多自由度をもつ照明技術により、多品種生産に対応する外観検査システム

オムロン株式会社(以下、当社)は、照射角度、照明色、照明光量を自在に制御できる「MDMC(Multi Direction Multi Color)照明」を開発した。本照明と当社の画像処理システム「FHシリーズ」を外観検査に適用することにより、対象物や検査内容に応じた照明・撮像機器の選定や調整作業が不要となり、多品種混流生産に柔軟に対応することができる。

開発経緯

近年、消費者の品質に対する要求が厳しくなる中、企業の果たすべき社会的責任は年々高まっている。その中で、生産現場においては、製品品質の維持向上や不良品発生時の早急な原因解析のため、品質検査を厳格化する動きが加速している。

また、消費者ニーズの多様化が進み、マスカスタマイゼーションに代表される、ひとつの生産ラインで多様な製造を行う多品種混流生産が増加しており、色やサイズの異なる製品に対する多様な品質検査が求められる。

こうした製造業の変化を背景として、外観検査の自動化ラインにおいても、製造品目の段取り替えにおいて都度の設定変更や調整作業が発生することによる、ダウンタイムが大きな課題となっている。外観検査ラインは、対象物に光を照射してその反射光を映像化する照明・撮像機器と、その撮影画像を基にして検査や計測などの処理を行う演算装置によって構成される。

この機器構成の中で、照明機器の設定変更や調整作業が最も難易度が高く、高度なスキルが要求される。 このような背景から、当社は、照射角度、照明色、照明光量を自在に制御できる「MDMC(Multi Direction Multi Color)照明」を開発した(図1)。

図1 MDMC照明の外観

この照明を用いることにより、検査対象物の色やサイズの変更に柔軟に対応することができ、検査内容や対象物に応じた照明・撮像機器の選定や調整といった高度な技術が不要となる。

特長と優位性

人による目視検査の場合、検査対象を手に取り、角度を変え、時には視点の位置を変えながら外観を観察する。こうした行動から、人は無意識のうちに最も欠陥が見えやすい条件を探して、その条件で得た視覚情報を用いて検査の判断をしていると考えられる。

一方、画像処理システムを使った外観検査では、検査対象に照明を当て、その反射光をカメラで捕捉した画像を用いて検査を行う。照明光は電磁波の一種であり、電磁波の要素は伝搬方向、振動数、振幅、偏光軸の4つと言われている。このうちで人が感度をもつのは、伝搬方向、振動数、振幅の3つである。

この点に着眼して、照明の照射角度(伝搬方向)、照明色(振動数)、照明光量(振幅)を自在に制御できる照明を開発した。主な技術的特長と優位性を以下に示す。

1)多自由度の照明制御
「MDMC照明」は、照射角度の異なるドーム型リング照明と同軸照明で構成されている。ドーム照明は高さ方向に3分割、円周方向に4分割されたブロック構造となっており、計12方向の角度から対象物に対して、照明を照射することができる。これにより、検査対象物を構成する材料や表面加工状態に応じて、欠陥などの特徴を明瞭な像として映像化することができる。

また、照明の光源には光の三原色である赤、緑、青を同時に発光できるフルカラーLEDを採用し、ブロック単位で色の配合を128段階で調整することができる。このため、検査対象物の塗装色や印刷色に合わせて照明の発光色を調整することにより、撮像画像のコントラストを最大化できる。

2)機器接続の容易性
従来の照明ではカメラの撮像にあわせて照明を発光させるためにPLC(プログラマブルロジックコントローラ)等の外部機器を使って発光タイミングを制御する必要あった。

「MDMC照明」は照明制御ICを内蔵しているために、カメラと照明をケーブル1本でつなぐだけで、発光色制御、分割発光制御、カメラとの同期制御を行うことができる。このため、PLCの制御プログラムの設計と複雑な配線作業が不要となる。

3)照明条件設定の容易性
「MDMC照明」は、13個の発光ブロックの各々において、3種類の発光色を配合するために、照明条件の数は、128の39乗通りという膨大な数となり、このままでは、最適な条件を調整するのは事実上不可能となってしまう。

そこで、外観検査に有効な照明パターンを数通り定義しておき、ユーザが照明パターンを切り替えながら映像を観察することで、程良い条件を見つけられるような操作方法としている。さらに、照明パターン毎に微調整も可能としており、最終的にベストな条件を追い込むことができる。このようにGUI(Graphic User Interface)を工夫することで短時間での調整を可能としている(図2)。

図2 照明設定のユーザインタフェイス

開発事例

ここでは、「MDMC照明」の内部構造と設計仕様について説明する。照明の断面図を図3に示す。上部に位置する同軸落射照明は、ハーフミラーを使用することで、カメラ光軸と同軸の方向から照明を照射する下部に位置するドーム照明は、平面基板に実装されたチップLEDを光源とし、独自の拡散板を用いて高効率に発光面へ導光する。

