個体差がある物体でも瞬時に識別 画像識別技術「AI-Scan」

画像識別技術「AI-Scan」は、全国のベーカリーショップに導入が進んでいるパン画像識別装置BakeryScanのコア技術として使用している。パンのように個体差がある物体でも、特徴を自動的に分析・学習し、識別する。単独でも優れた識別能力を有するが、対象物に応じて他の画像識別技術と組み合わせることができ、画像識別技術の応用範囲を広げることができる。

1. 画像識別技術「AI-Scan」

近年、ディープラーニングを利用した画像識別技術が実用化を迎えたと言われている。識別のために物体固有の特徴を人がプログラミングする必要はなく、繰り返し行う学習によって精度の高い識別が実現できることがディープラーニングの特徴である。しかし、この能力を十分に発揮するためには大量の教師データが必要であり、学習には高いパフォーマンスのコンピュータを長時間稼働させなければならない。

そのためインターネットに接続されたディープラーニング用の高性能コンピュータを使用して学習させたり、別の場所で時間を掛けて学習させた結果をオフラインで利用するシステムが多い。

AI-Scanはディープラーニングのように自動的に物体の特徴を分析し学習・識別する機能を核とする画像識別技術であるが、10~20個の教師データがあれば識別が可能になり、その学習スピードは一般的なパソコンで約1分と非常に高速である。そのため、パン画像識別装置「BakeryScan」は、画像処理用のコンピュータを必要とせず、一般的なPOSレジに組み込んでも実用的なスピードを発揮することができる。

2.AI-Scan活用例

2.1 パン画像識別装置「BakeryScan」図1

図1 パン画像識別装置「BakeryScan」

焼き立てパンのように人間が手作りするものについては、店舗ごと、作業者ごと、または製造日ごとに、焼き色や形状、表面の模様(チョコレート、ナッツ、コーンなどのトッピング)に個体差があるため、その物体から得られる特徴にばらつきが生じる(図2)。また、パンの焼き色や形状は類似しており、異なるパンでも類似した特徴をもつことがある(図3)。

図2 同じ種類でも個体差があるパン

図3 異なる種類でも類似しているパン

【BakeryScanの特徴】

➀トレイ上のパンを一括識別
トレイ上に載っている複数個のパンを一括で瞬時に識別する。パンが接触している場合は、自動的に分離し識別する。識別に要する時間は1個あたり0.2秒、トレイに8個のパンが乗った状態でも2秒以内に識別する。識別の対象物が曖昧であっても高速で精度が高い識別が可能である。

➁追加学習機能
識別した結果をリアルタイムで追加学習することで識別率を向上させている。またシステムが誤識別した場合は、ユーザが候補群から訂正することで強化学習が行われ、新商品のパンでも短時間で高い識別率に引き上げられる。

BakeryScanと対面型セミセルフ釣銭機設置例

2.1 授与品識別装置「開運スキャン」図4

図4 授与品識別装置「開運スキャン」

神社等の授与品(お札やお守り等)は、その性質上、値札やバーコードを付けることができない。そのため、在庫管理や違算の問題に悩んでいる神社が多い。

開運スキャンは、授与品をカメラで撮影して、その種類と数量を約1秒で一括識別し、合計金額を計算する社殿型POSシステムである。 外観は社殿の形をしており、神社で違和感なく設置できるようにデザインした。古式ゆかしい外観とは対照的に、最新の画像識別機能によって神社の運営をサポートする(図5)。

図5 開運スキャン設置例

2.2 食事識別装置図6
焼き立てパンと同様、カフェテリア方式の飲食店や社員食堂などにおいても混雑時のレジスピード向上が望まれている。また、病院等における誤配膳の防止や健康管理のニーズが高まっている。

既存技術であるRFID付きの食器を使用した自動精算システムは、初期コストやランニングコストの問題で中小規模の食堂には導入が進んでいない。AI-Scanおよび深度センサを用いた食事識別により、価格の計算だけでなく、カロリーや栄養素などを算出することができる。

図6 食事識別装置(試作機)

2.3 薬剤識別
病院などで患者が持参した薬剤(錠剤・カプセル)を識別(鑑別)する装置に使用されている。薬剤を特徴付ける「刻印」「印刷」「形状」「色調」を解析し、あらかじめ登録された数千種類の薬剤から約2秒で識別が可能である。また、識別精度を高めるため、追加学習機能も備える。この例では、AI-Scanと薬剤用に開発した識別技術と組み合わせることで精度の高い識別を実現している。

2.4 実験画像の自動分類システム
兵庫県佐用郡の理化学研究所が有する全長700メートルのX線レーザー顕微鏡SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)で連続撮影された大量の画像を、その特徴によって高速に自動分類するシステムに応用されている。

2.5 微細ネジ締め機
タブレットPCやスマートフォンに使用されている1mm以下の微細ネジは、その位置を座標のみで制御する機械的なネジ締め装置では対応できない。カメラから入力した画像をAI-Scanで解析することでネジ穴の中心位置を検出し、ネジ締め機の座標をオフセット調整する。さらに、ネジ締め後の状態をチェックし不良をなくす。

2.6 画像識別セルフレジ
バーコードが付けられない果物や野菜を画像で識別する研究を行っている。セルフレジにおいて、階層型のボタンで対象商品を探し出す手間を軽減する(図7)。


図7 画像識別セルフレジ 果物識別の例

3.さいごに

AI-Scanは色や形状に個体差がある物体でも高速に識別できる画像識別技術である。単独で利用しても高度な識別が可能であるが、複数のセンサデバイスや従来技術と組み合わせることで、さらに識別精度を向上させることができる。AI-Scanは人間をアシストする画像識別技術として、今後さらに多様な物体識別ができるよう、応用範囲を広げていく予定である。

※映像情報インダストリアル2017年8月号より転載

■問い合わせ先
株式会社ブレイン
TEL:0795-23-5510
http://www.bb-brain.co.jp/

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