赤外線 サ ーモグラフィの市場規模 は簡単 な温度管理 や監視目的 の低価格・低機能 の サーモパイルや小型の赤外線カメラ・サーモグラフィの普及により年々拡大している。
赤外線サーモグラフィの市場は大きく大別して、赤外線検知素子を冷却しない非冷却赤外線サーモグラフィと赤外線検知素子を冷却する冷却型赤外線サーモグラフィがある。
本稿では、赤外線サーモグラフィの高速化、高画素化、高感度化、特殊な用途のハイエンド冷却型サーモグラフィを紹介する。赤外線サーモグラフィの感度を表すNETDを向上させた高感度赤外線サーモグラフィや、バッテリ駆動で持ち運び可能で特定のガスを検知する ガス検知赤外線サーモグラフィもある。
ハイエンド冷却型赤外線サーモグラフィ
冷却型赤外線サーモグラフィの赤外線観測波長域はSWIR(0.8~2.5μm)、MWIR(3~5μm)、LWIR(8~12μm)の帯域があり、赤外線検知素子は電子冷却器で冷却されている。
ハイエンド冷却型赤外線サーモグラフィは、320×256画素、640×512画素からさらに高画素の2K×2K画素の4M画素の赤外線サーモグラフィがある。
図 1 に 1,240 × 1,024 画素の赤外線画像を示す。赤外線高画素化に伴い各画素ピッチが狭くなると、各画素の入射してくる赤外線エネルギー量が少なくなるので取り込み時間を長くする必要があるが、画素ピッチが狭くとも取り込み時間を長くならないように赤外線検知素子の感度向上が図られている。
高速赤外線サーモグラフィ
高速赤外線サーモグラフィとして640×512画素で1,000fps、320×240画素で3,300fpsの高速撮影が可能になっている。
画素をウィンドウイングすることで、さらなる高速撮影が可能になり、実用上の画像としては64×48画素で47,000fps(温度帯域によって異なる)程度となっている。
1秒間に撮影できるフレームレートと温度分解能の向上により、非常に短時間に発生する小さな温度変化が捉えられるようになっている。
1)ミーリング・カッターの切削加工点の温度測定
128 × 64 画素で 12,000fps の撮影速度で、ミーリング・カッターによる機械加工時(図2)の赤外線画像を図3に示す。
ミーリング・カッターは720rpmの速度で回転しており、12,000fpsの撮影速度でカッターの切り込みよって変化するカッター先端の温度変化、切粉の形状や切粉の飛散状態をモニタリングすることができ、高速で移動する測定対象物でも画像が流れることが少なく撮影可能である。
ミーリング・カッター先端の温度変化は12,000分の1秒でも大きく変化し、高速サーモグラフィでしか評価できない。
ミーリング・カッターの温度表示を正しく表示させるためには、ミーリング・カッターの温度を実際の加工温度まで上昇させて放射率の補正係数を測定する必要がある。ここでは光沢のある素地のタングステンカーバイトとして放射率を0.05としている。
2)ディーゼルエンジンの燃焼試験
図4にディーゼルエンジンの燃焼試験の様子を示す。エンジンのピストンに穴を開けて赤外線を透過するサファイアガラスを埋め込んでいる。
ピストンの下には45°の角度で金をコーティングした鏡を置いて、離れた位置に置かれた赤外線サーモグラフィは水平状態に置いてある。
赤外線サーモグラフィでは図5に示すように赤外線の波長によってスペクトルごとの分析が可能であり、それぞれ特定の赤外線波長だけを透過する赤外線バンドパスフィルタを使用することで、炎越し(TF)、二酸化炭素(CO 2 )、炭化水素(HCs)、メタン(CH 4 )といった、それぞれの赤外線画像に分けて画像化(図6)することができる。
撮影は27,000fpsの速度で、図7に時間経過に伴うエンジン・シリンダ内の画像を示す。シリンダ内に燃料が噴射されていく様子や、初期の段階ではメタンや炭化水素がシリンダ内に充填しているが、燃焼後は二酸化炭素に置き換わっていく様子が観察される。
3)エアーバッグの展開試験
エアーバッグの展開試験の赤外線画像を図8に示す。赤外線観測波長域3~5μmの赤外線は、エアーバッグを包むナイロン基布を透過してエアーバッグ内のガスの流れを可視化できる。
