幅広い分野で注目されている近赤外線波長を使った検査は、人間の目では見えない波長域を活用するため、カット・アンド・トライを繰り返しながら有効な波長域を見極めているケースが多い。
将来性のある本市場を活性化させるためには、目的とする波長域を効率良く見極めて検査システムを立ち上げる必要がある。本対応のために、ここではハイパースペクトルカメラを活用した分光分析から近赤外線波長を最大限に活用する検査システムの構築までを紹介する。
“可視波長域で見えないものを可視化する”新しい検査手法
近年、可視波長域のカメラを使った画像検査の進化は著しく、生産現場での品質管理から出荷製品のトレーサビリティ管理などの様々な用途で使われており、日常生活のありとあらゆる部分にマシンビジョンと呼ばれるカメラを使った画像検査が入り込んでいる。
これらのカメラを使った画像検査は、主に人間が目で見ている可視波長域の画像を高速処理や高精細処理するために使われているケースが多いが、光の波長域には人間の目では見えない範囲もあり、それらの波長域を使うことにより、これまでの可視波長域での画像検査では実現できなかったような付加価値の高い検査を実現できる可能性がある。
今回、紹介する内容は可視波長域(0.4~0.8μm)より、少し長い波長域(0.7~2.5μm)となる近赤外線波長を使った新しい検査手法であり、“可視波長域で見えないものを可視化する”というキーワードを基にした当社の取り組みを具体的な参考事例を交えながら紹介する(図1、2)。
分光分析の重要性
近赤外線波長を使った新たな検査手法を実現するためには、まず始めに検査対象が近赤外線波長域内でどのように映るかを知ることが重要となる。
世の中にある物の1つ1つにはそれぞれ固有の反射・透過・吸収・放射という光の特性があり、近赤外線波長を使った検査を実現するためには検査対象が近赤外線波長域内で何かしらの光特性をもっている必要があり、そのような特性をもっていれば人間の目で見ている内容とは異なる検査を実現できる可能性がある。
逆に言うと、検査対象が近赤外線波長域内に光特性をもたない場合には近赤外線波長を使った検査では有効な結果を出すことができないということになる。よって、近赤外線波長を使った新しい検査手法を検討/実現するためには、検査対象の光特性をしっかりと把握することが非常に重要となる。
この作業が“分光分析”であり、分光分析により得られる光の特性が“スペクトルデータ”となる。このスペクトルデータにより、0.7~2.5μmの近赤外線波長域を使った検査手法の有効性を事前に確認することが可能となり、さらに具体的に狙うべき波長帯域も絞り込むことが可能となるので、分光分析は非常に重要な要素となる。
ハイパースペクトルカメラ
前項で説明したとおり、近赤外線波長を使った検査を効率良く検討/実現するにはこのスペクトルデータの事前確認が必要不可欠となる。しかしながら、スペクトルデータに関する情報自体が非常に少ないために、ユーザが検査対象のスペクトルデータを事前に把握できないケースが多い状況である。このような理由から当社は、撮影処理と一緒にスペクトルデータも取得可能となるハイパースペクトルカメラも用意している(図3)。
ハイパースペクトルカメラは近赤外線カメラで取得する2次元の位置画像に対応した光の特性(分光情報)も一緒に取得することが可能となるため、ハイパースペクトルカメラで取得したデータを用いることで検査対象のもつスペクトルデータを理解することができ、スペクトルデータを基に最も効率的な近赤外線波長を使った検査システムの構築が可能となる。
また、ハイパースペクトルカメラを使うことにより、撮影エリア全体における各組成分布も把握することが可能となり、可視波長では得ることができない近赤外線波長による特有な情報を基に目的に応じた効率的な後処理が可能になると考える(図4)。
近赤外線カメラの能力を最大限に活かすためには検査対象のスペクトルデータを把握することが必要であり、ハイパースペクトルカメラを使った分光分析の必要性は今後さらに増すものと考えている。
当社が用意しているハイパースペクトルカメラはフレームレートが比較的速いために、これまでのオフライン分光分析だけではなく、ハイパースペクトルカメラを稼働ライン上に設置するようなインライン分光分析にも使えるケースがあると考えている。
近赤外線波長の活用が期待される分野
食の安全が重要視される食料品分野では、人間が目で見ている可視波長域だけの検査対応では限界があるため、“可視波長域で見えないものを可視化する”というキーワードを基に近赤外線波長を使った取り組みに関する引き合いが急激に増えており、成功事例などからも今後このような取り組みはますます増えるものと考えている。
近赤外線波長を使った検査手法は物1つ1つ固有の反射・透過・吸収・放射という光の特性を利用した検査が可能となり、可視波長(見た目だけ)では検査が困難であった無色透明の水分検知や製品と異物が同色の異物混入問題などでも大きな効果が期待できると考えている。
ここでは、近赤外線波長を使うことにより、どのようなことが実現できるかを近赤外線波長の代表的な特徴となる透過特性を活用した“パッケージ内部検査”と“かみ込み検査”の検査事例を紹介する。
1)パッケージ内部検査
異物混入問題を防ぐためには、ユーザが手にする最終形状で検査をすることが理想的であるが、実際にはクッキー製品などで多いように1つ1つが色の付いたパッケージで個包装されており、食べる直前まで中身の状態を確認することができない状況である。
このパッケージを開けなければ中身の検査はできないという認識は可視波長で検査を行った場合であり、ここで検査手法に近赤外線波長を取り入れることにより、パッケージ素材によっては個包装状態のままで中身の検査を行うことが可能となる。
個包装の素材はポリプロピレンなどのプラスチック系が使われているケースが多いが、このポリプロピレンなどのプラスチック系は近赤外線波長の透過特性を使うことにより、個包装されたままで中身の検査を行うことが可能となる。
