ディープラーニングへの取り組み ~異常検知エンジン「gLupe」の紹介~

株式会社システム計画研究所(以下、当社)では、ディープラーニング技術を中心とした人工知能事業を1つの柱としている。ディープラーニングはIT業界を中心に、様々な業界で現在注目されている。本稿では、その取り組み内容とともに、当社が開発を行った製造業向け異常検知エンジンである『gLupe』について紹介する。

※映像情報インダストリアル2017年1月号より転載

1.はじめに

当社は、医療情報、制御・宇宙、通信・ネットワーク、画像処理の各分野を中心領域として、付加価値の高いコンピュータシステムを構築することを事業とした独立系ソフトウェア会社である。近年は、通信・ネットワーク分野で蓄積したビッグデータ関連技術と、画像処理分野で実績をあげていた機械学習を使った画像認識技術を発展させ、人工知能・機械学習・ディープラーニングを事業の1つの柱として推進している。

2.ディープラーニングへの取り組み

2.1 機械学習/ビッグデータ関連事業へのきっかけ
通信・ネットワーク分野では、基盤通信・プロトコル・ネットワークアプリケーションに渡るまで、下位レイヤーから上位レイヤーまで幅広く取り扱ってきた。通信を行うことで蓄積されたデータを効率よく取り扱うためのデータベース関連技術、そしてそのデータを利活用するためのビッグデータ分析技術と事業が広がっていた。

また、画像処理分野では、人物をターゲットとしたクロマキー技術(映像/画像合成技術)を軸とし、各部位のパーツ認識・美肌や変形などの加工処理技術を蓄積していた。特にパーツ認識では機械学習をベースとした技術であった。これら2つの分野で技術交流を行う中で、共通の技術と知見が多く見られることがわかり、分野/体制を超えた横断型プロジェクト設営を試みることとなった。

2.2 ディープラーニングへの取り組み
2013 年末頃より、とあるプロジェクトにて、ディープラーニングフレームワークの高速化を行った。これが当社初のディープラーニングに関するプロジェクトであった。

その後、2014年7月に東京ミッドタウンホール&カンファレンスで開催された NVIDIA 主催のGPUテクノロジーイベント「GPU Technology Conference Japan:GTC Japan 2014」にて、当社のシニアリサーチャーである奥村が「ディープラーニングによるビッグデータ解析~手法やCUDAによる高速化」の講演(図1)を行い、多くの来場者の関心を得た。


図1

この講演の好評を受けて、同年9月、当社会議室を使い「ディープラーニングの周辺話題~GPUとビッグデータ~」と題したセミナーを実施講演に引き続き好評にて定員18名を大幅に上回る37名を受け入れることとなった。その後も定期的にセミナーを開催しながら、プロジェクト化を進めていった。

今年10月にヒルトン東京お台場で開催された「GTC Japan 2016」では、ブース出展だけでなく他社への展示協力も行い、産業用ロボットやパワードスーツなどロボティックス方面への取り組みについてもアピールを行った。

同11月には、つくば市で開催されている遊歩道等の実環境を移動ロボットに自律走行させる「つくばチャレンジ」に、宇都宮大学尾崎研究室への技術協力の形で参加(図2)し、ディープラーニングを使った看板(コース上のチェックポイント)の検出にて成果を出した。


図2

現在では、自動車関連会社、製造業やロボットメーカをはじめとして、様々な業界とプロジェクトを進めており、データの種類としても画像や動画だけでなく、自然言語やセンサデータ、これらのマルチモーダルな処理など、広く取り扱っている。

ディープラーニングを中心とした人工知能関連事業は、最初のプロジェクトから3年ほどたった現在、当社の1つの柱となり、データ分析やシステム開発だけでなく、コンサルティングや各種セミナー/講演など幅広く展開している。

2.3 DeepLearning BOXを使った開発
ディープラーニングを使ったデータ分析やシステム開発では、フルスクラッチでの開発というよりも、プロジェクトに応じて各種ライブラリ/フレームワークを選択し利用することが多い。

有名なものとしては、バークレー大学で開発されているCaffe(http://caffe.berkeleyvision.org/)、Preferred Networksが開発したhainer(http://chainer.org/)や、Google がオープンソースとして発表したTensorFlow(https://www.tensorflow.org/)などがある。当社では、ディープラーニングを使った分析、開発の基盤の1つとして、「DeepLearning BOX」を利用している。この「DeepLearning BOX」は、GDEPアドバンス(http://www.gdep.co.jp/)が販売しているオールインワンDeepLearning専用ワークステーションである。

