企業の現場で急速に需要が高まるVR (バーチャルリアリティ)

近年、業種を問わずさまざまな企業から注目を集めるVR。他のメディアでは実現できないVRならではの特徴を活かして、人の心理面にも影響を及ぼす新スタイルの安全教育など、次々と新たなコンテンツが開発されている。

しかしユーザーや開発者の多くは、VRのメディアとしての特異性を理解しないまま利用を進めているため、現状ではVRがもつすべての可能性を活用しきれていない。本稿ではVRの本質に言及し、より効果のある利用を促進するためのポイントを紹介する。

多くの開発者が気づけていないVRの本質とは?

現在、ほとんどのコンテンツ開発現場において、VRは動画の延長上にあるメディアだと捉えられている。多くの開発者はVRコンテンツを制作する際、動画制作で培われた手法をもとに、コンテンツシナリオを検討する。

しかし実際のVRは、本質的には動画と一線を画した異次元のメディアである。そのため、VRではコンテンツで提示する対象や目的、制作手法、利用シーンをこれまでとは全く異なる考え方で検討する必要があるが、多くの開発者はその本質に気づけていない。

これからVRがこれまでのメディアとは異なる領域を提示していることを説明する。まずは1枚の絵を見ていただこう(図1)。

図1

この絵には文章が書かれている。イメージは一切提示されていないが、この文章を見るだけで人は状況を想像し、頭の中でイメージを再現することが可能になる。次にもう1枚の絵を見ていただこう(図2)。

図2

今度はイメージが提示されることで、文章よりも具体的な状況を頭の中で想像し、再現することが可能になる。さらにもう1枚、次は写真を見ていただこう(図3)。

図3

写真が提示されたことにより、被写体の性別、人種や身長、周囲の詳細な状況や時刻など、多くの情報が確定された状態で、より詳細な状況を想像し、頭の中でイメージを再現することが可能になる。

そして、図3を動画として提示することにより、被写体の動き、時間経過による変化なども追加して、変化する状況を具体的に想像し、頭の中で再現することが可能になる。

これらすべてにおいて、視聴者は提示されたコンテンツ(テキストやイメージ)から頭の中で状況を想像することで情報が解釈される。

しかしVRでは、一見するとVRゴーグルを視聴者に被せてイメージを提示しているようだが、視聴者は頭の中で状況を想像しているのではなく、実際にその場所に居るという感覚を体験している。

故にVRコンテンツは人の頭の中で想像して解釈されるものではなく、人に対して現実に感覚の体験を提供するもの、すなわち、感覚を再生するメディアなのである。

小説、ポスター、マンガ、テレビ、映画、ビデオゲーム、webサイトなど、これまでのメディアではコンテンツ(テキストやイメージ)を提示して、人のイマジネーションを補助することで状況を表現してきた。

これらは人にイメージを見せて想像させ、イマジネーションの中で疑似的に経験したかのように錯覚させることを目的としている。そのため、すべてのコンテンツ情報は視聴者の想像の中で理解される。

しかしVRは、実際に存在する感覚、経験自体を提供する。VRデバイスによって人の五感をハッキングし、感覚自体をリアルタイムに錯覚させることで、現実の感覚を再現する。

現在主流のヘッドマウント型のデバイスでは、人の視覚と聴覚をハッキングしてVRを再現しているが、感覚を再生するデバイスという本質的な意味合いでは、触覚、嗅覚、味覚も備わって初めて、完全なVRを提示できることになる。

しかし、触覚、嗅覚、味覚を伴わない現象については、視覚と聴覚を制御する現在の技術でもかなり高い精度のVRを提示できるレベルに達したため、VR元年などととりだたされ、注目を集め始めている。

それでも、本質的にVRが実現しようとしていることは、人の感覚(知覚)の再生/記録と創造である。また、人の能力の拡張と強化も同時に実現する。

VRは感覚をデータ化して制御できるようにすることで、いつでもどこでも人の感覚の再生を実現する。さらに、データを制作者の意図によって新たに創造することで、現実世界ではあり得ないような体験まで提示することが可能になる。

また、VRコンテンツ内では人自身もデータ化して取り扱っているため、身長や体格、性別など姿形、見た目を変更したり、手足を伸び縮みさせる能力を追加したり、視聴者の意図によって時間を操作するなど、人の能力を拡張、強化することが可能になる。

ここにVRの本質がある。動画メディアでは、映画スーパーマンを見て、頭の中で自分が主人公になったようなイメージを想像することは可能だが、VRでは実際に主人公が感じている感覚を視聴者に対して再生する。

1つの興味深い現象として、VRコンテンツ制作における「私は一体誰?」問題という現象がある。テレビや映画ではイメージを提示するだけで視聴者が頭の中で想像して情報が解釈されるため、そこにはメディアによる感覚の再生は起こらない。

そのため、客観視点の映像を複数カット繋いで提示したとしても、視聴者は何の違和感もなく想像の中で情報の解釈が進んでいく。しかし、VRで同じ表現を行なった場合、感覚の再生デバイスであるが故に、カットごとにその世界に自分が存在するという感覚が発生してしまう。

この感覚を感じてしまうことが原因で、客観視点で情報が提示された場合、視聴者には「私は一体誰なんだ?」という疑問が生じてしまう。この問題は、VRが動画メディアと異なり、感覚を再生するメディアであることを顕著に示している例である。

デバイスについても、VRはこれまでのメディアとは大きく異なる方法で人にアプローチしている。VRデバイスは人間の感覚をハッキングすることで実現している。そのため、メガネやゴーグルなど、人間の感覚機能に直接的に影響を及ぼす機器を必要とする。

