昨今、自動車業界では100年に一度の大転換期を迎えようとしている、と言われている。ガソリン・ディーゼル車から電気自動車へ、手動運転から自動運転へ、環境に配慮し交通事故に無縁のクルマが登場する未来はそう遠くないかもしれない。
ますます加熱する自動車開発現場に必要とされる映像技術とは如何なるものか、ナックイメージテクノロジーが提案する技術や付加価値を本稿にて紹介する。
はじめに
1769年にフランスで世界初の蒸気で走る自動車が誕生してから今年で250年、今では自動車は人々の日々の生活に欠かせないものとなっている。現在、世の中に広く普及しているガソリン自動車が誕生したのは1885年ごろのこと。
奇しくもガソリン自動車と同時期にハリウッド映画が台頭し、黄金期のハリウッド映画に登場する自動車たちは世界中の人々を魅了していった。
自動車の技術発展に伴う映像技術の活用も同様の関係であり、現在に至るまでの設計・開発工程における映像技術の用途は多岐にわたる。
衝突安全試験に代表される車体の開発ではリアルワールドでの事故の多様性からさまざまな法規が定められ、実験時に高速度カメラを使用することも法規に盛り込まれている。
また最新の素材を用いた車体の軽量化や燃費の向上といった開発の場面でも、一瞬の現象を解明するために映像技術を用いることは少なくない。
昨今話題となっている自動運転や乗り心地の研究においても、乗員の生体データを詳細に解明するために、視線や動作といった情報を映像を用いて紐解いていく事例が増えてきている。
ここでは最新の自動車開発に活用される映像技術として、科学技術の発展に映像で従事し続けるナックイメージテクノロジーの製品を紹介する。
高性能・マルチカメラヘッドシステム「MEMRECAM MX」
「MEMRECAM MX」(以下、MX)の開発コンセプトは小型カメラの高解像度化であるが、このカメラシステムには使い勝手の良さといった魅力がある。
「MX」のシステムでは無線LANでの通信を採用しており、市販のタブレット端末で撮影条件の設定から簡易的な映像解析までを行うことが可能である。
従来の計測用高速度カメラとは異なりリモートでカメラの設定を行うことができるため、広大な試験場で天井や地下などの人の手が届きにくいエリアにカメラを設置する場合や、エンジンベンチなどの人の立ち入りに制限がある条件でも、スムーズに試験準備を行うことができる。
「MX」に接続可能なカメラヘッドの1つである「M-CamMFT」(図1)ではマイクロフォーサーズシステムのレンズマウントを採用しており、規格に合ったレンズを装着することでズーム・フォーカス・アイリスの電動制御が行える。
デジタルカメラさながらのオートフォーカス機能にも対応しており、タブレット端末の画面内の任意のエリアをタップすることでピント調整が完了できるこの機能は誰でも一様な撮影を可能にし、試験の効率だけでなく再現性の向上にも役立てられる。
タブレット端末で「MX」のシステムを制御する専用ソフトウェア「WebPanel」には撮影準備の際に有効な機能も多く、ピーキング(ピント調整支援)やゼブラ(露光過多表示)などの機能(図2)を使用することで、撮影に不慣れな初心者の方でも熟練者の方と同様な撮影が可能である。
「WebPanel」は専用アプリケーションではなくブラウザで使用できるため、タブレット端末のOS更新などでアプリケーションを入れ直す手間が減ることも魅力の1つだ。
「MX」にはシステムの使い勝手の良さという魅力のほかに、使用用途に応じてカメラヘッドを選択し、撮影手法をカスタマイズできるというメリットもある。
現在のカメラヘッドのランナップは上述した「M-CamMFT」のほかに、Full HD解像度と耐衝撃性能をもつ「M-Cam」と小型・耐衝撃性能の「M2-Cam」の3種類だ。
今後はより小型なカメラヘッドをラインナップに追加し、「MX」のカメラシステムで複合的な試験ニーズに対応していく予定だ。
ハイエンドカメラと画像解析
自動車開発で高速度カメラが普及した当時は記録媒体がフィルムであり、ユーザーが見たい現象が撮影できただけで喜ばれたものであったが、カメラの技術が進歩した現代では現象を撮影できることは高速度カメラにとって当たり前のものになりつつある。
そんな現代の高速度カメラに求められていることは、より高精細・高感度で現象を撮影できることであると言える。
ナックイメージテクノロジーの最新高速度カメラ「MEMRECAM ACS-1」(図3)(以下、ACS-1)は、現代のユーザーの要望に応えるべく全く新しい設計・開発コンセプトで生み出された、次世代の高速度カメラだ。「ACS-1」の特筆すべき項目は以下の4点である。
