)。

図6 HF-XA-5Mシリーズ

4.設置時の作業性・高信頼性の追求

「HF-12M」シリーズは、超高解像レンズでありながら、全5種で、外径寸法φ33mmという世界最小・最軽量のコンパクトサイズを実現しているため、設置スペースに限りがある現場でも柔軟に対応するであろう。

一般的なマシンビジョン用レンズで採用されるアイリス・フォーカスの固定用つまみは、レンズ外径からネジ部分が突出しているため、システムの設置・設計に制約があった。「HF-12M」では、従来の固定用つまみに加え、つまみのない小型ネジを同梱。

これを使用すれば、レンズ外形からネジ部分が突出せず、システムの設置・設計自由度の向上に寄与する(図7)。さらに、レンズ本体は、耐久性・堅牢性を考慮し、金属鏡筒を採用している。

図7

なお、「HF-12M」シリーズは、5種類の焦点距離を同じ鏡筒サイズに収めるという難しい光学設計を実現した点、金属部品を用いた信頼感や高い質感、さらに認識しやすい表記などの高い完成度が評価され、2016年度「グッドデザイン賞」を受賞した。

5.業界トップクラス0.05%以下の低ディストーション設計

独自の光学設計により、寸法計測などの精度が要求される用途で問題となるディストーションを徹底的に抑制。業界トップクラスの0.05%以下の低ディストーションを実現。高精度ガラスモールド非球面レンズを採用し、小型化と低ディストーションを両立している。(※HF1618-12Mの場合)

6.おわりに

富士フイルムは、長年培ってきた光学技術や精密加工・組み立て技術により、放送用レンズや監視カメラ用レンズなど、高画質デジタル時代に対応したレンズを幅広く提供している。

今後、さらなる成長が見込まれるマシンビジョン分野においても、幅広い設置・環境下で一貫して高い解像性能を実現する豊富なラインナップでお客さまのニーズに応えていく。

問い合わせ
富士フイルム株式会社
TEL:048-668-2152
http://fujifilm.jp/business/material/cctv/

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