図3 MDMC照明の断面図

このように、量産性に優れたシンプルな構造でありながら、検査に必要となる光量を確保している。さらに、拡散板はブロック毎を仕切る役割も果たしており、光が隣の発光ブロックに漏れないようにする効果もある。商品バリエーションとしては、狭視野タイプ(FL-MD90MC)と広視野タイプ(FL-MD180MC)をラインナップしており、どちらも画像処理システム「FHシリーズ」に接続して使用することができる。照明の仕様諸元を、表1に示す。

表1 MDMC照明の仕様諸元

市場動向と当社の対応

画像処理システムの市場は、今後大きく拡大することが見込まれる。その背景には、冒頭にも述べた品質要求の高まりと同時に、新興国における人件費の高騰と先進国における少子高齢化による労働人口の減少があり、目視検査を担う労働力の確保が今後難しくなると考えられるためである。

当社が「MDMC照明」でターゲットする業界・アプリケーションは、主に、半導体・電子部品業界と自動車業界の外観検査である。半導体・電子部品業界においては、スマートフォンやウェアラブルデバイスに代表される個人向けデジタル製品の最終外観検査や、その内部で使用される電子部品の検査需要がある。

また、コネクティビティ(接続性)、オートノマス(自動運転)、エレクトリック(電動化)という変化の著しい自動車業界においては、走行用モータ、パワーコントロールユニット、各種安全センサ、二次電池などの精密部品の検査需要の拡大が見込まれる。これらの需要に対応して、「MDMC照明」と画像処理システム「FHシリーズ」の顧客への提案活動を加速する。

応用/ユーザーメリット

「MDMC照明」の活用方法と効果について、新規ライン設計時の照明設定、運用後に発生する変更処理、他ラインへの展開、といった3つのフェーズにおいて、具体例を挙げて説明する。

1)新規ライン設計における照明設定
材質、反射率の異なる素材で部品が構成されている製品の検査では、素材によって光が反射される方向に差異がある。このため、欠陥部分を安定に検出するためには、異なる照射方向の照明を組み合わせて検査する必要がある。

たとえば、撮像素子を検査する場合には、素子のカバーガラス上の欠陥検査には同軸照明を用い、ワイヤ切れ検査はローアングルリング照明を用いて検査をする。このように、照明選定においては、対象物の材質や形状に応じて膨大な条件の中から最適な照明の組み合わせを選ぶ必要があり、設計者に高度な知識と経験が求められる。

また、経験豊富な設計者であっても、設計値に基づいた効果検証作業に手間と時間がかかるという問題もある。「MDMC照明」は照明方向の自由度をもつために、ソフト設定の変更だけで、同軸照明とローアングルリング照明を切り替えることができ、各種の照明を取り替えて設置を変更する必要がなく、照明条件を検証することができる。

このため、新規ライン設計において難易度が高いとされる複合素材に対して、照明選定と調整作業を経験の浅い設計者でも短時間で実現することができる(図4)。

図4 複合材料での検査事例

2)運用開始後に発生する品種の追加や検査項目の変更処理
量産ラインで運用を開始した後で、製品のカラーバリエーションを追加することや、納入先の品質要求に応えるために検査項目を追加するケースがある。たとえば、スマートフォンの印字検査において、印字色が白であり、下地色として新たに赤のカラーバリエーションを追加する場合には、コントラストのよい画像を得るためには、補色系に相当する青か緑色を配色する必要がある。

このように、品種や検査項目が追加されると、既設の照明の対応範囲を超える場合に新しい照明を設置する必要があり、工程の再設計が求められる。当社の画像処理システム「FHシリーズ」と「MDMC照明」を用いると、ハードウェアの追加や変更が不要であり、設計当初からのコストアップなしで検査システムの再構築が可能である。

3)他の生産ラインへの展開
自動車の電装化、スマートフォンの高機能化やIoT(Internet of Things)の普及に伴い、ノイズ対策、電源供給の安定化に用いられるMLCC(積層セラミックコンデンサ)などの汎用性の高い電子部品の需要が拡大している。このような汎用品を大量に供給するために、製造ラインの複製が求められる。

画像処理システム「FHシリーズ」と「MDMC照明」は、カメラ、照明の設定条件を設定データとして保存できるので、その設定データをコピーして反映させることで設定条件の再現が可能となる。これにより、検査システムをひとつ構築することができれば、他の複数の検査システムへの反映は極めて容易となる。

今後の展開

今回、「MDMC照明」を開発することで、多品種変量生産に柔軟に対応でき、高度なスキルをもたずとも導入と調整が短時間で実施できる検査システムを実現した。

しかしながら、現在リリースしている「MDMC照明」は視野バリエーションが40mmと15mmの2種類であり、自動車部品のような大きな部品の検査において不足があるため、視野バリエーションの拡充を図っていく。今後も照明の高度化や知能化を推し進めることで、照明の可能性を広げ、外観検査の自動化に貢献していく所存である。

問い合わせ先
オムロン株式会社
TEL:075-344-7022
https://www.omron.co.jp/ 

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