2017 年に発表されたFLIRの12μmプロセスによるQVGA赤外線センサBoson 320に続き、640×512のVGAクラスの解像度をもつ「Boson 640」(図1)が 2018 年いよいよ市場に投入される。
今後飛躍的な広がりが期待されるオートモーティブ、ドローン、セキュリティカメラ、FA市場に向け、サーマルの大本命が登場する。
世界最小サイズ
FLIR社の遠赤外線センサは、半導体プロセスの上にマイクロボロメータ(VOx)と称される素材をベースにしたMEMS技術にて構成されており、非冷却方式にもかかわらず、出力誤差50mKという高性能を確保している。かつては38μmのマイクロボロメータ製造プロセスから始まり、25μm、17μmと進化し、今回はついに12μmプロセスに到達した。
センサが収納されている筐体は、なんと21×21×20mmという驚異的なサイズに納められており、間違いなく世界最小サイズでありCMOSセンサと同等と言っても過言ではない。
加えてこのボディサイズは、QVGAとVGA製品共通となっており、レンズを除きセンサ、シャッタ、画処理ISPなど必要な機能がすべて集約されての結果である。
“温度が見える!”サーマル画像の有効性 サーマル画像の有効性
遠赤外線画像(サーマル画像)には、CMOSセンサによる一般的な可視画像と比較し、いくつかの際立った特徴が存在する人間の目に見える可視光帯域(1μm以下)とはまった異なる8~14μmという遠赤外線帯域でセンシングを行うことが大きな特徴である。以下に主な特徴を示す。
• 自然界におけるほぼすべての物体が放射する遠赤外線を検出し、画像化するため可視光帯での暗闇でも物体認識が可能。
• 物体自体が放射する赤外線をセンシングするため、サーマル画像には影という概念自体が存在しない。
• 当然の特性ではあるが、可視光帯域では非常に強い光源である朝日、夕日、対向車のヘッドライトなどの影響をまったく受けない。
• 霧、雨、雪などの自然環境の変化に影響を受けにくく、煙や水蒸気の中でもしっかりとしたセンシングが可能。
• 遠赤外線はガラスを透過できず、表面で反射してしまう。物性によっては放射率に大きな相違あり。
• 帯域の広い赤外線には、その物性が有する特有の吸収帯が存在することがあるため、ガスなど可視光域では見えない物質を結像できることがある。
上記のような際立つ特性を有した遠赤外線センサが、非常に小さなサイズでかつ廉価に提供されることにより、夜間や逆光環境での問題を抱えている自動運転分野、物理的な重量がそのまま飛行時間に直結し得るドローン分野には直接的なソリューションとなり得る。
また、サーモパイル等の任意点でしか観測できなかった産業分野において、アレイサンサの画像情報として得られる面としての温度データは正に“温度が見える”を具現化しており、無限の可能性を秘めていると言える(図2)。
Boson製品概要
• 製造テクノロジー:非冷却VOxマイクロボロメータ
• Pixel Size:12μm
• 解像度:640×512
• 赤外線帯域:8~14μm
• フレームレート:60Hzまたは30Hz
• 出力誤差:50mK以下(P-Grade)
• NUC:シャッタ付きFFC、SSN等
• ビデオ出力:CMOSまたはUSB2
• 入力電圧:3.3V
• 動作温度:-40~+80度
図3
にコントロール信号の入出力ブロック図を示す。基本的にはCMOSレベルのデジタル画像出力であるため、一般的な汎用ビデオポートとの接続が可能。キャリブレーションには不可欠なシャッタも内部搭載。SPIやI2C等の外部コントロール信号を有しており、複雑な機能の操作にも十分対応可能。
また、オートモーティブ業界に向けては、USBCだけではなくGMSLインタフェイスの出力を有したオプションも準備しているため、ディープラーニングで最も有力視されているNVIDIA社のIPX等へ直接接続も可能。
レンズ・ラインナップ
それぞれのアプリケーションを意識し、レンズなしのセンサボディのみのオプションをはじめに、幅広い画角のレンズオプションを準備(図4)。
汎用性の高さでいえば広角の95度、オートモーティブ関連では、32度か50度、セキュリティカメラ用の遠方監視には高価であるが8度、6度というオプションが適している。
レンズなしのオプションは、顧客のカスタム・レンズに対応する選択肢であり、Boson評価サンプルに同時梱包されるGUIとSDKに個別キャリブレーションの機能を有する。
外部のレンズメーカからも、赤外線センサに特化したレンズがすでにラインナップされており、今後の需要の高まりを期待してか魚眼レンズやズームレンズなど機能性の高いレンズも予定されている。
開発例:「SKY-Scouter 2 」ハンズフリーサーマル
DJI社のドローンの代理店を柱に積極的にビジネスの展開を図っているスカイロボット社(東京都銀座)の手により、この超小型遠赤外線センサのBosonをハンズフリーのヘッドセットに組み込むという開発例を紹介する(図5)。
ハンズフリー機能は是非体験して欲しい、考えるよりも直感的に感じられる機能と言える。このシステムは、帽子やヘルメットの上から装着することで、装着者の両手を完全にフリーにしながらも、夜間の侵入者や動物など恒温動物を的確に認識できるだけでなく、周りとの温物差の大きな箇所の認識が容易なため、施設内外のパトロールに最適な機能である。
また、昼夜を問わず、工場やプラント内での製造プロセスを見守る際に、異常個所に発生すると思われる急激な温度変化を速やかに発見できる。
これは装着の仕方を工夫すれば、装着者の意思にも関与せずその施設内で移動する人間、ペット、動物ですらその環境異常を迅速に感知するシステムに組み込める可能性を示唆する。スカイロボット社によると、2018年8月には評価サンプルとしてのSky-Scouter2がリリース予定とのことである。表1にSKY-Scouter2の主な仕様を示す。
まとめ
FLIR 社の遠赤外線センサは半導体プロセスとMEMS技術の複合であるため、大量生産による量産効果は間違いなく期待できる。つまり世の中に浸透すればするほど低価格になる可能性が高いと言える。
オートモーティブ関連の自動走行システムなどの採用による爆発的な数量の伸びは勿論大いに期待されるところではあるが、少し時間が必要である可能性は否めない。それまでにドローンやFA業界での普及により、遠赤外線センサの活躍の場が広がることが望まれる。
“温度が見える”機能は使い方によっては、事故や不具合を未然に防げるだけではなく、人々の生活に寄り添いながらもそれを豊かにできる親和性を有していると信じる。 遠赤外線センサを手にとって、その“温度が見える”すばらしい特性をぜひ直接感じていただきたい。
※映像情報MOOK:赤外線イメージング&センシング~センサ・部品から応用システムまで~より転載
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