パソコンと接続することが前提となるマシンビジョンカメラでは、TV 標準カメラとは異なる各種の機能が盛り込まれている。非同期リセット、部分走査、プログラマブル機能などである。これらについて説明することにより、マシンビジョンカメラとはどのようなものかを解説する。
1. マシンビジョンカメラとは
マシンビジョンカメラとは、工場のラインで人間の検査者が行う目視検査の代わりに、各種製品(半導体チップ、液晶関連部品、自動車部品、医薬品など)をコンピュータやデジタル入出力機器とともに検査するための画像入力用カメラである。
したがって、すべてのビデオカメラはマシンビジョンカメラになりうる。近年、TV標準規格から外れた非標準のカメラが豊富に出回り、これらのカメラはコンピュータとの接続が容易であり、解像度が高く、秒間のフレーム数も多く、カメラ内部で画像の加工もできるものもある。このようなカメラがマシンビジョンカメラとして採用されている。
また、ラインセンサも撮像素子が横一列(カラーの場合は3列)というだけで光学構造もほぼ同じであり、出力インタフェイスにおいても、CameraLink、GigEなどが採用され、高解像の画像入力カメラとして使用される。撮像素子と垂直方向に被写体を移動させると水平7,500画素、または8,000画素(垂直は自由)の高精細な面画像が得られる。最近では16,000(16k)画素も出てきている。
これらは、ラインセンサカメラともいわれ、マシンビジョンカメラの1つといってもよい。詳細な解説は次章以降に譲るとして、マシンビジョンカメラには次に挙げるような機能が備わっている。
2. マシンビジョンカメラの分類
2.1 撮像素子構造による分類
マシンビジョンカメラに使われる撮像素子は、主としてCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサとCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサの2種がある。
CCDイメージセンサは感度、多画素(メガピクセル)、一画面同時にシャッタを切るグローバルシャッタに優れており、CMOSイメージセンサは低消費電力、低駆動電圧、スミア、同一センサチップ上に信号処理回路を組み込めるオンチップ信号処理、高速読出し、一部の画素のみを読み出す部分読出しが可能などの特徴をもっている 1) 。
2.2 カメラの出力インタフェイスによる分類
マシンビジョンカメラの出力インタフェイスは数種類あり、マシンビジョンエンジニアは用途に応じて、適したインタフェイス様式を選択している。
(1)CameraLinkインタフェイス
送・受信が可能なインタフェイスで画像データ、画素クロック、水平・垂直同期タイミング、ストロボタイミングを出力し、非同期リセット信号やカメラコントロール信号を受け入れる。また、RS644に相当するシリアル通信も可能である。
ケーブルは10mまで可能で高いデータ転送能力をもっている。フレームグラバも揃っていることから、現在のマシンビジョン用途として最も適したインタフェイスといえる 2) 。
スタンダードカメラリンクには電源供給機能はなく、カメラには別のコネクタから電源を供給しなければならないが、同一コネクタから電源供給が可能な「PoCLミニカメラリンク規格」も生まれている。これによりカメラを小型にすることができ、現在ではこちらが主流になってきている(写真1)。
(2)USB(Universal Serial Bus) インタフェイス
USBインタフェイス規格を搭載したマシンビジョンカメラも数多く出ている。最大の利点はフレームグラバボードを用いることなくカメラ出力画像をパソコンに取り込めることにある。
USB2.0規格が主流であるが、近年、最大データ転送速度がUSB2.0に比べ10倍速い、USB3.0規格(最大データ転送速度4.8Gbps)も採用され始めている。 従来、USB2.0インタフェイスをマシンビジョンカメラとして使用する場合、以下のような難点があったが、現在はケーブル長を除いて解消されてきている。
a)使用可能なケーブル長はUSB2.0で5m、USB3.0で3mと短い。
b)コネクタに抜け防止のロック機能がない。USBは基本的にコネクタが抜ける構造になっているが、マシンビジョンにおいてこれは弱点ともいえる。しかし、ネジ付USBケーブル(写真2)やネジ付ミニUSBコネクタを使用したカメラ(写真3)も出ており、パソコン側でケーブルを固定するなどすればこの弱点は補える。
c)コンピュータへの依存度が大きい。マシンビジョンカメラは非圧縮で全画素出力するため画像データ量が膨大になる。そのため処理スピードの遅いパソコンや、画像データ取込中に他のソフトが優先して動いたりすると、画像データが途中で消えたり、取りこぼしなどが起こりうる。
最近のパソコンはデータ転送速度が速く、カメラにも画素読出し待機機能をもたせたりしている。なおかつ、転送速度の早いUSB3.0に 至っては、このような問題は考えなくてよい。
(3)GigE(Gigabit Ethernet)Vision インタフェイス
データ伝送速度が1,000Mbpsと早いため、画像処理用途に使用でき、マシンビジョンカメラに採用されている(写真4)。また、LANケーブルから電源を供給できる「パワープラスGigE」カメラもある。
ケーブル長は100mまで伸ばすことができ、メガピクセルカメラの全画素データを高速に送ることができるため、自動車ナンバーの読み取りや工場内カメラの集中管理などに適している。また、ネットワーク接続が可能で、フレームグラバが簡素化できる。
