本報告は、各画素に方位が異なるマイクロ偏光子アレイが組み込まれた偏光カメラの基本原理からその特徴を述べる。偏光カメラはフォトニクス結晶型とワイヤグリット型に分類でき、その特徴について議論した。
部分ストークス・パラメータのイメージングを基本として、直線偏光度と方位のイメージングを求めることができる。応用例として、路面環境の計測と高速偏光カメラを用いた複屈折イメージングの実例を示した。
はじめに
偏光カメラは、CCDやCMOSの受光素子の各画素に方位が異なるピクセル偏光子(マイクロ偏光子アレイ)が組み込まれたカメラである。
たった1回の検出(スナップショット)で偏光情報をイメージングできることが、このカメラの素晴らしいところである。ここ数年、偏光カメラの新しい参入もあり、画像処理業界を中心にますます注目されている。
歴史的には、ポリマー製の位相子や偏光子を用いた偏光イメージングが学術論文レベルで提案されてきた。
その後、菊田らは半導体技術によるピクセル位相子偏光カメラ 1) 、Wyantらはワイヤグリット偏光子アレイによる偏光カメラ2) 、および川上らはフォトニック結晶を用いた偏光カメラを提案している 3) 。
実用化として最初に成功したのは米国の4D TechnologyがMoxtek社のワイヤグリット型マイクロ偏光子アレイを組み込んだスナップショット・マイクロ偏光子カメラ(PolarCam)が最初である。このような背景から米国では偏光カメラのことを4Dカメラと呼ぶ。
2004年には、これを使ったダイナミック・トワイマン干渉計が報告されている 2) 。その後、この偏光カメラを用いたリアルタイム計測技術として干渉計 4、5) 、ホログラフィック干渉計 6、7) 、複屈折計測法 8) が実用化されている。
また、偏光する格子パターンを投影することで3次元形状計測も可能としている 9) 。
偏光カメラについて
偏光カメラには、ピクセル位相子アレイ型と偏光子アレイ型がある。菊田らは、半導体プロセスで異なる方位をもつ構造複屈折によるピクセル位相子アレイを作成し、これを一定の方位の偏光板に貼り付けた上でCCDセンサに組み込でいる 1) 。
フォトロンは、4つのフォトニクス結晶の位相子アレイを作成し、同様に一定の方位の偏光板と受光素子に取り付けている。
これらの位相子アレイ型偏光カメラは、偏光パラメータであるストークス・パラメータをすべて計測することが可能であるという素晴らしい特徴をもつ。一方では、偏光カメラの位相子は、温度等の環境特性を受けやすくキャリブレーションが必要である。
しかしながら、偏光カメラは、スナップショットで検出するために、方位の異なるピクセル位相子を空間的にずらして変調を与えている。
4つのストークス・パラメータを求めるためには、4つ以上の光強度が必要であり、事前にキャリブレーションを行うか、インラインではキャリブレーションができる冗長系をもつために空間分解能を犠牲にする必要がある。
このような背景から、現在の偏光カメラはピクセル偏光子アレイが主流である。表1は、現在市販されている偏光カメラをマイクロ偏光子アレイの作り方であるフォトニクス結晶型とワイヤグリット型に分類したものである。
画素サイズやフレームレートなどは、利用するイメージセンサによって異なるので、厳密にはこの表と一致しない。また、表には市販されている代表的なメーカのみ掲載してある。
その他、リコー、ドイツ・フランフォーファー研究所や米国・ダルサなどが偏光カメラを技術発表や実際に販売がなされている。
表1の中で、偏光特性として注目すべき点は消光比である。これは、偏光を入射したときの最大透過光強度と最小透過光強度の比である。
ここで興味深いのは、波長依存性があるがフォトニクス結晶を用いた偏光板とアルミワイヤグリット偏光板ともに単体での消光比が1:10,000以上である。
これに対して、受光素子に組み込んだときに、ここで発生する偏光子アレイとCCDやCMOS素子までのギャップにより隣接する画素へのクロストークが発生するために消光比の低下につながってしまうと言う問題があった。
これに対して、ソニーらは、オンチップで偏光子アレイを受光素子に取り付け、クロストークを減らし消光比を劇的に向上させた 11) 。
偏光カメラによる偏光状態の測定
一般に、偏光カメラは、図1に示すように入射光の偏光状態をストークス・パラメータとして定量化する。図1(a)の入射光の偏光状態は、物体での反射、透過、散乱によりさまざまな偏光状態に変化する。
偏光状態は、直線偏光、円偏光および楕円偏光がある。さらに、これらに加えて部分偏光や無偏光の状態がある。少し難しいが理論的に説明する。
光波である電磁波を 成分に分けて振幅Ax , Ay,位相差δx ,δyを用いると、ストークス・パラメータSin = [s0, s1, s2, s3 ] Tは、次のように表現することができる。