ガスの流れが可視化できれば、横方向に長く展開されるカーテンエアーバッグや歩行者用エアーバッグのナイロン基布の折りたたみ方、仕切りの位置、ガスが抜けるための穴の位置や形状を適正化にするのに有効である。
可視の高速カメラと併せて、高速赤外線サーモグラフィを使用することで破壊の起点、ガスの流れ、温度観察が可能である。ガスの温度の測定は、ガスの濃度、成分、放射率に大きく依存するため、非常に難しい。ガスの温度測定では2波長の赤外線サーモグラフィを使用することがある。
高感度赤外線サーモグラフィ
ハイエンドで高感度な赤外線サーモグラフィとしては、InSb赤外線検知素子よりも感度が高いMCT 赤外線検知素子を使用するケースが多く、MCT赤外線検知素子で問題となるバッドピクセルをリアルタイム補間して、MCT赤外線検知素子特有の非常に高感度な赤外線画像を示している。
図9のような大型のズームレンズと組み合わせることで、図10に示すような45~860mmズームレンズによる月の表面を撮ることができる。
冷却型赤外線サーモグラフィの応用例
赤外線サーモグラフィは温度分解能が高いことを利用して、赤外線応力測定や赤外線サーモグラフィ非破壊検査として使用されている。
図11に自動車ドアの赤外線応力測定画像と、図12に自動車トランクリッド周辺の接着剤の充填状態の非破壊検査の事例を示す。
非破壊検査のアプリケーションとしてはインライン全数検査に応じた事例があり、特に自動車部品のクラック検査で、従来は化学薬品を塗布した検査手法から環境対策として化学薬品を使用しない非破壊検査への置き換えが進んでいる。
多くのプラントや構造物の老朽化や劣化、および熟練作業者の減少に伴い、メンテナンスに掛かる作業の低減および簡素化が求められている。
図13に示すようなバッテリ駆動で簡単に現場に持ち運べるガス検知用の冷却型赤外線サーモグラフィがある。プラントからの可燃性ガスの漏えいは大規模な事故に発展するケースが多く、ガスの漏えい個所(図14)を容易に検出するのに有効である。
おわりに
赤外線サーモグラフィの温度分解能の向上と低価格化によりニーズが格段に広まってきている。赤外線サーモグラフィの温度分解能とPCの演算能力の向上により、短時間に小さな温度変化を捉えることが可能となっている。
赤外線サーモグラフィを使用した設備診断、外壁診断、構造物のき裂観察、インラインの温度モニタリング、生産ラインの異常監視だけでなく、赤外線サーモグラフィを使った高速過渡現象のモニタリング、非破壊検査のニーズが高くなってきている。
このように、従来他の非破壊検査手法では対応できなかったものでも赤外線サーモグラフィによる評価が進んでいる。
本稿では主にハイエンド冷却型赤外線サーモグラフィを使用した適応事例を示したが、今後も画像処理技術の向上により高速化、高画素化、高感度化が進展して赤外線サーモグラフィの市場が広がっていくことを期待する。
※映像情報インダストリアル「赤外線イメージング&センシング」より転載
◆ 参考文献
1)矢尾板達也,Pierre Bremond:赤外線サーモグラフィによる疲労と破壊の観察.日本非破壊検査協会 第6回レーザー超音波および先進非破壊計測技術研究会,2010年4月12日
2)矢尾板達也,高尾邦彦,Alexander Dillenz:赤外線サーモグラフィを使用した溶接部の欠陥検査事例.日本非破壊検査協会 平成24年度秋季講演大会,2012年10月23日
3)矢尾板達也:ハイエンド冷却型赤外線カメラの適応事例.計測技術,578.Vol.44.No.4,P.1-5,2016.3
4)矢尾板達也:冷却型赤外線カメラの適応事例.検査技術,Vol.21.No.8,P.40-45,2016.8
5)矢尾板達也:赤外線サーモグラフィの動向と冷却型赤外線サーモグラフィの適応事例.計測技術,Vol.45.No.4,P.8-11,2017.3
6)矢尾板達也,Frederick Marcotte:高速赤外線カメラを使用した、燃焼解析、流体解析、衝突破壊試験、切削加工の温度測定への取り組みとその問題点,JCHSIP2017
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