リアルタイム8KVRシステムの概要

アストロデザイン(以下、弊社)では、8Kカメラと魚眼レンズを組み合わせた8K VRシステムを推進している。本稿では、システムの特長と使用事例について紹介する。

8K VRへの取り組み

アストロデザインは2000年から8K製品の開発を行っている。近年ではシャープ(株)との8Kカムコーダの共同開発をはじめとして、120p撮影用8Kカメラ開発、マルチパーパス8Kカメラ開発など、8Kカメラ事業の多角化を行っている(図1~3)。

図1 8Kカムコーダ「8C-B60A」

図2 120p撮影用8Kカメラ「AB-4815

図3 マルチパーパス8Kカメラ「CM-9010-B」

ここ数年のVR関連技術の隆盛とその可能性にビジネスチャンスを感じ、弊社でも一役買いたいと機会をうかがっていた。そのような折、2018年1月に魚眼レンズメーカの(株)インタニヤからインタニヤ社製の魚眼レンズを使ってみないかと声をかけていただき、テスト撮影の機会に恵まれた(図4)。

図4 2018年1月、8Kカメラと魚眼レンズの初めての接続テスト

撮影した映像は、細部が非常にクリアに撮影されているとVRユーザーの方々から高い評価をいただいた。そのことに自信を得て、弊社はVRへの取り組みを本格化させた。16:9のセンサでは、魚眼レンズで垂直方向の映像をすべて収めようとすると、水平方向の映像の半分近くは黒になってしまう。

しかし8Kの解像度をもつカメラであれば、それでもなお非常に高精細な映像を撮影できる。アストロデザインの8Kカメラは非圧縮映像を直接出力することが可能なため、撮影したその場ですぐに高精細な円周魚眼映像を確認することができる(図5)。

図5 その場で8Kモニタを使って細部まで確認

8K VR使用事例

弊社で開発するさまざまな8Kカメラを用いてテスト撮影を行い、利用シーンの模索を続けている。

1)自動車の社内をVR撮影図6
自動車に乗っているような感覚を味わえるコンテンツである。広範囲に撮影しているため、ドライバーの行動解析、景色の観察など、たくさんの情報を一度に取り込むことができる。

図6 自動車の社内をVR撮影

2)名古屋でのアイドル撮影図7
エンターテイメント向けのVR映像コンテンツ。最前席で音楽ライブを楽しめるような映像の提案である。リアルタイムで映像を出力できるため、ライブイベントでの利用も可能。また、国内だけにとどまらず海外の展示会等でも露出を増やし8K VRのプロモーションを行っている(図8~10)。

図7 名古屋でのアイドル撮影

図8 社内テストAH-4801 8K Cubeカメラ

図9 4K8K機材展 CM-9010-A
マルチパーパスカメラ

図10 IBC 2018 CM-9010-B
マルチパーパスカメラ

アストロデザインの8K VRの特長

1台のカメラで250°の撮影ができ、高解像度の映像をスティッチングなしで表現することができる。すなわち複数台のカメラを使う必要がなく、スティッチングによる不都合が起きにくいことが最大の特長である。また小型軽量のため、機動性の高さを活かしてさまざまな場面での撮影が可能となる。

8Kリアルタイム処理

当初はオフラインによる8K VRコンテンツ制作を行ってきたが、弊社の強みであるリアルタイム処理への取り組みを2018年10月から開始した。

大容量の8K映像データを高速処理するためのプラットフォームTamazone Workstationの開発、8K入力ボードの登場、そして8K映像をリアルタイム処理可能なソフトウェアといった周辺設備の環境が整ったことで、8K映像をリアルタイムでVRヘッドセットへ変換できるようになった(図11)。

図11 InterBEE 2018 8K素材をリアルタイムでVRヘッドセットに表示するデモ

1)Tamazone Workstationとは
高性能CPUと大容量メインメモリによる高速処理を実現し、サーバに匹敵する高速・大容量の内蔵ストレージを搭載するだけでなく、グラフィック処理に必要とされるGPUや入出力インタフェイスに対応するPCIeスロットを備えた次世代ワークステーション。

独自設計により8K非圧縮映像をリアルタイムでRead/Writeすることが可能な内蔵ストレージスピードを実現した(図12、13)。

図12 Tamazone Workstation AW-8800

図13 Tamazone Workstationの内部構成

2) Tamazone Workstationを使用したアプリケーション
Tamazone Workstationと弊社独自のアプリケーションや市販のアプリケーションを組み合わせることで、8K映像の長時間保存、ブレ補正、エクイレクタングラ変換、ノイズ補正、色収差補正、物体認識等をリアルタイムで処理することができる(図14)。

図14 イメージ図

8KステレオVR

8Kカメラを2台利用したステレオVRにも取り組んでいる。3D VRは2Dよりも距離感が認識しやすくなるため、さらなる高臨場感をもったVR映像を実現できる(図15)。

図15 8KステレオVR

課題と今後の取り組み

現状の課題としては、ヘッドマウント側の解像度が満足できないため、高解像度で撮影を行ってもその効果を十分に再現できないことが挙げられる。

しかし近年のディスプレイ技術の発展によって、高解像度のヘッドマウントディスプレイが出現するのは時間の問題である。また通信網を介してVR映像を利用する際には、大容量映像のデータ配信と表示位置情報の低遅延の通信が必須となる。

5Gのサービス化が始まり、手軽に大容量のデータを送れるようになれば、8KリアルタイムVRシステムの需要は飛躍的に伸びると期待している。

その他、VR映像では、試聴側で視野相当の画像切り出しを行うことから、元画像が8Kであっても解像度が物足りなく感じる可能性もある。

そこで弊社では、Deep Learningを用いた超解像によるVR映像の拡大についても技術検討を行っている。アストロデザインは、8K VRカメラとTamazone Workstationを使ったシステムを、医療分野やインフラ検査、工場の自動検査などに活かしていきたいと考えている。

※映像情報インダストリアル2019年5・6月号「時代を牽引するVR技術」特集より転載

問い合わせ
アストロデザイン株式会社
TEL.03-5734-6301
E-mail:astro-info@astrodesign.co.jp
https://www.astrodesign.co.jp/

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