安全性と柔軟性に優れた協働ロボット その特徴と実用例

産業用ロボットと聞くと、どのようなイメージをもたれるだろうか? おそらくは、自動車工場でよく見られる溶接ロボットや部品を運ぶ搬送ロボットなどを思い浮かべる方が多いだろう。

最近の産業用ロボット業界では、「協働ロボット」という種類のロボットが各メーカから提案されて、その新しい運用方法が注目を浴びている。本稿では、協働ロボットの紹介と今後の取り組みについて述べていく。

協働ロボットの開発

産業用ロボットとは異なる「協働ロボット」という新しい概念を作り、世界で初めて製品化したのがUNIVERSAL ROBOTSである(本社デンマーク、以下UR)。2005年にデンマークで創設され、2008年に世界初の協働ロボットUR5(5㎏可搬)を販売した。

従来の産業用ロボットは厳しい安全対策が要求されるため、安全柵やセルで囲い、人が立ち入らないように設計していた。既存設備に新たにロボットを導入しようとしても、場所の確保が難しいことが多い。言い換えると、狭小空間への導入は難しかった。

また、作業員と隔離しワーク搬送にコンベアを設置すると、コスト増加や工程全体の作業効率が落ちるという面も忘れてはいけない。こういった課題を解決するために、コンパクトでありながら高い安全機能を有した協働ロボットが開発された。

これにより、従来ではロボット導入をあきらめていた現場での自動化や省力化を可能にした。またその操作方法においても、スマートフォンを操作するレベルの容易さを追求した。従来の産業用ロボットでは、メーカごとに異なるプログラムやティーチペンダント(ロボットを操作するハンディタイプの操作ボックス)の操作方法を覚える必要があり、経験者しか使えない状況であった。

そこで UR は PolyScope と呼ばれる画期的なティーチペンダントを開発し、タッチパネルによる直感的な操作を可能にした(図1)。ユーザからは未経験者でもすぐに使い方をマスターできると高い評価を得ている。

図1 ティーチペンダント画面(移動タブ)

新機種e-Series

2018年8月に、e-Seriesと呼ばれる新機種(UR3e、UR5e、UR10e)を発表した。可搬質量3/5/10kgという 3 種類のラインは変わらないが、手首にフォーストルクセンサを新たに標準装備し、より高度なアプリケーションにも対応できるよう機能の向上を果たした。

たとえば、バフ掛けのようにワークに対して一定の圧力を掛けながら、研磨作業を進めて行くような工程もオプションなしに簡単に実現できるようになった(図2)。 

図2 研磨作業例

安全関連では、機械類の安全設計であるEN ISO 13849-1:2015, Cat.3, PL dの認定を受けている。産業用ロボットのための安全要求事項であるISO10218-1も従来機と同様に満たしている。ティーチペンダント上での明確な安全設定はそのまま引き継いでおり、力(N)、仕事量(W)、速度(mm/s)に加えて、停止時間(sec)と停止距離(mm)が設定できるようになった。

より細やかなリスク管理ができるようになったことはシステムインテグレーションする立場の方から歓迎されるだろう。さらに、エルボーの限界、ツールの安全、リスト部の安全を監視する便利な機能が追加された(図3)。

図3 安全設定

アームおよびジョイントのデザインは、CBシリーズと呼ばれる従来機種とほぼ同じである(一部、リスト周りが変更)。エルゴノミクスデザインで人と協働することを前提とした曲面を多用したデザインである。

市場動向

各種調査機関によると、産業用ロボットはリーマンショック以降、毎年 10%以上の成長を続け2025年には世界で3兆円を超える規模になると予想されている。中でも協働ロボットは年率50%前後の高成長が見込まれ、2022 年ごろには協働ロボットだけで 3,500 億円を超えると予想される。

2008年にURは世界で初めて協働ロボットを世に送り出したが、それからわずか10年で、出荷台数が27,000を超えるまでに成長した。主なユーザは自動車関連産業であるが、今後は三品市場や機械加工分野にも普及が進んでいくと期待されている。

ユーザメリット

UR協働ロボットが選ばれてきた理由は、“安全” “簡易” “柔軟” “エコシステム”の4つにあると言える。ロボットシステム全体のリスクアセスメント次第であるが、安全柵で囲うことなく、作業者の近くに配置ができるため、従来の産業用ロボットでは使えなかった場面での運用が実現できる。

