リコーインダストリアルソリューションズ株式会社は、FAレンズの高解像・高性能設計を実現させ、量産化に成功したことでお客様の製造現場における生産性および生産効率の向上に寄与し、さらにFA /マシンビジョンシステムのレンズの小型化のニーズに応えている。
本稿では、リコー FAレンズのなかでも900万画素対応レンズに導入し、高解像・高性能を実現させたフローティング・フォーカス機構について紹介する。
リコーグループとFAレンズについて
リコーグループは、1936年の創業から80年を超えて事業を継続している。その間、常に世の中の先を見据えて、お客様に新しい製品を提供してきている。銀塩カメラからデジタルカメラへ、アナログ複写機からデジタル複写機へ、弊社で培われた技術は時代のニーズに即しながら表現方法を変え進化を続けてきた。
1970年代後半からは、自社での自動化設備の開発を進め、検査工程などに光学技術を活用しながら、マシンビジョンに関する技術ノウハウを蓄積してきた。
2011年にはFAレンズに関する高い技術を所有していたPENTAXと協業を開始し、2014年10月には、リコーグループ内に分散していた光学、画像処理、電装などに関する技術や人材を集約し、新会社「リコーインダストリアルソリューションズ株式会社」として事業展開を図ってきた。そのような動きのなかで、世の中で必要とされる製品を提供し、FAレンズも時代に合わせて進化させてきた。
FAレンズを取り巻く状況の変化としては、かつては人間が介在して検査や監視などに使う視認用としてのニーズが多かったが、今では、取得した画像に画像処理を施し、自動的に検査や判断ができる装置の入力手段として捕らえられることが多くなっている。画像を取得するカメラは、年々、小画素化、多画素化が進んでおり、それに対応するべくFAレンズにおける高解像のニーズも変化してきている。
FAレンズに求められる性能
FAレンズに求められる性能を、身近な光学系を参考に説明する。レンズを使う簡単な例は、虫眼鏡である。虫眼鏡は1枚の凸レンズを使っている場合が多く、物を大きくして観察する場合、虫眼鏡を前後に動かしたり、目の位置を前後に動かしたりして、何気なくピント合わせや、見えるものの大きさの調節を行なっている。
FAレンズも同じようにレンズの位置を移動させてピントを合せたり、大きさ(倍率)を調整したりするところは虫眼鏡と似ている。ただし、多くのFAレンズはレンズ玉を複数枚内蔵しており、外観面で虫眼鏡とは大きく異なっている。
また、使用方法も装置に取り付けた状態で、対象物までの距離を簡単に変えられない状態で使われることが多い。レンズに求められる性能は、一言で言えば、像の正確さ(ボケの少なさ、歪みの少なさ、色にじみの少なさなど)である。求められる正確さは、その物の使われ方によって異なる。
たとえば、虫眼鏡で物を見るときは、ピントが甘かったり、形状が歪んでいたりする状態、すなわち、理想的で正確な像でなくても、人の目で見る場合であれば、ある程度は気にならずに使うことができる。
ところが、FAレンズを使う状況では、一般的にセンサで読み取り、画像にして検査に使ったり寸法を測ったりするので、正確さは高いものを求められる。特に1度の撮影で画面全体を見ることが多いので、画面全域で像の正確さが求められる場合が多い。正確な像からのズレは、原理的に生じる収差から発生している。
収差には、ザイデルの5収差と呼ばれるものと、色収差とがある。レンズの正確さの向上に関しての研究、すなわち収差の低減は、ガリレオガリレイの時代から続けられており、収差をできるだけ小さくする方法は様々な方から提案されていて、レンズの枚数を増やしたり、形状を工夫したり、材質を工夫したりして、収差の低減を図っている。
ただし、球面のレンズでは収差をゼロにすることは原理的に不可能であり、製品仕様の範囲内に入れるように設計して、製品として使われているのが現状である。
高解像レンズを成り立たせる
フローティング・フォーカス機構について
基本的に、画面の周辺に行くに従い色々な収差が大きくなる影響を受け、特性が落ちる。前記したようにレンズ1枚ではFAに使用する特性が得られないため、レンズを複数枚にして、周辺の特性も上げるように設計していく。
また、物体までの距離が変わった場合も、特性は変化していく。よって、ある狙いの設計距離の状態で、中心と周辺部の特性を良くしたとしても、物体までの距離が変わるとその状況が変わり、中心や周辺の特性が悪くなったりする。高解像で高性能なレンズを設計する場合、中心だけでなく、周辺までの特性を見ながら、かつ、違う距離での特性を見ながら設計する必要が生じる。
