近年、可視波長域での画像認識では検査が難しかった内容に対して、近赤外線波長域を使った新しい手法で画像認識を行い、検査/処理を行う分野が広がっている。
近赤外線波長域を使うことにより、新しい手法での検査が可能となり、その結果新しい検査分野への展開等も可能となるため、今後近赤外線波長域を使った展開は大きく拡がるものと思われる。
弊社はこの近赤外線波長域を使った分野での新しい検査等を実現するために900nmから2,500nm波長帯域(SWIR)に感度をもつ、エリアセンサカメラ/ラインセンサカメラを自社開発/展開することにより、これまであまり開拓が進んでいなかった900nmから2,500nm波長帯域(SWIR)を使った分野で様々な検査手法が拡がる足掛かりになりたいと考える。
開発経緯と搭載センサ
可視波長域よりさらに長い900nmから2,500nm波長帯域(SWIR)に感度をもつ製品を実現するために弊社で開発しているカメラに搭載しているセンサは混合半導体のInGaAs(In:インジウム/Ga:ガリウム/As:ヒ素)である。
可視波長域に感度をもちカットオフ波長が1,100nmとなるSi(シリコン)と比較するとバンドギャップエネルギーが小さいため、可視波長域より長い波長域に感度をもたせることが可能となる。
カットオフ波長が1,700nmまでのカメラ製品は各メーカから色々とラインナップされているが、カットオフ波長が2,000nm以上のカメラ製品のラインナップは非常に少なく、製品自体も高価なものが多い状況のため、弊社はカットオフ波長が2,000nm以上で、なおかつ価格を抑えたカメラ製品の開発にも力を入れている。
カットオフ波長を長くするためにはIn(インジウム)組成を増やす必要があるため、単結晶基板との接合度が落ちてしまい、その結果として暗電流が増える傾向となる。暗電流が増えると撮像画質低下の原因となるため、カットオフ波長を長くしながら暗電流の増加を抑えたセンサが理想的な特性となるが、両方のバランスを考えながらセンサを開発するのは高い技術力が必要となる。
上記のような理由から900nmから2,500nm波長帯域(SWIR)に感度をもつカメラ製品の開発には、InGaAsセンサ自体の性能が非常に重要であり、その上でカメラ製品としてInGaAsセンサの能力を十分に活かした開発設計が必要になるため、センサメーカとのコミュニケーションも重要となる。
弊社カメラ製品で搭載しているInGaAsセンサは高い技術力を保有され、光に関係する様々な製品を自社開発/設計されている浜松ホトニクス社製InGaAsセンサを採用している。
InGaAsカメラのラインナップ
現在、量産しているInGaAsカメラのラインナップは950~1,700nm波長帯域(表1)に感度をもつ、VGA(640×512画素)エリアセンサカメラ(写真1)。
QVGA(320×256画素)エリアセンサカメラ(写真2)。
512 画素ラインセンサカメラ(写真3)と 900~2,550nm波長帯域(表2)に感度をもつ、広帯域タイプの512画素ラインセンサカメラ(写真4)の4モデルとなる。
今後は長波長タイプのラインナップ充実を進める予定であり、2017年春以降に1,100~1,900nm波長帯域(表3)に感度をもつ、512画素ラインセンサカメラ(写真5)。
また、1,300~2,150nm波長帯域(表4)に感度をもつ、192×96画素エリアセンサカメラ(写真6)のリリースを予定している。
アバールデータ製InGaAsカメラの特長
InGaAsカメラが多く使われているのは科学計測分野や防衛分野となり、これらの分野では高解像度/低ノイズが必要になるケースが多いため、外部ユニットなどが必要となる大掛かりな冷却機構を搭載した高額かつ大型なカメラ製品が多い。
今後はファクトリーオートメーション(FA)分野でもInGaAsカメラを使った新しい検査を検討されるユーザが増えると予想されるため、弊社カメラは設置面積が限られるFA分野でもユーザが使いやすいように外部ユニットが不要な冷却機構/サイズ等を意識しながらカメラの開発設計を行っている。
また、FA分野では検査対象自体がコンベアで移動しているケースが多いため、これまでラインナップが少なかったラインセンサカメラの開発にも力を入れている。
InGaAsセンサは生成工程が複雑なこともあり、センサ自体が非常に高価なため、エリアセンサカメラに対してセンサ面積を大幅に抑えることができるラインセンサカメラはカメラ単価を抑えることが可能となり、FA分野にInGaAsカメラを使った新しい検査を拡げるには重要な製品展開と考える。