それに対し、テレビやスマホではイメージを提示しているが、人間の感覚機能には直接接触していない。VR機器は人間の感覚機能に直接接触しているところでも、これまでのメディアとは一線を画している。

昨今ではGoogleストリートビューなど、360度全周囲をスマホなどの画面で参照できるコンテンツもVRに分類されているが、人間の感覚機能に直接接触していないという点で本質的なVRとは原理が異なるため、こちらは動画メディアの延長上に派生した、インタラクティブな動画と呼ぶべきメディアである。

コンテンツの表現手法について、VRは現実の感覚を提示するデバイスであるため、あくまでも主観視点での提示しか存在しない。加えて、これまでのメディアで多用されてきた、カット割りやモンタージュなどの表現技法は転用できないため、VRコンテンツでは新たな表現技法を開発する必要がある。

それ故に、もし完全なVRが実現したとしても、その世界の中では小説、ポスター、マンガ、テレビ、アニメ、映画、ゲーム、webサイト、音楽などこれまでのメディアは存在し、これらが組み合わさって、さらに人の能力を拡張、強化することで利便性を向上させた情報提示がこれからますます開発されていく。

危険事故の本質を捉えた「VR安全シミュレータ」

昨今、企業の現場で、これまでの教育教材とは大きく異なるVRを利用した安全教育に大きな注目が集まっている。その背景には、VRによって従業員の五感で危険事故を体感させることで、事故発生の予測、予見能力を芽生えさせ、意識レベルで事故を未然に防ぐことへの期待がある。

データ化されたVRコンテンツでは、開発者次第でどんな危険事故でも再現可能になる。しかも被験者に怪我をさせずに、事故の感覚だけを体験させることができる。

それは人の五感のうち、視覚と聴覚と一部の触覚をVRを通して再現することで、実際の危険事故の痛み以外に感じる、ヒヤリ、ハットといった感覚だけを視聴者に体験させることができる。

VRの安全教育コンテンツでは、限りなく実際に近い事故を再現することが求められるが、教育コンテンツであるが故に、そこに開発者の意図を盛り込む必要がある。

必ず、体験させるだけで終わってはいけない。何故その事故が起こったのかを分析し、他にも異なるパターンで事故が起こる可能性があることを従業員自ら考えさせる時間を作ることが必要である。

弊社が販売する「VR安全シミュレータ」では、工場内のフォークリフト作業において、限りなく現実に近い現場環境を再現し、運転時または歩行時の飛び出しによる接触事故を体験させるVRコンテンツを開発した(図4)。

図4

評価の重要なポイントとして、被験者には確実に現実であると思い込ませる必要がある。それは、作り物と感じた瞬間に心理的な効果が薄れてしまうためである。

「VR安全シミュレータ」では運転操作を行う際に、実際と同じ形状のハンドルを用意し、視覚と聴覚以外に手の触覚でもフィードバックを感じられるように設計した。

VR空間内の操作と実際の操作を同期させることで、操作に対する被験者の違和感を解消し、よりリアルな感覚を再生させることに成功した。

通常、企業単独でVRソフトを開発する場合、多額の開発費用が必要となるが、「VR安全シミュレータ」シリーズでは弊社がこれまでに開発してきた実績の中から、どの企業でも想定される危険事故を汎用化し、既製品ソフトとして提供することで、低価格による販売を実現した。

今後、フォークリフト以外にも、高所作業、交通事故、火災事故をテーマにした別バージョンの「VR安全シミュレータ」の発売を予定している。

ものづくりプロセスを改革するVR製品「バーチャルデザインレビュー」

実物に対峙した時の「思ったよりも大きいな、小さいな」「これぐらいのサイズ感であれば他に転用できるかもしれない」といった、実物と同じ空間に居るからこそ感じる感覚は、他のメディアでは再生できないVR唯一の提示情報である。

設計品を前にして感じた印象を元に、サイズや形状を見直したり、追加のアイデアを加えたり、設計段階で実物の存在感を確認しながら思考することには大きなメリットがある。

これまでも試作機を作ったり、大画面スクリーンに投影したりといった方法で実現してきたが、巨額の設備コストや実施場所の制限、試作機制作コストや手間・工期への影響等の課題があったが、現在のヘッドマウント型VRデバイスを利用すれば、驚くほど低コストでVRによる試作過程が実現可能になる。

それでも、CADデータをVR空間で表示するために、VR用にフォーマット変換したり、部品点数を減らしたり等、準備に手間と時間がかかるという問題は残った。

しかし、弊社で販売する設計支援VRソフトウェア「バーチャルデザインレビュー」では、3D CADが出力するOpenGL描画情報をキャプチャし、変換することなくそのままVR空間に投影するため、準備に手間や時間をかけず、CADで編集した結果もリアルタイムにVR空間で確認することができる。

また、異なるCADのデータを同じVR空間に重ねて表示させたり、複数人数で同じデータを見ながらコミュニケーションをとったり、それをメモや音声で記録を残すこともできる。

さらに、任意に断面を設定して動かすこともでき、設計者同士だけでなく、CAD操作に慣れていない技術者や設計部門以外の技術者、顧客や外注先とのビジュアルコミュニケーションシステムとしても多くの機能が盛り込まれている。

図5

そのためバーチャルデザインレビューは、次世代のものづくりフローを提供するVRシミュレーションシステムとして多くの製造関連企業に導入が進んでおり、注目を集めている(図5)。

※映像情報インダストリアル2019年5・6月号「時代を牽引するVR技術」特集より転載

問い合わせ
サイバネットシステム株式会社
TEL:03-5297-3799
E-mail:cnc-info@cybernet.co.jp
https://www.cybernet.co.jp/ar-vr/

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