さらにロボット自体がコンパクトなおかげで、既存のラインを変更することなく運用できるケースも多い。その例として、アルファ社の事例を紹介する(図4)。

図4 株式会社アルファ

鍵の生産を手掛けているアルファ社では、URロボット導入で鍵成型においては20%の生産性向上を達成した。導入の決め手は、コンパクトさと安全性を兼ね備えていて柵を置かなくて済むことで既存ラインを継続して使用できることにあった。

本体質量がロボットの可搬質量に比べて軽いため(軽量高出力)、再設置や移設が簡単に実施できる。UR3eの本体質量は11.2㎏、UR5eで20.6kg、UR10eで33.5㎏しかないが、それぞれ充分な可動範囲(リーチ)を有している(図5)。

図5 リーチ

ベースセンターからのリーチ距離は、それぞれ、500mm、850mm、1,300mmとなる。また、本体を設置する角度に制限がないことも大きなアドバンテージである。床置きだけでなく、壁付けや天井吊りも簡単に設定できるため、狭小レイアウトでの柔軟な運用を可能にする(図6)。

図6 天井吊り例

プログラミングはティーチペンダント上で直感的に操作できるよう設計工夫されている(図7)。画面左側に、基本コマンド(移動、待機、出力など)と上級コマンドが整理され、画面右半分には実機の状態を3Dで表示している。

図7 プログラム作成例 移動

速度や加速度の設定もここで一括で行うことができる。信号の割り付け設定やツール情報の設定管理も画面上で簡単に行える。コントローラボックス内には、安全信号のほかに汎用のデジタル・アナログI/O端子が標準装備されているので、センサや電磁弁など各種機器の接続が簡単に行うことができる。それらの制御もロボットプログラムから簡単に実行できる。

URロボットにプラグインで使うことができる周辺機器がサプライヤより多数提供されている。UR +(ユーアールプラス)と呼んでおり、URロボットとの親和性が確認された機器を認定している。このURロボットを中心に豊富な周辺機器が展開していく世界を、URでは「エコシステム」と呼んでいる。

2016年よりUR+の取り組みが始まったが、わずか2年あまりで、エンドエフェクタ(グリッパなど)40製品、ビジョンシステム8製品、アクセサリ49製品、ソフトウェア19製品が登録された。ソフトウェアの中にはロボットシミュレーションソフトも含まれており、オフラインでの事前検討を可能にしている。

ここ数年の協働ロボットのブームもあり、世界各国の有力サプライヤからの参入が増え、活況を呈している。UR+サプライヤ向けには、PolyScope上で機器の設定や操作をするための画面を作成するためのデベロッパツールを無償で提供している。ここでは、ビジョンシステムの1例として、SICK社の製品とティーチペンダント上の操作画面(URCap)を示したい(図8、9)。

図8 SICK社カメラ

図9 SICK URcap

さいごに

URの次なる取り組みは、よりやさしくロボットシステムの構築や導入を支援していくことである。そのためには、トレーニング、アプリケーション、サービスをより進化させていくことが求められている。

Web上で、アプリケーションビルダーというユニークな取り組みを始めた。諸条件を選んでいくとアプリケーションが完成し、それに合ったプログラムテンプレートを自動作成するというものだ。 現在、CNC周りのワーク搬送、ネジ締め、包装のアプリケーションを提供しており、今後も追加されていく予定だ(図10)。

図10 アプリケーションビルダ作成例

また、URのホームページ上では、ロボットの使い方を学ぶことができるオンライントレーニングを無料で公開している。ロボット未経験者でも、87分で基本的な使い方を学習できるプログラムが用意されている(図11)。

図11 オンラインアカデミー例

内容はモジュールごとに分かれており、空き時間を使って段階的にクリアしていくこともできる。協働ロボットに興味をもたれた方には、この機会に是非トライしていただき、協働ロボットの世界に触れていただきたいと願うばかりである。

問い合わせ先
Universal Robots A/S
TEL:03-3452-1202
E-mail:ur.nea@universal-robots.com
https://www.universal-robots.com/ja/

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