人間の感覚をもった画像検査システム 「Deep Inspection」

製造業・医療分野をはじめとして、高品質で信頼のおける製品・サービス提供のために、目視検査が一般に普及している。一方で熟練した検査員のノウハウ継承やコストの高騰などから、検査の自動化ニーズが高まっているものの、既存画像処理技術には課題も多かった。近年、Deep Learningと呼ばれるAI技術の1つが画像処理分野で飛躍的な成果を収めており、画像検査領域への応用が期待されている。本稿では、自動画像検査システムへのDeep Learningを用いた取り組みであるDeep Inspectionについて概説する。

1.はじめに

1.1 検査現場の現状 
高品質な製品を世に生み出すために「検査」の工程は非常に重要な要素の1つであり、産業が多様化した現在ではますますその重要性は高まってきている。 従来までは検査は複数の人間による目視検査が最も信用の置ける手法として定着していたが、近年ではより客観的な評価基準による検査のシステム化の1つとして、画像処理による検査の自動化が一般的となってきている。 しかしそのような画像処理による自動検査に、人間のような柔軟な判断基準を設定することは非常に困難であり、多くの課題を抱えていることも事実である。

1.2 Deep Learningの活用
一方、Deep Learningと呼ばれるAI技術が、2012年に行われた画像認識の国際大会で大きな成功を収め、この数年の間に大きく注目を集めている。この技術は、特に画像処理の分野で大きなブレイクスルーをもたらし、既存の画像処理技術の課題を解決する鍵として製造業・医療分野への応用が始まっている。

2.現状の外観検査へのDeep Learning活用のメリット

2.1 人による目視検査
製造ラインの多様化と製品の高品質化が進んだ近年、多くの検査現場では人による目視検査を行っているところも多い。従来から人による目視検査は一定水準で汎用的・信頼できる手法として認識されている一方で、近年では少子高齢化による検査員の人手不足や熟練検査員のノウハウの継承が困難などといった課題が顕在化してきた。また、個体差のある対象への主観的検査を複数人で行う場合では、人それぞれに判断基準が曖昧なために品質水準を保つのが難しいという課題もある。このような目視検査の課題を解決するために、近年、外観検査の自動化のニーズは増加している。

2.2 自動化時の課題「微妙な差異の認識」
一方、そのような外観検査の自動化への期待が高まっているにもかかわらず目視検査が未だに実施されているのは、既存の画像検査に課題が多いためである。画像検査における代表的な課題として、検査対象や撮影条件が微妙に異なる場合に正しい判定ができないことが挙げられる。すなわち検査対象の形状や向き、撮影時の光の反射や色味が一定でない場合に誤判定を下してしまう場合がある。そのため機械部品など製品内で外観がほぼ一定の場合において既存の画像検査は対応できるが、食品や木材・鉄板など微妙な色むらや形状の違いのある材料・素材を対象にする検査の自動化には向かないことが多い。

2.3 Deep Learningを活用した検査
Deep Learning技術が既存の画像処理技術と大きく違う点は、対象の画像から「自動的に特徴を抽出する」という点にある。そのため、従来では対象の画像群に対して人が個別に特徴抽出方法を設計する必要があったものを、参考とするデータを教示するのみでおおよその特徴抽出ができるようになった。また画像という高次元のデータを扱う際に、ニューラルネットワークを模したパーセプトロンモデルを多層化させることにより、非常に柔軟に特徴を抽出することが可能となった。簡単に言うと、人間が定義できなかったり、気付かないような微細な特徴や全体的な雰囲気といった特徴を踏まえた上で処理することが可能となった。そのため画像処理システムを開発する際の工数だけでなく、性能としても従来手法に比べ飛躍的に向上している。 このように非常に魅力的な手法であるが、いくつか課題も存在する。たとえば学習には一定量の画像を用意する必要がある。また、実際には万能の手法ではないため、従来手法と組み合わせて最終的に検査システムとして成立するという場合も多く、使い方にノウハウが必要な部分も多い。

