東芝、手のひらサイズのLiDARを開発世界―トップクラスの画質で世界最長計測距離300mを達成―

概要

同社は、自動運転や社会インフラ監視に不可欠な「目」の役割を担う距離計測技術「LiDAR」*1 において、計測装置の一部である投光器のサイズを1/4にする実装技術と計測可能な距離を向上させる投光器制御技術を開発し、手のひらサイズ206cm3(投光器を2台実装)で、世界トップクラスとなる解像度1200×84の画質において、世界最長計測距離300mの達成に成功した*2

開発した投光器制御技術は、小型化した2台以上の投光器からのレーザー光を高精度に制御することで、人の目に害を与えないレーザー光強度を保つアイセーフ*3 基準に準拠しながらLiDARの長距離計測性能や広角性能の向上を実現する。

投光器の数や配置を変えることで、用途にあわせて計測範囲をカスタマイズすることが見込める。長距離計測が求められる道路監視に加えて広角性能が求められる建物内のAGV自動運転など、適用範囲の拡大が期待できる。

開発の背景

LiDARは、レーザー光を物体に反射させ、戻ってくるまでの時間を計測して距離を測る技術である。周辺環境にある対象物の形状および位置を瞬時に高精度に計測することができ、自動運転システムへの活用のみならず、インフラ監視への適用にも期待が寄せられている。

たとえば、道路や建物内などにおいて、さまざまな場所における落下物をLiDARで監視することで、災害発生時などに迅速な状況把握や通行可否の判断につなげることが可能となる。

LiDARはレーザー光を用いることから、一般的なカメラと異なり、暗闇、霧、雪など視界不良の状況にも強く、長距離の監視が可能です(図1)。LiDARの市場規模は急速に拡大しており、2030年には車載用のみで4,200万台/年の市場規模が予想されている*4

同社は、2021年に世界最小の350cm3体積で計測距離200m、解像度1200×80の性能を有するLiDARの開発に成功した*5 。しかし、高度な自動運転と高精度なインフラ監視を実現するには、計測距離・画角・解像度・サイズにおいて、さらなる進化が必要である。

特に、計測距離を伸長するには、レーザー光をより遠くまで届けることが必要となる。一方で、JIS規格JIS C 6802で定められているアイセーフに準拠しながら、レーザー光の強度を増強するには一定の制約がある。強度を上げるには射出幅を大きくする必要があり、投光器のサイズも大きくなることが課題であった。

図1: インフラ監視に活用するLiDARの特長

本技術の特長

そこで同社は、LiDARを構成する投光器サイズを小型化する実装技術と、計測距離の伸長を実現する複数の投光器内のモータ同士を同期する制御技術を開発した。

・投光器を小型化する実装技術
従来*5 の投光器とその内部に格納したモータ制御基板(図2左)と、今回開発した小型投光器と新しいモータ制御基板(図2右)の回路図は同じであるが、レイアウトの工夫により基板の面積を60%低減することに成功した。

さらにモータ制御基板の実装について、筐体設計と連携し、基板が筐体内の各部品の隙間に入るよう高密度にレイアウトしたことで、筐体サイズの小型化に成功した。

図2: 従来(左)と今回(右)の投光器と内蔵したモータ制御基板

また、レーザー光を計測に必要な形状に調整するには、レンズを複数連ねたレンズ群にレーザー光を当て、長い光路を確保することが必要である。レンズの配置を工夫し光路を折り曲げることで、従来*5 と同じ光路長を確保しつつも、レンズ郡の体積を小さくした(図3)。その結果、投光器1台の体積を71cm3とすることに成功した。

図3: レンズの3次元実装技術による投光器の小型化

・計測の長距離化を実現する複数投光器内のモータの同期制御技術
対象物の形状および位置の計測は、投光器内のポリゴンミラー*6 を高速回転させながらレーザー光を連続的に射出して行う。

同社は、レーザー光を複数の投光器から同一方向で同時に射出し、レーザー光を重ね合わせることで、アイセーフに準拠しながらレーザー光の強度を増加させ、計測距離の伸長を実現することに成功した。