(4)IEEE1394(FireWire)インタフェイス
マルチメディアに適したインタフェイスであるため、非同期リセットや各種画素数への対応など柔軟性に欠ける。また、コネクタの強度もFA用途では不足している。しかし、標準カメラを用いて画像処理を行う用途では、フレームグラバを必要としないため、コストダウンが図れるというメリットがある。
3.マシンビジョンカメラの機能
マシンビジョンカメラはテレビ標準の枠にとらわれないため、各カメラメーカによってそれぞれ工夫された機能が搭載されている。その中で、マシンビジョンカメラに必要な共通した機能について説明する。
3.1 プログレッシブ走査と画素数
標準カメラはインタレース走査が行われるため、1フレームの垂直解像度は全画素の1/2に落ちるが、マシンビジョンカメラは撮像素子全画素を順次走査するプログレッシブ走査が行われる。1フレームの画素はすべて有効で、解像度の高い画像を得ることができる。マシンビジョンカメラの画素数は次のようなものが一般的である。表1に代表的な画素数をまとめる。
CCDカメラでは、VGA(33万画素)、XGA(80万画素)、SXGA(145万画素)、UXGA(200万画素)、5M(500万画素)、11M(1,100万画素)。 CMOSカメラでは、上記のほかに4M(400万画素)、12M(1,200万画素)などである。
CCDカメラでは5M(16fps)までが汎用実用範囲で、11Mでは5fpsとフレームレートが遅く、価格も高いことからあまり普及していない。これに対しCMOSカメラは4Mで180fps、12Mで60fpsとフレームレートが高く、価格も手ごろなため、今後に期待ができるカメラといえる。
3.2 電子シャッタ機能 電子シャッタ機能は民生用カメラにも搭載されているが、マシンビジョンカメラの場合は、シャッタ時間を外部からコントロールできるようになっている。ここが民生用と異なる点である。カメラ内部でプリセットされているシャッタ時間を選択する使い方と、外部から必要に応じてシャッタ時間を決める使い方がある。
3.3 外部トリガ機能
外部よりパルス信号を入力し、そのタイミングで露光を開始する「非同期リセット」がマシンビジョンカメラには必要である。高速で動いている被写体を撮像素子の中央で捉えたい場合、V(垂直)同期期間の途中であっても外部からトリガパルスを加えるが、この時、カメラは走査途中の画像を一旦削除し、新たなタイミングで撮像を開始する。
この動作が非同期リセットである。カメラは外部トリガを受け入れたタイミングで、設定されたシャッタ時間だけ露光を開始する。そのほかに、外部トリガのパルス幅期間だけ露光する設定や、2個のパルス間隔時間、露光する設定などがある。
3.4 映像出力
出力画像のコントラストの段階を表す「諧調」の選択ができる。通常8bitで使われることが多いが、中間色のレベルが必要な場合は10bit、12bitなどが使用される。
3.5 部分走査(Partial Scan)
CCDカメラの場合は、連続した一部の水平走査線のみを部分読み出しすることができる。不要な走査線は吐き捨てるので、1フレームに要する時間は短くなり、フレームレートはアップする。
CMOSカメラの場合は、縦横一部のエリア(ウインドウ)のみを読み出すことができるので、走査時間はさらに早くなる。高画素CMOSカメラでは、広い撮像範囲の中で必要なエリアのみを切り出し、画像処理を早く済ませる手法がとられる。
3.6 ガンマ特性
明るさと出力電圧の比を表す「ガンマ特性」を変えることができる。ガンマ値は通常1(明るさと出力電圧が正比例)にセットされているが、この値を変えて暗い部分を明るく強調することなどが行われる。
3.7 FPGA(Field Programmable Gate Array)
ユーザ側に開放したFPGAを搭載したマシンビジョンカメラもある。上記以外の機能をユーザサイドで構築したい時に、プログラマブルに機能アップができる。たとえば、フレームメモリを構築したり、画像処理の前処理を行ったりすることで、コンピュータへの負担を軽くすることができる。
4. マシンビジョンカメラのメカ構造
従来の流れから、三脚ネジ穴が設けられているマシンビジョンカメラが多い。三脚ネジはインチネジになっているため、架台などに取り付ける際、身近にネジがないなど不便なことが多い。そのため、カメラ筐体にはM4などのミリネジタップを多く設けている。
さらに、マシンビジョン用途では、カメラ単体を90°や180°回転させて取り付けることもあり、どのような姿勢で取り付けても、撮像素子のセンターは保たれるように工夫されているカメラなどがある(写真5)。
5. おわりに
今や、マシンビジョンカメラは豊富に種類が揃っている。また、OEMなどでユーザ独自の機能をもたせた設計対応をしているカメラメーカもあり、TV標準規格からは益々離れていっている。
今後は画像処理の一部をカメラの機能に取り入れるなど、単に撮影画像を出力するだけでなく、インテリジェント化が進むことは間違いない。カメラ、コンピュータ、画像処理ソフトの機能を如何に一体化して行くか?ということが今後のキーとなるのではないだろうか。
※「まるまる!マシンビジョンカメラ入門 ~ゼロから学ぶ“基礎の基礎”~」より転載
参考文献
1) 越智: イメージセンサのすべて, 工業調査会 第1刷. pp21-23, 2008
2) 堀: 産業用カメラインタフェイスを極める.映像情報インダストリアル. pp31-36, 2001
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