近赤外ハイパースペクトラルイメージングが産業用途への広がりを見せている。近赤外分光は食品の検査などで使用されてきたが、分光とイメージングが行えるハイパースペクトラルカメラを用いることによって、これまでは困難であった検査が実用化されている。
その1例として、一般ユーザーにも使いやすく、産業用途のインライン検査でも使用されているCAMLIN Photonics社製のハイパースペクトラルイメージング装置とその計測例を紹介する。
それにより、ハイパースペクトラルイメージングの利点、有効性、可能性などを感じていただければ幸いである。
はじめに
可視光ではわからない違いを判別するために、赤外線イメージングが広く用いられている。その中でも近年、近赤外ハイパースペクトラルイメージングが、これまでにない付加価値をもった検査方法として注目を浴びている。
しかし一般ユーザーにとっては、次のような点が導入のハードルとなることがある。
・ カメラ、スキャナ、光源といった複数の構成品があって操作が煩雑。
・ 装置の制御、データ取得、データ解析、製造ラインへの適用において、別メーカーのソフトウェアが必要となる場合がある。
・ 取得したデータからユーザーが必要な情報を得るには、高度な解析が必要な場合も多い。
・ 装置は取扱いに注意が必要な物も多く、製造ラインでの使用に適さない場合がある。
ここでは、それらの課題を克服し、実際の産業用途でもすでに多くの使用実績のあるCAMLIN Photonics社製のハイパースペクトラルイメージング装置とその計測例を紹介する。
ハイパースペクトラルイメージング(HSI)について
ハイパースペクトラルイメージング(HSI)は、分光とイメージングが融合した装置である。表1に、分光器、カメラ、HSIの簡易比較を示す。通常の分光器では、波長ごとの特性(スペクトル)を得ることができるが、計測できるのは1ヶ所のみである。
通常のイメージング(カメラ)は、空間的な情報(画像)を取得できるが、RGBの3色の情報となる。それに対してHSIでは、画像の各ピクセルに分光データを有している。
さまざまな物質はそれぞれ特有のスペクトルを示すため、分光データを取得すると含有物質を推定することが可能になる。また、ハイパースペクトラルイメージングは2次元画像を取得できるので、空間的な情報を得ることが可能になる。
つまり、ハイパースペクトラルイメージングを用いると、「何が、どこに、どのくらいあるか」を計測することが可能になる。それは、たとえば異物や不良品などの、「肉眼や通常のカメラではわからない違いを画像として見分けられる」ということである。
製品の選別、検査、安全性が必要とされる用途、たとえば食品などの、幅広い分野で重要な分析方法の1つへと発展している。
CAMLIN Photonics社について
CAMLIN Photonics社の属するCAMLINグループはイギリスに本社を構え、400人を超える従業員の半数以上が研究開発に携わっている。
CAMLINグループは、「your Performance, Our Technology」をモットーとし、先端技術を新しい産業用途に適用することに力を入れている。
これは、顧客のアプリケーションやニーズを理解し、それを解決できる装置を提供することによって、顧客の商品の価値を向上させるということである。
グループには電力、鉄道、光学、健康器具の部門があり、ヨーロッパに7ヵ所のR&Dセンターを置いている。以下はその例である。
・スコットランド:分光分析やHSI
・イタリア:マシンビジョンと人工知能
・デンマーク:フォトアコースティック(光音響)
これによりワールドクラスの科学者や技術者の豊富な知識や経験を集約し、製品に反映させることが可能となり、世界的な大企業の開発事業に携わっている。
グループ内でCAMLIN Photonics社は分光分析やハイパースペクトラルイメージングを専門としている。この分野で数十年の経験を蓄積しており、エンドユーザー向けとOEM用の両方に多くの製品を供給している。
実際のアプリケーションに対する豊富な知識や高いエンジニアリング能力により、食品、芸術作品の保全、科学捜査、工業製品の検査など、さまざまなアプリケーションにおいて顧客のニーズを満たすシステムを提供している。
CAMLIN Photonics社製のハイパースペクトラルシステムについて
CAMLIN Photonics社のハイパースペクトラルシステムは、エンドツーエンドソリューション製品である。
単にハイパースペクトラルカメラを供給するだけではなく、光源、コンベア等の周辺機器やソフトウェアも合わせて提供している。