3.Deep Inspectionの特徴

そもそも画像や動画といった非構造データへのDeep Learningによる解析に強みをもったRistが画像検査の領域に乗り出したのは、「既存の画像処理では十分な検査性能が出せないのでどうにかして欲しい」というクライアントからの強い要望がきっかけだった。その中でも単なる「分類」や「良否判定」だけではなく、個体差のある対象への「キズ部位の位置判定」や「特定領域の抽出や幅測定」、「対象物体のランク付け」といった曖昧な処理を、人間の過去の判定を参考に学習しシステム化することに強みがある。たとえば図1は、対象画像中の異常部位の有無だけでなく、どこに異常部位があるかを可視化する技術の例である。このように、より詳細な解析を伴った検査システムを組み込み高精度を達成することがDeep Inspectionの強みである。


図1 キズ位置を含めた良否判定

4.他社パッケージ製品との優位性

4.1「既存のDeep Learningパッケージ製品では上手くいかなかったのだが、どうにかならないか」
弊社にご連絡いただくクライアントの半数以上は、既存のDeep Learningを利用したパッケージソフトに満足できずに弊社にたどり着いたという。その理由は、Deep Learningをはじめとした機械学習アルゴリズムには、その各対象データに応じた「データの前処理」と、最終的に求められる結果に対した複数のアルゴリズムの選定と実装が欠かせないからである。もちろん対象データによっては、パッケージソフトでも十分対応可能な場合もあるが、より複雑な対象やより高精度で実用的な性能を出すためにはDeep Inspectionが最良といえる。たとえば、現在は人間が行っている検査作業を自動化するという場合に「確実に識別できるものだけをシステムに任せ、曖昧なものを人間に任せる」といった人間との共同作業を行いたい場合もあるだろう。

そのような要望に応えるために、弊社独自技術としてシステムによる判断の「自信度」を算出することに成功した。たとえば他クラス画像分類タスクで精度88%だった事例に対し、弊社独自の自信度算出法を適応した場合に図2のようになる(青色:正解、橙色:不正解)」この場合に、自信度50%以上のものだけをシステムに判断させれば全体の半数以上を精度99%以上で分類することが可能となる。そして自信度が低い部分は今まで通り目視検査を行うことで、品質水準を維持したまま目視検査の負荷を軽減させることができるのである。また導入後は目視検査データを蓄積とシステムの再学習により精度向上も可能なことから、将来性のあるものとなっている。


図2 Deep Inspectionの自信度算出

4.2常に最新のアルゴリズムを実装可能
Deep Learningの分野は世界的にも非常に進歩が早く、日々新しい手法が世に出されている。そのため半年前にできないと思われていたことも、今では実現可能になっていることも多い。そこで弊社では国内外の研究者とも連携し、常にクライアントの課題に対して最良のソリューションを提供できるように、最新の研究成果を実装できる体制を構築している。

4.3既存設備・他企業との連携
実際に検査システムを検査ラインに組み込む際には、既存設備との連携が欠かせない。Deep Inspectionでは検査アルゴリズムの開発を行った後にスムーズに導入できるよう、ソースコードの提供や、ソフト導入済みハードウェアとしての納品などクライアントごとに柔軟な対応をとっている(図3)。また各社の運用に応じた操作画面の設計・開発や、特定分野への汎用的な検査ラインを検査機器会社との協業による開発・販売も可能である。


図3 Deep Inspection導入スキーム例

5.今後のロードマップ

画像外観検査の分野では、今後は既存の画像処理技術とDeep Learning技術の強みを組み合わせた手法がスタンダードとなっていく。弊社は1つ1つの事例と向き合い、ノウハウを蓄積させることで高水準な技術を保ち、クライアントに還元する体制を整えていく。また、動画や音声・時系列データを始めとしたデータの解析にも力を入れているので、そちらの分野を含めたトータルソリューションを提供していく予定であり、協業していただける企業を探している。

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