市場の流れから読み解くI/F動向とBasler社のFPGAソリューション

USB3 Visionインタフェイスは、アナログやCameraLinkに代わる汎用デジタルインタフェイスとして市場のシェアを拡大し続けており、GigE Visionインタフェイスの製品リリース後の立ち上がり時の成長を上回るスピードで成長を遂げている。

世界No.1の産業用カメラメーカとして業界で知られるBasler社ももちろん、早くからUSB3 Visionに注目し、産業用規格としての確立とその普及に努めてきた。

本稿ではUSB3 Visionの特性とメリットを紹介するとともに、これまでの市場動向の解説とBasler社の最新技術情報を交えながら、今後の産業用カメラメーカに何が求められるのかを考察する。

USB3 Visionインタフェイスとは

USB2.0に代わる規格として2008年に登場したUSB3.0は、現在PCの周辺機器として広く搭載される規格の1つとなっており、いまや産業用カメラにおいても新たなカメラインタフェイスとして幅広く浸透している。

しかし周知のとおり、USB3.0は汎用インタフェイスのため、産業用途の使用を主な目的として制定されたわけではない。

そこで国際標準化団体であるAIAが中心となって、USB3.0の特長を活かしながら、産業用途で使用できるように必要な通信仕様を盛り込んで生まれた標準規格がUSB3 Visionである。

本規格は、GenICam規格をベースとすることで、キックオフした2011 年 9 月から 14ヵ月で完成に至った。その発起および標準化団体をリーディングすることで、規格策定において大きな役割を担ったBasler社は、まさにUSB3 Vision規格の立役者であると言える。

他のインタフェイスと比較してUSB3 Visionを使用するメリットとしては、理論的には5Gbit/sec、実効値としては約350MB/secもの高速データ転送ができる点が挙げられる。

これはGigE Visionの約3.5倍であり、図1に示すように、CameraLink Baseを凌駕している。

一方で、DMA転送を実装しているためCPU負荷も非常に低い上、信号の安定性能も優れており、電気的・規格的に安定していると言える。

図1 カメラインタフェイス比較表

またUSB3 Visionカメラではリアルタイム性能が高く、図2の実測例のようにトリガ入力に対する応答性能もCameraLinkと比べ遜色ない。システムコストとしては、専用の画像入力ボードが必要ないため、CameraLinkに比べ大幅なコストダウンを実現できる。

図2 USB3 VisionとCameraLinkリアルタイム性比較

市場のメガトレンド

 USB3 Visionインタフェイスの導入が加速した別の要因として、産業用カメラ市場における大きなトレンドの変化が挙げられる。

図3に示すとおり、ここ10年の間でアナログ→デジタル、CCD→CMOS、PC→Embeddedという3つのメガトレンドが市場を賑わしている。第2章ではこれらのトレンドの変化とUSB3 VisionインタフェイスならびにBasler社の取り組みについて述べる。

図3 市場の3つのメガトレンド

1)アナログ→デジタル
特に国内市場では、長きに渡りアナログインタフェイスが市場のメインインタフェイスとして活躍してきた。

しかし、汎用デジタルインタフェイスの登場およびコストダウンにより、ここ10年で状況は大きく変わった。

USB3 Vision、GigE Visionはそのトレンドの立役者であるが、このトレンドの加速はBasler社が行った量産効果による圧倒的なコストダウンによって、GigE Visionインタフェイスを市場へ広く展開したことが1つの大きな要因と言える。

GigE Visionの後を追って登場したUSB3 Visionは帯域の広さやプラグ&プレイ(接続の容易さ)といった特徴からアナログ、CameraLinkインタフェイスの置換えをさらに促進し、GigE Visionと市場を分け合う主力インタフェイスとして成長した。

2)CCDからCMOSへ
 CCDセンサからCMOSセンサへの移行が進んだことも、USB3 Visionが市場に広く浸透した理由の1つとして挙げられる。

高解像度かつ高速なCMOSセンサの登場により、汎用デジタルインタフェイスの中でもより広い帯域をもつUSB3 Visionインタフェイスが求められるようになった。

これまで産業用カメラ市場においてCCDセンサは、その品質・画質により圧倒的な地位を築き上げていたが、原理上VGAクラスでも120fpsにとどまり、高速なデータ読み出しができなかった。

VGAクラスで120fps、5Mpixで17fpsというデータ転送量はGigE Visionインタフェイスで十分に賄える領域である。

しかしながら近年、高速と高解像度を兼ね備えたCMOSセンサの登場により、それまでGigE Visionで十分だった帯域から、より広い帯域をもつインタフェイスが求められるようになってきた。

この要求を満たすインタフェイスがまさにUSB3 Visionであり、市場へ急速に浸透していくこととなった。こうした動きは、センサ技術の改良とそのリリースのスピードもさらに加速させる。

現在ではCMOSセンサメーカもラインナップが多岐に渡るものとなったが、その中でもここ数年で、高速高画素のセンサを搭載したカメラがより目立つようになった。特にSONYのIMXシリーズは、その代表格である。

Basler社では、IMXシリーズの中でも、高速性、高感度、低価格と三拍子そろったローリングシャッタセンサの「STARVIS」シリーズや、ハイクオリティな画質と感度を高速で実現するグローバルシャッタの「PREGIUS」シリーズを採用しており、キューブ型の小さなカメラ「ace」において、最大で20Mpixの高画素センサ搭載モデルをリリースしている。