①【超高速度】 100万画素(1,280×800pixel)40,000コマ/秒
②【超高感度】ISO50,000(モノクロモデル)
③【高画質】ハイダイナミックレンジ
④【大容量メモリ・高速データ通信】 最大256GBメモリ搭載、USB3.0B標準搭載
自動車エンジンの開発における燃焼試験や車体の軽量化用途での溶接といった撮影対象が自発光している現象を撮影する場合、カメラの解像度や感度といった項目の他に明るい部分から暗い部分までの再現領域=ダイナミックレンジが撮影データの精度を左右する重要な項目となる。
日本の自動車メーカーを中心に次世代のガソリンエンジンで注目されているリーンバーン(希薄燃焼)技術では、被写体となる輝炎が通常の燃焼よりも微弱なため、カメラ側の感度やダイナミックレンジは撮影を行う上で必須な仕様となりつつある。
また金属積層やレーザー切断などは現象が高速となるため、10万~50万コマ/秒の時間分解能が必須となる。
上記のテーマは自動車の運転性能を左右する上で非常に重要なポイントであり、「ACS-1」は各メーカーの要求を満たす画期的な高速度カメラであると言える。
また上記の計測テーマでは現象の撮影だけに留まらず、撮影データから解析を行い、解析結果が自動車開発にどう活かせるかが重要視される。
ナックイメージテクノロジーでは高速度カメラの開発だけではなく、自社で解析ソフトウェア(図4)の開発も行い、撮影から解析までのトータルサポートを行っている。
解析ソフトウェアの種類は、エンジン燃焼や溶接向けの温度解析、排気や冷却機構・風洞試験向けの流体解析、エンジン駆動の効率化向けの油膜厚さ解析、材料の疲労や破壊試験向けの歪み解析、物体の変位量や移動速度を計測する動作解析など多岐に渡る。
ナックイメージテクノロジーでは高速度カメラと解析ソフトウェアを自社開発しているため、客先のニーズに応じて最適な組み合わせの提案が可能である。
一部のテーマにおいては客先の要望に応じた特注対応なども行っており、今後も開発の現場に寄り添った製品開発を継続していく所存である。
交通事故ゼロ化と視線計測
昨今の自動車メーカーのCMを見ていると必ずと言っていいほど目にするのが、「交通事故ゼロ」というスローガンである。
これは自動運転やコネクテッドカーといった技術の先にあるテーマであり、自動車メーカーが掲げる最終ゴールの1つであるとも言える。
上記の技術を解決する方法の1つとしては車に搭載するレーダーやカメラを高度化し衝突そのものを回避するといった取り組みがあるが、別の方法としては運転手がもつ人間反応のデータを収集し自動車側に反映させるといった取り組みも存在する。
上述の人間反応とは運転手の表情や動作といったものであるが、この章ではナックイメージテクノロジーの製品の1つである「アイマークレコーダ」を取り上げて視線計測について紹介を行う。
「アイマークレコーダ」は映像技術の事業に取り組むナックイメージテクノロジーが開発した、アイトラッキングシステムの製品である。
「ヒトはどこを見ているのか?」に着目した本製品は、モバイル性がコンセプトの「EMR-9」(図5)と、非接触でキャリブレーションが不要の「EMR ACTUS」(図6)の2種類が存在する。
先だって例に挙げた自動運転のテーマではシステムに運転手のデータを反映させるため、運転手がコーナリング時にどのように進入コースや白線を認識するか、前方車との接近時に運転手がどのような反応をするかを計測する用途で視線が用いられている。
このような計測は自動運転のテーマだけではなく運転時の快適性を評価する場合にも行われており、心拍や発汗などの生体データと視線情報を紐付けして計測する事例も多い。
またコネクテッドカーは車―車間で情報通信を行い死角などから車両が接近した場合にも事前に通知するシステム構想だが、予防アラートをどのように・どこに表示すれば運転手に確実に伝わるのかを評価するためにドライビングシミュレータなどで視線計測器が用いられている。
最近ではサイドミラーの代わりにカメラを搭載した車両も登場しているが、自動車内装メーカーなどではどの位置に表示機器を設置するのが最適かを評価する目的で視線計測を行っている事例もある。
「アイマークレコーダ」の運用に併せて解析ソフトウェア「EMR-dTarget」(図7)を用いて定量解析を行う提案も好評だ。
「アイマークレコーダ」では装着者の視線を把握することはできるが、機械学習や傾向分析などを行いたいユーザー向けには「EMR-dTarget」が有効である。