この検査手法の効果は非常に大きく、可視波長では実現することができなかったユーザが手にする最終形状(個包装のまま)で検査が可能となるため、品質面の向上は当然のことながら本検査の画像データをそのまま記録することにより、出荷記録管理も合わせて行うことが可能となる(図5)。
近年、様々な分野でトレーサビリティ管理の要求も増えてきているため、品質面の向上と出荷記録管理を両立できる近赤外線波長を使った本取り組みとして、当社は近赤外線カメラと長時間記録ソフトウェアを組み合わせた提案も行っている。
2)かみ込み検査
食料品分野で問題となることが多い事例の1つに、かみ込み不良がある。かみ込み不良とはプラスチック系のパッケージにクッキーなどの商品を入れた状態で密閉処理するために熱溶着を行った際に熱溶着した部分にゴミや商品の一部(クッキーのカスなど)が入ってしまい、密閉不良などの問題が発生することである。可視波長の検査ではパッケージを透過させることができないため、色の付いたパッケージでかみ込みの検査を行うことは難しい。
また、パッケージの色が薄く中身が透けている場合でもパッケージの色とかみ込み対象の色が近い場合には差分が現れず、かみ込み不良を見つけることは難しい状況である。ここで検査手法に近赤外線波長を取り入れることにより、物1つ1つの組成により異なる光の特性(ここでは吸収特性を使う)を可視化することが可能となり、熱溶着した部分にかみ込んでいるゴミや商品の一部だけをとらえることも可能となる。
前項で説明した近赤外線波長の透過特性と本項の吸収特性を組み合わせることにより、パッケージを透過させながらかみ込み部分だけを可視化してとらえることが可能となるため、ゴミや商品の一部がかみ込むことにより発生する密閉不良などを高い確率で見つける仕組みを実現できると考える(図6)。
かみ込み検査に関しては専用の検査アプリケーション“粉名人”を用意しているため、事前の簡易実験からライン設置までの具体的な提案をスムーズに行うことが可能である。
近赤外線波長を使った検査システム構築について
近赤外線波長を使った新たな検査手法は、可視波長だけでは検査が困難であった内容も実現できる可能性があるため、今後様々な分野への導入が加速するものと思われる。
しかしながら、近赤外線波長を使った検査はわれわれが普段目で見ている内容とは異なる特性を活かした検査手法となるため、検査システムの構築には注意すべき点がいくつかあると考えている。
当社はカメラメーカとしての目線を活かしながら、検査システム構築のお手伝いをしたいと考えている。まず1つ目は、物それぞれがもつ固有のスペクトルデータを事前にしっかり把握することである。
狙うべき波長帯域が絞り込めていない状況では、近赤外線波長を有効に使った検査システムの構築は不可能となる。この点に関しては当社ハイパースペクトルカメラを使うことにより、事前に検査対象の分光分析を行い、その分光分析データを基にカメラ選定からシステム構成までの提案が可能となる。
次に注意すべき点は、近赤外線カメラに搭載しているInGaAsセンサは可視センサに比べて感度が弱いということを理解した上で、システム全体として必要な感度を得られるようなシステム構築を行う必要がある点である。
カメラ製品に関しては当社で開発/製造している6モデル(0.9~2.55μm波長帯域内でエリアセンサカメラを3モデルとラインセンサカメラを3モデル)を用意しているため、用途に応じた提案が可能となるが、システム全体としてはカメラだけではなく、照明(ライティング技術含む)やレンズなども含めた検討が必要となる。
照明に関しては固定波長であればLED照明が使えるものの、ブロードな波長が必要な場合にはハロゲン照明が必要となるが、ハロゲン照明を使う場合には発熱と寿命とのバランスを考慮した提案が必要となる。
また、レンズに関してはレンズ素材やコーティング仕様によって、波長透過率が変わるためにこの点の考慮も必要となる。近赤外線波長を使ったシステムを構築するためには、InGaAsセンサの駆動状況(冷却状態と暗電流状態など)に照明とレンズそれぞれの関係性を考慮した上で、システム全体として必要な感度を得ることが重要となる。
InGaAsセンサ/照明/レンズの関係性は非常に重要となるため、当社としてはカメラ単体での提案ではなく、照明やレンズの専門メーカと技術連携を行いながらユーザ環境に最適となるシステム提案を行いたいと考えており、このような活動により近赤外線波長を使った新しい検査を産業業界に広げるための力になりたいと考えている。
おわりに
“可視波長域で見えないものを可視化する”というキーワードで近赤外線波長を使った検査手法は今後更に広がりを見せると思うが、われわれが普段目で見ている内容とは異なる特性をもつ近赤外線波長を有効活用するためには、その波長域の特性を理解した上でカメラ製品の開発を行い、そのカメラ製品の能力を最大限に活かす検査システム全体としての提案が必要になる。
近赤外線カメラを自社開発している当社は、この波長域に関する調査/研究を日々行っているため、これまでの活動により得た近赤外線波長に関する知識を活かしながらさらなる製品開発を行い、本波長域の活用を様々な分野に広めたいと考えている。
■問い合わせ先
株式会社アバールデータ
TEL:042-732-1030
E-mail:sales@avaldata.co.jp
http://www.avaldata.co.jp/
図1と図2の写真が入れ替わっていると思われる
このままだと、通常可視波長では素材が区別できるが
赤外線では全部白くて解らないと言う、赤外使う意味がない逆の結果では。
ご連絡ありがとうございます。
ご指摘いただきました通り、こちらのミスで
図1と図2が入れ替わっておりました。
修正させていただきましたので、ご確認いただけると幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。