これらの機器が一体となったデスクトップ型のハイパースペクトラルイメージング装置HYPERION HSIの外観を図1に、主な仕様を表2に示す。
CAMLIN Photonics社は装置の販売だけではなく、データ解析や測定方法の検討、さらに製造工程でのオンライン検査用の装置まで、一貫したサポートを行っている。
それにより、分光分析に時間や人員を費やすことが難しいユーザーでも導入が容易となる。前述のようにグループ内にマシンビジョンや人工知能を専門としたチームがある。
それをハイパースペクトラルイメージングに適用することによって、よりスマートな測定、表示、解析を行うことが可能となっている。ソフトウェア画面の例を図2に示す。
このソフトにはPCA(主成分分析)などの解析機能が備わっており、ユーザーが検査したい項目に該当するデータを簡単に抽出できる。計測にはプッシュブルーム方式を採用している。また、堅牢で信頼性が高く正確で再現性のある測定が可能な装置となっている。
そのため、最初のサンプル測定段階から、インライン検査を想定したデータ取得や解析を行うことが可能であり、工場内の製造ラインでの過酷な条件下での使用にも対応可能である。さらに、実際のアプリケーションに最適化するためのカスタムにも柔軟に対応している。
・ユーザーが簡単にHSIを開始可能:
カメラだけではなく、光源、コンベア、ソフト等が一体となったシステムの提供。
・ユーザーフレンドリーで高性能なソフト:
機器の制御、測定やデータ取得はもちろん、高度な解析まで対応。
・製造ラインのオンライン検査に対応:
ロバスト性、信頼性に優れ、アプリケーションに応じたカスタムが可能。
・手厚いサポート体制:
豊富な知識や実績に基づき、研究開発からインライン検査までさまざまな段階でサポート。
ハイパースペクトラルイメージングの計測例
分光分析における主要な解析方法の1つにPCA(主成分分析)がある。ハイパースペクトラルデータでもこのPCAはよく利用されている。
イパースペクトラルデータは情報量が多いので、そこから必要な情報を抽出することは大変な作業となることも多い。
しかしPCA画像を用いると、サンプル中の差や異物を見つけやすくなることが多い。ここでは、主に以下の3点に注目して、ハイパースペクトラルイメージングの計測例を紹介する。
・各ピクセルの分光データ
・任意の波長の画像
・PCA画像
【肉】
図3は、肉の部位(赤身、脂、骨)ごとの分光データである。このような波形の違いを用いることによって、食肉の検査や等級分けに利用されている。計測項目としては、筋肉内脂肪、脂と身の割合、タンパク質、コラーゲン、水分、pH等がある。
【医薬品】
図4は錠剤で、左がハイパースペクトラル画像、右が含有される成分ごとの分光データである。有効成分の種類や均一性、充填材や錠剤コートの検査が可能となる。
【植物】
図5は、葉を近赤外ハイパースペクトラルで計測した例である。右は波長1,274nmにおける画像で、波長を変えることによって特徴が表れることがある。さらに、中央のPCA疑似カラー画像では、通常の葉(緑色)、茎(紫色)、枯れた葉(水色)の識別が可能である。
【異物の検出】
図6は、複数の茶葉と異物を測定した例である。肉眼では判別が困難な異物も、PCA疑似カラー画像では明らかな違いが表れている。このように、食品中の異物の検出は、ハイパースペクトラルイメージングの有効な用途の1つである。
また、ここでは異物に着目した色付けを行ったが、茶葉の種類による差も見られる。1つの計測器で異物検出と、成分等による選別が行えることもハイパースペクトラルイメージングの特徴である。
おわりに
近赤外ハイパースペクトラルイメージングの用途は広がっており、海外では産業用のオンライン検査装置としての実績も多く存在する。
分光分析の専門家や経験者だけではなく、一般ユーザーでも採用できる状況が整ってきており、日本国内においてもさらなる市場の拡大が予想される。
ここまで多くの利点を述べてきたが、当然ながら万能な装置ではないので、用途によって向き不向きがある。また、すぐに所望の結果が得られるとは限らない。
しかし、これまでは困難であった検査が実現できる可能性があることは事実である。まだ使用したことのない方々には、一度サンプル計測を行うことをお勧めする。弊社アイ・アール・システムにもデモ機を準備しているので、まずは気軽にお試しいただきたい。
■問い合わせ
株式会社アイ・アール・システム
TEL:042-400-0373
E-mail:office@irsystem.com
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