また、ラインセンサカメラを使うことにより、照明面積も合わせて抑えることができるため、システム全体のコストを抑える目的ではラインセンサカメラを使う意味は非常に大きいと考える。
InGaAs波長を使った開発事例
SWIR波長帯域の中で1,450nm波長に水分に対して強い吸収があることは比較的知られており、この吸収特性を利用して可視波長域での画像認識では検査が難しい水分検知をInGaAsカメラで実現されている事例はいくつかある。
しかしながら、全体の水分量が少ない検査対象に対して水分の吸収分布量等を調べたい場合には1,450nm波長では対応が難しいケースがある。
そこで今後要求が増えると思われるのは、1,450nm波長よりさらに強い水分の吸収波長となる1,940nm波長を使った検査である。1,940nm波長の水分吸収率は非常に高いため、1,450nm波長ではコントラストの差が出ず、画像認識検査ができなかった全体の水分量が少ない検査対象に対する吸収分布量の検知等もできるようになる可能性がある。
全体の水分量が少ない検査対象をターゲットにした案件は多くあるため、今後はこのような画像認識検査にもInGaAsカメラを使った展開が拡がる可能性があると考える。
水分検知は食料品、医薬品、化粧品を扱う『三品市場』に幅広く展開できると考えているため、カットオフ波長が2,000nm付近のカメラ製品で積極的にユーザのお手伝いをしたいと考える。
市場動向と今後の対応
可視波長域では検査が難しかった内容に対して、近赤外線波長域を使い検査/認識を行う流れは今後さらに加速するものと考えている。
その中でも2,000nm以上の波長帯域を使い、検査/認識を行う新しい視覚システムを検討する流れは増えると予測されるために弊社としては2,000nm以上の波長帯域をカバーする製品開発に注力する予定である。
また、近赤外線波長域を使った検査を提案するメーカとしてはカメラ単体製品での提案だけではなく、カメラ製品と専用ライブラリをセットにしたパッケージ提案を行うことでユーザが目的に合った近赤外線検査を即座に導入できるような環境整備も合わせて行いたいと考えている。
第一弾として、ビームプロファイラ用の専用ライブラリを自社開発している光響製ライブラリ(写真7)と「ABA-001IR-GE」(QVGA/320×256画素/エリアセンサカメラ)をパッケージ製品(図1)とした販売展開を開始する。
「ABA-001IR-GE」と「LaseView」構成により、Windows上で動作する高機能で実用的な近赤外線波長域に対応したビーム計測システムを容易に構築することができる。
また、複数台のカメラを用いたビームモニタリングシステムも低コストで構築することができる。また、「LaseView」ではM2測定も可能となるため、レーザー装置の組立・調整・性能評価やレーザー光を使った実験が容易に可能となる。
今後、レーザー光を使った研究/開発も2,000nm付近の波長帯域が必要になるケースが増えると予想されるため、弊社としてはレーザー業界に対して本パッケージ製品で提案を進めたいと考えている。
長波長対応に関する課題とアバールデータの役割
2.000nm以上の波長帯域を使ったシステム構成を実現するためにInGaAsセンサ以外にもいろいろと検討する必要があるのはレンズと照明である。
レンズで多く使われているBK7(光学ガラス)は2,000nm以上の波長帯域では透過率が大幅に落ち込むため、長波長対応を進めるにはレンズ材質を無水合成石英等に変更する必要がある。
また、照明に関してはハロゲンランプを使うことにより、幅広い波長帯域を利用することが可能となるが、発熱が非常に大きいので撮像対象によってはLED光源での対応を検討する必要がある。
無水合成石英や長波長対応LEDは現時点では非常に高価なため、InGaAsセンサの冷却状態と暗電流とのバランス等からその条件に最も適したレンズ材質や照明仕様を決める必要があり、長波長対応を進める中でInGaAsセンサ/レンズ/照明の関係は切り離すことができない程、重要な関係性があると考える。
900nmから2,500nm波長帯域(SWIR)を使った分野で様々な検査を拡げる取り組みを進めている弊社としてはInGaAsカメラ単体での提案ではなく、レンズや照明に関してもパートナー企業と上手く連携しながら、ユーザ環境に最適と思われるシステム構成としての提案を行うことまでは弊社の役割と考えている。
■問い合わせ
株式会社アバールデータ
TEL:042-732-1030
http://www.avaldata.co.jp/
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