今回小型化に成功した71cm3サイズの投光器を2台用いることで、計測装置全体の大きさは手のひらサイズの206cm3を維持しつつ、世界トップクラスの画質(解像度1200×84)で世界最長距離300mの計測距離を実現した(図4)。

図4: 従来(左)と今回(右)のアイセーフに準拠した投光器
今回開発した投光器は従来の約半分の体積で2倍のレーザー光強度となる

複数の投光器から同じ方向に同時にレーザー光を射出させるためには、複数の投光器内のポリゴンミラーの回転速度と回転角度を同期させる技術が必要である。

同社は、長年培ってきた独自のモータ制御技術により、回転角度・回転速度・電流を制御する3重制御ループを開発し、複数ポリゴンミラーの同期のずれ(角度)を0.02度以下に抑え、高精度な制御を実現した。

同社は、今回開発した投光器2台を実装した計測装置の性能試験を行い、アイセーフに準拠したレーザー光で、従来*5 と比べて1.5倍の300m先まで高精度に計測ができることを実証した(図5、6)。

図5:アイセーフに準拠したレーザー光強度での距離計測性能の評価結果

図6: 2021年6月発表(投光器1台)(左上)と
今回発表(投光器2台)(右上)のLiDARの比較

さらに開発した技術は、投光器を複数組み合わせることで計測範囲のカスタマイズが見込める。LiDARの長距離計測性能や広角性能を容易に向上することができ、長距離計測が求められる道路監視に加えて、広角性能が求められる建物内のAGV自動運転など、適用範囲の拡大が期待できる(図7)。

図7: 開発した投光器を組み合わせることで、さまざまな性能のLiDARを実現できる

動画1:2021年6月に試作したLiDAR(投光器1台)と動画2:今回開発したLiDAR(投光器2台)での夜間障害物検知*8
(動画:https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/22/2203-02.html

今後の展望

同社は今後、LiDARのさらなる高性能化(計測距離の伸長・高解像度化・小型化)を進め、高度な自動運転と高精度なインフラ監視の実現を目指し、2023年度の実用化に向けて研究開発を進めていく。

また、ロボティクス・ドローンやセキュリティなどの幅広い分野に展開できるよう、ソリッドステート式LiDAR(*9)の開発を進め、インフラレジリエンスで安心・安全な社会の構築に貢献していく。

*1 Light Detection and Ranging:レーザーの照射により、離れた物体までの距離情報を3D画像として得る技術。
*2 2022年3月18日 当社調べ。画角24°×12°での計測装置の体積、画質(解像度)、計測距離を計測した値。
*3 目に障害を与えないレーザー光強度を保つこと。国際電気標準会議などでレーザーの安全基準が決められている。
レーザーの安全基準は、レーザー機器の出力、レーザー光線の波長などによる安全レベルに応じて7段階のクラス分けがなされており、例えば安全レベルが一番高いクラス1は「どのような光学系(レンズや望遠鏡)で集光しても、目に対して安全なレベル」で定義されており、別名「アイセーフ」と呼ばれる。
*4 LiDAR for Automotive and Industrial Applications 2019 report. Yole Development, March 2019
*5 東芝プレスリリース(2021年6月)https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/21/2106-03.html
*6 3面以上の鏡面(ミラー)を多角形状に構成した鏡のこと。
*7 物体に反射したレーザー光強度と距離映像(色が距離を示す)と点群映像。
条件:日中屋外晴天@高速フレームレート(10fps)
画角、距離:固定、~310m
*8 撮影範囲に現れた物体(人・車)および動きのある物体(67m地点の旗)を検知してBoxで囲っている。光学カメラ映像(左下)では検知困難。
条件:夜間屋外@高速フレームレート(10fps)
画角,距離:固定、~200m
*9 当社は受光側をソリッドステート化可能な技術を開発。投光側は別途、走査範囲の広いMEMSミラーの開発が必要。

■問い合わせ
株式会社東芝
https://www.global.toshiba/jp/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください