インフラ管理における 3Dレーザースキャナの活用

橋梁や道路、建物などのインフラは、維持管理のために検査や修理、建て替え、耐震工事などを行うことで、私たちがより豊かに、安全に暮らしていけるように守られている。

昨今、このインフラの維持管理において、3Dレーザースキャナによる点群データ取得の需要が高まっている。3Dレーザースキャナによる点群取得と、様々な用途での活用を紹介する。

はじめに

 普段の生活で何気なく目にしている橋梁や道路、建物などは、私たちの生活に欠かせないものであり、ともすればその存在意義を忘れがちである。

しかし当然のことながら、それらインフラは、維持管理のために検査や修理、建て替え、耐震工事などを行うことで、私たちがより豊かに、安全に暮らしていけるように守られている。

昨今、このインフラの維持管理において、3Dレーザースキャナによる点群データ取得の需要が高まっており、国土国交省が推進するiConstructionにおいても、3Dデータの活用は必然となってきた。

本稿では、FAROの3Dレーザースキャナ、Focusシリーズを用いたインフラ維持管理の用例を挙げながら、併せてBIM用ソフトウェア、VR技術なども紹介したい。

インフラ維持管理のための点群データ取得

2000年の終わりごろ、BIMという言葉が使われるようになるまでは、インフラや建造物の現況把握は、測量機器を使用したり、メジャーなどによって手計測にて行われる場合が多かったと思う。

BIMの概念が浸透するにしたがって、現況を「3Dデータ」で把握しようという動きが生まれ、それによりレーザースキャナの活用も増えてきた。それでは、レーザースキャナとはどういうもので、どんな利点があるのか、詳しく述べていきたい。

1)Focusを使用したスキャンワークフロー
 FARO Laser Scanner Focus S というレーザースキャナは、小型、軽量の地上型3Dレーザースキャナである。1 秒間に約 100 万点の点群を取得し、レーザーが届く範囲の現状を瞬時にカラーで3次元データとして生成することができる。

この点の集合は「点群データ」と呼ばれ、データ処理後に様々な用途に活用することが可能である。Focusを使用したワークフローは主に次の3つである。

2)スキャン→処理/計測→ソフトウェアでの後処理
スキャンしたデータはSDカードに保存されるため、パソコンは必要ない。本体は小型でどこへでも持ち運びでき、設置の場所も広くは必要ない。

傾斜センサ、高度センサ、コンパスなどの様々なセンサが内蔵され、機器が水平を保っていなくてもスキャン可能である。

取得したデータは、オンサイトレジストレーション機能により、現場でつなぎ合わせることが可能で、後処理にかかる時間を大幅に削減することができる。あとは、用途に合わせたソフトウェアにあわせてエクスポートし、オフィスで後処理を実行する。

3)従来の方法との違い
従来、測量などに使われていたトータルステーションとの大きな違いは、点で取るか、点群で取るか、である。

たとえば、等高線の計測にトータルステーションを使うと、1点1点を取得し、点をつないで等高線を作成することになる。

より正確な等高線を得ようとすれば、必然的に取得点数は増え、大変骨の折れる作業となる。それでも、点と点の間(すなわち、等高線の線と線の間)のデータは取得できず、得られた等高線が正確かどうかはわかりにくい。

その点、点群データは表面をくまなくスキャンしデータ化するため、傾斜が線や点ではなく面で取得できるので、現況に即したデータを簡単に手に入れることができる。

活用事例

それでは実際に、インフラ維持や建設に3Dレーザースキャナを活用している用例を紹介したい。

1)「スクラップ&ビルド」から「維持・管理」へ、将来の危険をレーザースキャナで調査
 東京都豊島区に拠点を置くアイセイ株式会社は、構造物点検のプロとして、橋梁やトンネルを中心に、構造物の点検、調査診断を行っている。

構造物は経年的、環境的、外力等の要因により、遅かれ早かれ劣化していくため、これは将来の危険を見逃さないためには欠かせない業務だ。時代を経た橋梁などには設計図のないものもあり、耐震工事などの際には、以前は巻尺などを使用して計測を行い、2次元の設計図を作成していた。

作業には危険を伴うこともあるし、人が立ち入れないエリアもあったため、アイセイでは3Dレーザースキャナを導入することにした。

レーザースキャナは、寸法もすべてデータ上で確認でき、巻尺での計測にとって代わるツールとして使用できるだけでなく、構造物を3次元で表現することができる。

図1、2は耐震工事を行う歩道橋をスキャンしてデータ結合したもの。

図1 歩道橋をスキャンして結合した3Dデータ
(データ提供:アイセイ株式会社)

図2 スキャンデータをもとに作成した歩道橋の2次元図
(データ提供:アイセイ株式会社)

入り組んでいるため、手で計測するには危険も伴うし、手間もかかるが、レーザースキャナで離れた場所から計測でき、複雑な状態でもデジタル化が可能だ。その後、処理ソフトを使い、2次元の設計図を作成することもできる。アイセイ(株)では、次の点を効果として挙げている。