センサの高画素、高速化は、今後も市場のトレンドとしてさらに加速していくと思われる。

3)PC → Embedded
アナログからデジタル、CCDからCMOSのトレンドに続き、産業用カメラを取り巻く市場は次なる大きなトレンドを迎えようとしている。

Raspberry Piのようなシングルボードコンピュータの登場により、組込システムの構築のハードルは下がりつつあり、それに伴い画像処理システムはこれまでスタンダードであった大型のPCベースではなく、組込ベースのシステムが主流になるとBasler社は予想している。

これらのシングルボードコンピュータは、標準でUSBやGigEのインタフェイスを搭載しているケースが多く、USB3 VisionカメラやGigE Visionカメラの採用をさらに促進すると考えられる。

こういった組込システムとUSB3 Vision、GigE Visionの組み合わせは専用ボードが不要という特徴だけでなく、コンピュータ自体のコストを削減できるため、トータルのシステムコストを抑えることが可能だ。

これにより、従来コスト要因で画像処理システムの導入が困難であった市場、特にFA以外の市場へ向けて新たな画像処理システムの導入検討が可能となる。

Basler社はこの市場動向に先駆けて、組み込み用途に最適なボードカメラシリーズ「dart」を、業界の中でも早くから取り扱い始めた。

この「dart」シリーズはUSB3 VisionとUSB2.0のバイリンガル対応で、低コスト、省消費電力、小型化といった特徴から、非常に人気の高いシリーズである。また独自のSDK「pylon」のARM対応版もリリースしている。

さらに「dart」には、次世代インタフェイスの提案として、LVDSに対応したBCONという独自インタフェイスをもつ機種もある。

昨年にはMIPIインタフェイスの機種もラインナップに加え、よりエンベデッドシステムに適用可能なカメラとして、提案の幅を広げている(図4 、5)。 

今後もBasler社はPCシステムからエンベデッドシステムへの移行という市場の流れの中で、新たな技術への投資を続ける。

図4 ボードカメラ「dart」シリーズ

図5  シングルボードコンピュータとdart USBによる簡易的な組み込みシステムの例

“総所有コストの最小化”という考え方に基づく、Basler 社のFPGA 設計と開発

Basler社が世界No.1の産業用カメラメーカとなった背景には、多種多様なインタフェイスとセンサのラインナップの多さだけでなく、その高い技術力にも大きな要因がある。

USB3 Visionインタフェイスの浸透と高性能なセンサの登場により、カメラメーカは低価格で高性能なカメラを提供する事が求められるようになっている。

この現状において産業用カメラの差別化は、画質にかかわるFPGAの設計思想と、PCとの親和性や操作性の向上を求められるカメラドライバとSDKの品質が大きな要素となる。

同じCMOSセンサを搭載しているデジタルカメラが、必ずしも同じ画質を再現できるものではないように、産業用カメラにおいてISP(ImageSignalProcess)の開発は、今や各カメラメーカのコア技術となっている。

一方で、センサのラインナップの増加と高精度化に伴い、カメラに付随する光学系の買い替えが、トータルとしてのビジョンシステムコストの増加を招いてしまうケースも少なくない。

Basler社は「Total Cost of OwnerShip(総所有コスト)の最小化」という考え方から、ユニークな機能開発を最新のFPGA技術で実現し、他社メーカとの差別化を図っている。

その1つが、新しく搭載された「ビネッティング補正」という機能である(図6)。ビネッティング補正とは、カメラのセンササイズに対してレンズのイメージサークルが小さい際に発生する口径食を抑える機能である。

図6 ビネッティング補正機能を使用していない画像(左)と使用した場合の画像(右)

この機能では一度だけカメラのキャリブレーションを行い、撮影時にカメラ内に保存した補正値を自動的に適用する。その結果、レンズを大型のものへ変えなくとも、口径食を防いで画質への影響を抑える事ができるというものである。

またこの機能を使用することでの、フレームレートへの影響もない。近年登場したSONY IMXシリーズをはじめとする1インチを超える大型センサは、高性能で、かつ従来のハイエンド高画素カメラと比べてコストパフォーマンスも良い。

さらにこの機能により、レンズのコストも最小化できる。これらの独自のFPGAソリューションにより、Basler社は最新のセンサの採用やラインナップを単純に増やすだけでなく、産業用カメラに新たな付加価値をもたせている。

今後のUSB3 Visionインタフェイス動向(まとめ)

 産業カメラを取り巻く市場は、現在大きな変化のさなかにある。その流れの中で、今後汎用的なインタフェイスとして、USB3 Visionも市場でより広く浸透していくことが予想される。

前章で紹介したFPGA開発技術は、Basler社のカメラ「ace」USB3 Visionシリーズにも搭載されている機能である ※1

単にセンサの登場に追随してラインナップを増やすだけでなく、最新のセンサにこうした独自のFPGA技術を組み合わせることで、Basler社は産業用カメラにさらなる付加価値を与えている。

市場の動向とトレンドを正確にキャッチし、その先進的な技術力と共に、Basler社は業界のトップを走り続ける。

※1 一部非対応の機種有。詳細はお問い合わせください。

※映像情報インダストリアル2019年3・4月号 特集より転載

問い合わせ
株式会社リンクス
TEL.03-6417-3371
E-mail:info@linx.jp
http://linx.jp/

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