実際に計測するためには、偏光板を用意して、その水平方位の光強度をIH 、垂直方位をIV 、方位45°のときの光強度をI45 、方位135°をI135 、さらに、右円偏光板を透過差させたときの光強度をIR 、左円偏光板を透過したときをILとすると、以下のように表すことができる。
図1に示すように、偏光カメラはCCDまたはCMOS上に方位が異なる偏光板アレイが組み込まれている。偏光板アレイの方位は図1(b)に示すように0°、45°、90°、135°の4画素が縦横に配列されている。
したがって、スナップショット(1枚撮影)した後、方位ごとの画像のみを集めることで4種類の光強度が得られる。一般に、ピクセル偏光子方位をθとすると光強度 Iとストークス・パラメータs0, s1, s2, s3の関係は、以下となる。
ここで、式(3)の光強度によるとこの中にs3が入っていない。つまり、偏光カメラでは、部分ストークス・パラメータのみ( s3成分が求まらない)求めることができることになる。
偏光子の方位が0°、45°、90°、135°のときの光強度をI0,I45,I90,I135と入射光からストークス・パラメータを求めると次のように求めることができる。
直線偏光度LDOP と方位αは、以下のように表せる。
さらに、ピクセル偏光子をもつ偏光カメラの問題点として、図2に示すように4画素で1つの偏光を解析するため空間的に画素すれが生じることである。
このため、4画素を1画素とみなして空間分解能を犠牲にしてきた。空間分解能を向上するためには、線形補間やフーリエ面での補間 12) が用いられ効果を得ている。
偏光カメラの応用例
図3は、南から北方面へ向かう路面の白黒画像、直線偏光度LDOP と方位αである。
正午近い時間なので太陽が背後から照らしており、図3(a)の原画像である白黒画像では車が反射光でハレーションが起きている。
一方、図3(b)の直線偏光度や図3(c)の方位は、輝度変化による認識不備なるのを取り除き、クリアなイメージを得ている。
偏光計測の良いところは、窓などのガラスのフレネル反射による偏光変化を避けることができるので、ガラス内の状況も見ることができる。
さらに、図3(b)の直線偏光度の変化は赤を中心に白くなるにつれて直線偏光、黒が直線偏光以外を表す。
これを捉えることで部分ストークス・パラメータのみの計測であるが、散乱による偏光解消も可視化することが可能である。図では、空、道路の塗装や窓ガラスが偏光する物体を示している。
これに対して、樹木、道路、壁などは散乱の影響で偏光解消している。また、図3(c)は方位を表すので、車の形状による角度変化(法線方向)を表していると考えられる。
最後に工業応用例として、アクリルの角材にハンマーで打刻を与えたとき、フォトニクス結晶型高速度偏光カメラによる複屈折分布を計測した結果を図4に示す 8) 。
前述のように偏光カメラでは部分ストークス・パラメータのみしか計測できないので、方位と大きさをもつ複屈折を求めるには、照明光に円偏光をサンプルに照射して、インパクトによってサンプル内に応力によって発生する複屈折を時系列で捉える。
高速度カメラは、1/30,000秒ごとに捉えて、結果はいくつか代表的な現象を示した。このように、偏光状態を時系列でマッピングできるところが偏光カメラの大きな特徴である。
まとめ
偏光カメラの基本原理からその特徴を述べた。フォトニクス結晶型とワイヤグリット型は、素子としての性能は同程度ではあるが、実装することによって性能に特徴が出ている。当初は、消光比をあまり気にしない干渉計やホログラフィの検出素子として実用化されてきた。
近年、偏光計測に使われるに従ってその消光比の問題がでてきている。最も良いオンチップ・ワイヤグリット型は、消光比250:1が達成できており、今後ますます偏光イメージングの高度化に貢献できると考えられる。
また、応用面では、部分ストークス・パラメータのイメージングとここからの直線偏光度と方位のイメージングにより路面環境の計測例を示した。
さらに、高速偏光カメラを用いた複屈折イメージングの実例を示して、部分ストークス・パラメータから計測可能なことを示した。
今回、誌面の関係で割愛したが、偏光カメラでの消光比の問題は、2色性のキャリブレーションによって補正可能である 13、14) 。
さらに、この偏光子アレイ型偏光カメラは円偏光成分 成分が簡単に測定できないという問題がある。今後、新たな手法によってフル・ストークス・パラメータがイメージングでき、今後の偏光カメラのさらなる発展を願う次第である。
※映像情報インダストリアル2019年3・4月号「ブーム到来か!偏光カメラ」特集より転載
■ 参考文献
1) Tetsuya Hamamoto, Hiroshi Toyota, Hisao Kikuta : Microretarder array for imaging polarimetry in the visible wavelength region, Proceedings SPIE Vo.4440, 293-300(2001).