1. 安全性の確保:高所、交通量の多い場所でも離れて計測が可能になり、安全性が向上。さらに現場での作業時間も短縮

2. 測定時の作業人員の削減:少人数で測定可能なため、他の仕事に人員を配置可能

3. アピールポイントが増えたことによる既存業務の受注増加

2)様々な用途での活用例

【トンネルでの活用例】
 Focusでトンネルの内部をスキャンすることで、掘削中のトンネルの3次元変位計測や、既設トンネルの維持メンテナンス作業に活用できる。

トンネル掘削中に、何らかの事情でトンネル内部が変形した場合、目視ではわかりにくい少しの変化も、継続的にスキャンしてデータを確認することで変位を把握することができる。

たとえば、崩落や水漏れなどが事前に察知でき、危険を回避できる可能性がある。また、一定期間ごとに変位を観察することで、経年変化を把握し、メンテナンス計画を立てることができる(図3)。

図3 トンネルの変位をカラーマップで表示

また、スキャンは短い時間でできるため、掘削作業の合間や、次の作業の準備の間に、計測作業を終えることが可能だ。計測のために掘削作業が遅れ、工期が延長されるようなことがあってはならない。

【橋梁での活用例】
 古い橋梁などのインフラは、図面がない場合も多い。耐震工事や架け替え、改修工事に際して、図面が必要になった場合、Focusにてスキャンすることで、簡単に短時間で3Dまたは2Dでの設計図を作成することができる。

特に交通量の多い橋や、高い場所に架かっている橋では、時間のかかる手計測の場合、長時間の通行止めを余儀なくされたり、危険が伴う高所作業が発生する。

Focusは短時間で現況を3D化することに加え、350mまでの長距離計測が可能なため、大型の橋梁でも離れた場所から最低限の計測で作業を終えることができる(図4)。

図4 橋梁の3Dスキャンデータ

【土量計算】
 掘削した土量がどのくらいになるか、盛土、切土の容積計算も、Focusによるスキャンデータから簡単に算出することができる。トータルステーションでは、盛土のポイントをつないで算出するため、正確な土量を知ることが難しい(図5)。

図5 3Dスキャン(左)とトータルステーション(右)のイメージの違い
スキャンをすることで、「推定」ではなく、実際の数値を「計測」できる。

また、掘削エリアへの立ち入りの必要がないため、危険エリアでの作業には、特に安全性が確保される。この方法は、貯蔵物の量や鉱山の形状の把握などにも同様に活用できる。

【シミュレーション:工場の可視化】
 工場は増改築を繰り返すことで、現状と図面に差異が生じることが少なくない。計画立案のためのCG製作においては、従来の方法では、手計測とその後のCG作成に膨大な時間を要する。

Focusを使って現在の工場の点群データを取得することで、経路や新しい設備のシミュレーションを点群データ上で行うことができ、CG化を最小限にとどめることで計画立案にかかる工数や時間を大幅に削減することができる。

FARO As-Builtソフトウェア

 FARO As-Builtは、AutoCAD ® およびRevit ® 設計ツールで、スキャンデータを簡単かつ正確に効率よく検証を行うためのソフトウェアである。

As-Built for AutoCAD ® は、インフラ設計のモデリング、2次元ビル図面、工場や施設、堀削や点群データからのオルソ画像の計算などが可能。

トータルステーションと互換性のあるインタフェイスにより、様々機能が使用でき、設計から実物へ表示通りのポイントを作成する。 

As-Built for Revit ® は、建築家、エンジニア、ゼネコン業界に最適なソフトウェアで、3Dスキャンデータを素早く正確に直接Autodesk ® Revit® 内で分析することができる。

床面、壁、ドアや窓、柱、梁や支柱、屋根やパイプ配管まで効率のよいモデリングが可能である。これらのソフトウェアにより、大規模な3Dスキャンプロジェクトも簡単に管理することができる。

VR技術の活用

 Focusに付属する点群処理ソフトFARO SCENEは、現バージョンよりVRでのシミュレーションが可能になった。

たとえば、工場内の計測には、スキャンしたデータをパソコン上に表示し、2点間を選択することで簡単に行うことができるが、これが没入環境でも可能になった。

現地に行くことができない作業者でも、VRを使って工場内を体験することができ、現状をよりわかりやすい形で共有することができる(SCENEでのVRの体験には、HTC VIVEもしくは、OculusのVR機器一式が必要)。

Focusの紹介

 Focusレーザースキャナの原理は次のとおり。機器の中心から発せられたレーザーが、対象物に当たり、スキャナへまた戻ってくる。その位相差から距離と角度情報を取得し、3次元座標を得て計測・スキャンする。

取得した点の集合は「点群データ」と呼ばれ、“x、y、z”の3次元座標情報、カラー情報、高度情報、位置情報などを保持している (図6)。 

図6 FARO Laser Scanner Focus S シリーズ

FARO Laser Scanner Focus S シリーズの主な仕様を以下に示す。

• サイズ:230×183×103(mm)
• 重量:4.2Kg
• レーザークラス:クラス1
• 視野(垂直/水平):300°/360°
• 最大計測速度:976,000点/秒
• 範囲誤差:±1mm
• 計測距離:70m、150m、350m
• IP54規格に準拠し、防塵、防水性能を装備

※映像情報インダストリアル2018年10月号より転載

■問い合わせ
ファロージャパン株式会社
TEL:0561-63-1411
E-mail:japan@faro.com
http://www.faro.com/ja-jp/ 

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