「EMR-dTarget」では計測データの注視時間と相対瞳孔径をもとに注視対象のサムネイルを自動で抽出することができる。解析データは簡便にヒートマップ表示や複数人の比較を行えるため、ビッグデータの収集も容易に行える。
自動車開発の歴史の中で大改革とも呼ばれる「交通事故ゼロ」のテーマを前に、改めて人がもつ視線のデータを役立ててはいかがだろうか。
動作解析と筋骨格解析
前章で記載した自動運転のシステムが発展すると、「交通事故ゼロ」の他に車室内の空間が大きく見直されると言われている。
運転というシステムが不要になることで運転席・助手席といった概念がなくなり、座席の構造が変わる可能性がある。
また車が運転不要の移動手段となることで使用者の高年齢化も見込まれ、乗り降りを含めて車体構造が今とは全く異なったモデルになることも想定される。
ナックイメージテクノロジーが販売する「MAC3D System」(図8)は計測対象につけたマーカの3次元位置を、リアルタイムに計測するモーションキャプチャシステムである。
同システムはスポーツ・バイオメカニクス・ロボティクス・VRと幅広い分野で活用されているが、自動車開発の分野では乗降時や運転時の動作計測で用いられている。
自動車メーカーやシートメーカーでは、乗員の乗り心地を向上させ運転時の負担を軽減するニーズがあり、「MAC3D System」に併せて筋骨格解析ソフトウェア「SIMM」「nMotion musculous」(図9)を用いて計測対象の動作時の負荷解析を行っている。
「MAC3D System」は複数台のカメラ(図10)で計測エリアを撮影し、エリア内の被写体に貼られたマーカ位置をリアルタイムで認識してデータの記録を行っている。
計測開始時に被写体のモデルを作成しておくことで、シートなどに座ってマーカが隠れてしまう場合にもマーカ同士の補完が可能である。
シート内に埋め込んだフォースプレートと同期させることで動作と反力をリンクさせ、乗降・ブレーキング・パーキング時の動作負荷を計測するなどの事例もある。
前段の筋骨格解析ソフトを用いることで、高齢者の乗降時や走行時の筋力負荷を計測することも可能だ。「MAC3D System」では使用用途に応じて複数のラインナップからカメラを選択することができる。
自動車の車室空間内に設置するのであれば小型カメラの「Kestrelシリーズ」が適しているが、高速度撮影に適した「Raptor-12HS」は人体だけでなく物体の計測にも用いられる。
ハイサンプリングレートで計測が可能な同モデルは車体・エンジン・部品等の振動計測向けの運用が可能で、特定のパーツの振動状態や物体表面の歪み情報などを計測できる。
「Raptor-12HS」は1,250万画素のセンサも搭載しているため、解析の精度も大幅に向上できる。上記の特長以外にも「MAC3D System」では非接触の位置計測も可能なため、接触型の位置測定器で計測が行えない場面でも有効である。
マーカレスモーションキャプチャシステム「THEIA」
「THEIA」(図11)も、上述の「MAC3D System」と同様にモーションキャプチャのためのシステムであるが、最大の特徴はマーカという器具を装着することなく、映像だけで動作計測が可能なシステムということだ。
複数の方向から被験者の動作を撮影した映像を使い、人工知能の深層学習を用いて、骨格と関節中心を自動抽出する。
屋内・屋外を問わず計測が行え、高速度カメラの映像にも対応しているため、衝突試験時のダミーの状態などを3次元計測することも想定される。完全非接触で計測が行えることが、本システムの最大の魅力だ。
おわりに
近年、映像関連の製品の技術は飛躍的に進歩を遂げている。4K解像度の放送が開始されたことで日常的に高解像度の映像を目にするようになり、カメラ製品はますます安価になったことで誰もが手軽に映像機材に接することができるようになった。
これからの映像機器は撮影性能だけでなく操作性やデータ通信性能なども機器選択のキーポイントとなることが想定され、また撮影から解析まで映像の使用用途が多様化すると思われる。
ナックイメージテクノロジーは自動車衝突試験の黎明期から映像技術の提案を行い、計測ニーズに応じた製品の開発を行ってきた。
今後も自動車開発現場の運用を見据えてあらゆる要望に耳を傾けながら、自動車技術開発のさらなる発展に貢献していきたい。
■問い合わせ
株式会社ナックイメージテクノロジー
TEL.03-3796-7900
E-mail:keisoku@camnac.co.jp
https://www.nacinc.jp/
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