2) 2) J.E.Millerd, N.J.Brock, J.B.Hayes, M.B.North-Morris, M.Novak, and J.C.Wyant : Pixelated phase-mask dynamic interferometer, Proc. SPIE, 5531, 304-314, (2004).
3) 川上彰二郎,川嶋貴之,井上喜彦,本間洋,佐藤尚,太田晋一,長嶋聖,青木孝文:フォトニック結晶偏光子を用いた偏光イメージングカメラの開発,電子情報通信学会論文誌 C, J90-C,1,17-24(2007).
4) K. Creath, G. Goldstein : Dynamic quantitative phase imaging for biological objects using a pixelated phase mask, Biomedical Optics Express 3(11), 2866-2880(2012).
5) J.T.Wiersma, J.C.Wyant : Vibration insensitive extended range interference microscopy, Applied Optics 52(24), 5957-5961(2013).
6) T.Tahara, K.Ito, M.Fujii, T.Kakue, Y.Shimozato, Y.Awatsuji, K.Nishio, S.Ura, T.Kubota, O.Matoba : Experimental demonstration of parallel two-step phase-shifting digital holography, Optics Express 18(18), 18975-18980(2010).
7) T. Kiire, S. Nakadate, M. Shibuya, T. Yatagai : Three-dimensional displacement measurement for diffuse object using phase-shifting digital holography with polarization imaging camera, Applied Optics 50(34), 189-194(2011).
8) T.Onuma, Y.Otani : A development of two-dimensional birefringence distribution measurement system with a sampling rate of 1.3 MHz, Optics Communications 315, 69-73(2014).9) B.Salahieh, Z.Chen, J.J.Rodriguez, R.Liang : Multi-polarization fringe projection imaging for high dynamic range objects, Optics Express 22(8), 10064-10071(2014).
10) フォトロンCRYSTA PI-5WP https://www.photron.co.jp/products/polarizing-cam/crysta/feature_spec02.html
11) Y. Maruyama, T. Terada, T. Yamazaki, Y. Uesaka, M. Nakamura, Y.Matoba, T. Ezaki : 3.2-MP Back-Illuminated Polarization Image Sensor With Four-Directional Air-Gap Wire Grid and 2.5-μm Pixels, IEEE Trans. Elect. Dev., 65, 6, 2544–2551(2018).
12) J. S. Tyo, C. F. LaCasse, and B. M. Ratliff : Total elimination of sampling errors in polarization imagery obtained with integrated microgrid polarimeters, Opt. Lett. ,34(20), 3187–3189 (2009).
13) 大谷幸利,柴田秀平:光学機器のキャリブレーション法,特願2018-44865.
14) Nathan Hagen, Shuhei Shibata, Yukitoshi Otani: Calibration and performance assessment of microgrid polarization cameras Optical Engineering, 58(8), 082408 (2019).
■著者
宇都宮大学 先端光工学専攻 / オプティクス教育研究センター
大谷幸利、ネイザン ヘーガン
■問い合わせ
宇都宮大学
工学研究科 先端光工学専攻
TEL.028-689-7136
E-mail:otani@cc.utsunomiya-u.ac.jp
http://www.otanilab.org/
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