上記のライブラリ/ミドルウェアをはじめ、WebベースのディープラーニングGUI環境である「NVIDIA DIGITS」がプレインストールされている。これらのインストール/環境構築の手間や、ライブラリ間の依存関係に煩わされることなく、すぐにディープラーニングを動かすことができる環境となっている。

2.4 啓蒙活動
当社では、ディープラーニング事業に関して、データ分析やシステム開発だけでなく、セミナーや各種講演を通して、啓蒙活動にも力を入れている。

NVIDIAをはじめとした各社主催の各種セミナーでの講演だけでなく、ディープラーニングを事業に導入しようと考えているお客様向けのプライベートセミナーなども積極的に行っており、人工知能の歴史からディープラーニングの理論、ハンズオンを通した実際の開発フローまで幅広くサポートしている。

また、ディープラーニングに限らず、これからデータサイエンス分野で機械学習の研究を始めようとしている大学生・大学院生の参考書/機械学習技術を基礎科学や産業に応用しようとしている研究者・技術者の導入テキストを目指し、オーム社より「Pythonによる機械学習入門」(図3)を2016年11月に発売した。


図3

3.異常検知エンジン「gLupe」

当社は、製造業のお客様向けに、スマートファクトリー化の第一歩を支援するための製品開発を行った。これが異常検知エンジンgLupe(図4)である。


図4

3.1 開発のきっかけ

製造業をはじめとして、外観検査や異常検知(図5)などに関する相談が増加してきている。たとえば、製造ラインに流れている製品のキズを自動で見つける、食品への異物混入を検知する、監視カメラに映っている映像からいつもと違う状況を検知する、などである。


図5

当社では元々、画像処理を使った外観検査装置ソフトウェアの開発実績があった。そのような背景もあり、ディープラーニングを使った異常検知エンジンgLupeが生まれることとなった。

3.2 本製品の特長
定常状態から外れた状態を検知すること全般を「異常検知」と呼ぶ。通常、正常データと異常データの両者を用意し学習する必要がある。しかし実際には学習のための異常データ収集がなかなか集められないというのが、お問い合わせいただく中での共通した課題であった。

そこで、「正常な画像」データのみを使ってディープラーニングで学習し、製品の正常状態をひたすら覚えこませることで、「いつもと違う」画像に反応できるようにしたものが、本製品の最大の特長(図6)である。


図6

3.3 事例と市場動向

本製品の適用プロジェクトとしては、画像処理を使った検査機器では見つけられないレベルの細かいキズの発見などがある。現状このような問題に対しては、最終的に人が全数検査を行うことで対処している現場が多く、7割8割でもよいので少しでも人の作業を減らすことに寄与できないか…という相談からプロジェクト化の検討がスタートすることが多い。

また正常/異常の分類だけでなく、さらに異常の種類を分類するような問題や、機器の故障予測などの相談/プロジェクトも増えてきている。このような動向に対して、当社では2016年10月に東京ビッグサイトにて開催された「FACTORY2016 Fall」に出展し、工場部品を想定した傷検知のデモ(図7)を行い、多くのお客様から新たなご要望などを得ることができた。


図7

3.4 製品の今後の展開
gLupeは、現状の外観検査だけでなく、異常検知、故障予測、FAロボットの分野など、製造業に対して、AIを使った幅広いアプローチを行う製品として検討を進めている。また、より現場での運用を想定し、手軽にデータ収集と学習を繰り返しながら、エンジンを賢くアップグレードしていくことができるようなアプローチも検討中である。

現在、本製品は、開発サービスとしての形態での提供となっている。ディープラーニングの特性上、あらゆる製造現場へ同一のエンジンを提供することは、非常に難しい問題であるが、解析対象や問題を限定することで、ある程度の汎用的なエンジンとして進化できることを考えている。汎用化することで製品パッケージ化が可能となり、現場への導入が加速されると思われる。

4.おわりに

本稿では、当社でのディープラーニング事業への取り組み、および製造業向けの異常検知エンジンであるgLupeの紹介を行った。ディープラーニングは、現状では若干バズワード的な側面があることも否めない。しかし、これまでのルールベースのアプローチとは異なる視点での改善に期待できることは事実である。

学習ベースの手法を検討するには、最初に「データを集める」ことが必要となる。実際にはこれがハードルとなってしまうことも少なくない。まずは簡単なところから運用を始め、運用しながらのデータ収集を行うことも有効なアプローチであると考えている。

当社では、学習環境の相談から、実際の開発まで幅広くサポートできる体制を整えており、セミナーを通した啓蒙活動なども含め、業界全体への貢献も目指している。

問い合わせ先
株式会社システム計画研究所/ISP
TEL:03-5489-0234
E-mail:ai-contact@isp.co.jp
http://www.isp.co.jp/

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