このような状況を解決する手段の1つが、フローティング・フォーカス機構と呼ばれるレンズ構成である。図1に一般的なフローティング・フォーカス機構の1例を示す。
フローティング・フォーカス機構とは、被写体距離による収差の変化を抑制するために光学系の一部の間隔を変化させながらフォーカスする機構のことである。設計の際は、レンズに要求される性能的な要求や重量、コストなどを考慮し、構造を決めていくことになる。
本構造は、ピントを合わせるときに動かすフォーカス群と、移動しない固定群とを分けた構成となっている。操作者は、レンズ本体にあるフォーカスリングの回転部を回転させることで、フォーカス群のみを前後に動かし、対象物までの距離に応じてピントを合わせることになる。図2に、フローティング・フォーカス機構を採用した弊社製品の特性の1例を示す。
画像中心から端部まで、物体までの距離が250mmでも、500mmでも良い画質が得られるようになっている。図3は、実画像の比較の例である。
◎撮影条件
•レンズ:RICOHフローティング・フォーカス機構採用品
他社フローティング・フォーカス機構無し品
(全体繰り出しタイプ)
•撮影距離:1,300mm
•被対象物:以下のラベルを画面の中央と画面の端部に置く。
•ピント合わせの条件:画面の中心のバーコードラベルが認識できるようにピントを合わせる
◎結果
図4、5に端部画像の比較を示す。
図4、5のように、中心部でピントを合わせたとしても、端部の画質が劣化していると、バーコードの読取ができなかったり、文字の読取ができなかったりする。
この状況は前述したように、物体までの距離が変わると、端部の劣化の度合いも変わるので、注意が必要である。弊社のフローティング・フォーカス機構採用レンズは、このような画質劣化をできるだけ少なくなるように構成されたレンズとなっている。
なお、リコーFAレンズでフローティング・フォーカス機構を取り入れているエリアレンズは、以下のとおりである。RICOH9メガピクセル対応レンズ(6機種)(写真1)(表1)。
高性能レンズを成り立たせるリコーの技術について
机上での光学シミュレーション上で性能が確保できたとしても、実機でその特性が出ていないのでは意味がない。リコーでは以下の技術を活用し、高性能なレンズの市場提供を行っている。
1.実績に支えられた光学シミュレーション技術
製品を成り立たせるために、最も重要な光学設計技術をリコーグループ内の他の製品などと情報共有。常にあたらしい技術の導入を行っている。また、解像力、ゴースト解析について、弊社独自のアルゴリズムを導入し、設計後の試作において実機における特性がシミュレーション通りになっていることを確認。その結果をシミュレーションにフィードバックし、性能確保の技術をブラッシュアップさせ、技術蓄積を行っている。
2.量産時のばらつきを考慮した公差積み上げ技術
リコーでは、光学ユニットとしてのノウハウを詰め込んだ、部品加工精度と歩留まりを考慮した、部品公差積み上げシステムを構築している。自社開発のアルゴリズムに従い、部品単位で必要な精度を設定し、実物検証を行っている。
3.量産時の精密調整技術
従来から行っているレンズの精密加工と精密組立に加え、調整に関する技術を導入。リコーグループで生み出された精密調整技術を結集し、より高品質な製品を作り出している。
VGA用レンズ、ラインスキャンカメラ用レンズやUV光に対応したレンズなど、多種多様なレンズをシリーズとして取り揃えている。FA/マシンビジョンという産業用途の枠にとらわれることなく、セキュリティやインフラ監視等、様々な用途でレンズをお使いいただける。
対象物を高解像度で広い視野で見たい場合や、解像度はそれほど必要なく低価格でシステムを構築したい場合など、コストパフォーマンスに応じた様々なニーズに対応できるレンズを取り揃えている。システム構築の際にはご検討に加えていただけると、お客様へのお役立ちができると考えている。レンズ検討の際は、ぜひ、リコーをご用命いただきたい。FAレンズカタログはこちら。
■問い合わせ先
リコーインダストリアルソリューションズ株式会社
TEL:045-477-1551
E-mail:webmaster@rins.ricoh.co.jp
https://industry.ricoh.com/fa_camera_lens/
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