機能アップした赤外線サーモグラフィとその応用

近年、特に安心、安全、環境・省エネ等での計測用センシング技術として、設備の保全用や省エネに関連するエネルギー監視用途に、面で温度と熱分布が測定できる赤外線サーモグラフィによる測定のニーズが増えている。

また、社会状況や多点計測の観点から、センサの低価格、小形化も一層求められている。チノー(以下当社)では、従来機に対して性能、機能のアップと小形化を図ったシャッタレスの赤外線サーモグラフィである熱画像計測装置「CPA-L4」を開発した。

また、サーモパイル形の熱画像素子を搭載した小形熱画像センサによる見守り監視へ分野での適用試験を行った。本稿ではこれらの概要について紹介する。

シャッタレス熱画像計測装置「CPA-L 4 」

固定形熱画像計測装置のラインナップ拡充として開発したシャッタレス熱画像計測装置「CPA-L4」の外観を図1に示す。

図1 熱画像計測装置「CPA-L4」

当社の従来機の「CPA-L2」では、周囲温度の変化に対する素子出力ドリフトの補正用として、メカニカルシャッタを使用していたが、これをなくすことで、周囲温度の変化に応じてシャッタが閉まることで発生する約1秒の計測不能なタイミングを排し連続した切れ目ない計測を可能とした。

製品概要とモデル構成

熱画像計測装置「CPA-L4」は、視野角(水平方向):25°/50°、温度レンジ:−20~150℃ /0~300℃ /0~500℃をユーザ選択にし、さらに使用頻度の少ない焦点調整の電動リモート機能などの一部機能を非搭載とすることで、小形化とコスト低減を図り、より手軽に現場にて使用できる装置である。

主な仕様を表1に示す。さらに、シリーズ化を進めている警報・映像出力つきモデルを選択することで、簡単・低コストにシステムを構築できる。

表1 固定形熱画像計測装置「CPA-L4」の主な仕様

また、表1の仕様以外の視野角(水平方向):12°、70°、90°、高温対応:500~2,000℃や焦点調整の電動リモート機能を搭載したモデルは、従来モデルの熱画像計測装置「CPA-L3」に用意されている。

図2は、この警報・映像出力つきモデルによる最もベーシックなシステム構成である。この構成で、任意に設定した5エリアの上下限警報の出力が可能である。

図2 映像・警報出力つきモデルによるシステム構成図

設定に関しては、カメラ内部にWebサーバを搭載しており、ブラウザ上からソフトレスで、警報の設定、および熱画像の確認が可能である。

カメラ本体の使用可能な周囲温度範囲は、−10~50℃であるが、図3の専用保護ケースを使用することで、周囲温度が90℃の環境下でも使用が可能である。冷却方式は、空冷、水冷を用意し、状況や設備に応じて選択を行う。

図3 専用保護ケース
(左:空冷/右:水冷)

特長

1)切れ目ない連続計測
 図4は、設置場所の室内の空調電源をOFF→ONした際のカメラの室温測定の変化である。グラフ中の縦線は、従来機にて室温の変化に応じてシャッタが閉じるタイミングを表したもので、この間の約1秒が測定不能となる。この特性は、ライン監視など測定対象物が連続して流れる用途においては、問題となることがある。

図4 室温―シャッタ(閉)

今回、熱画像計測装置「CPA-L4」ではシャッタレス構造を採用して、計測不能となるタイミングを排し、この問題を解決した。シャッタレス構造を実現するにあたり、キーとなるポイントは再現性の高い赤外線撮像素子の採用と次項で説明する補正精度を高めた周囲温度補償である。

2)優れた周囲温度特性(温度ドリフト特性)
 カメラ内部の赤外レンズ、赤外線撮像素子、放熱板の各所に配した温度センサの情報をもとに、シャッタレス周囲温度補償アルゴリズムを開発した。

この補正演算により、周囲温度変化に対する安定性を高めることができ、周囲温度が大きく変化する環境下でも使用ができる。さらに、周囲温度が90℃以上の過酷な周囲温度下でも、専用の保護ケースを使用することで、カメラ本体の周囲温度を50℃以下に保つことができ、安定した測定が可能である。

具体的な周囲温度特性の性能として、カメラ本体の周囲温度が−10℃~50℃に変化した際のカメラの指示変動を図5に示す。周囲温度:20℃を基準として、中央だけでなく測定視野の四隅でも± 1.0℃以下である。

図5 温度ドリフト試験データ

また、図6 に示すように、カメラが設置している周囲温度の急変に対しても、優れた補正性能を有している。恒温槽内にて、強制的に冷却、加熱を行い、急激にカメラの周囲温度を20→50℃、50→20℃と変化させたときの最大の指示変動は、それぞれ、−1.0℃と1.3℃である。

図6 急加熱・冷却時のドリフト試験データ

熱画像計測装置での応用例

1)カメラ本体のみでの構築例

①広域発熱監視
 図7は、ゴミやリサイクル燃料などの処理プラントにおける貯蔵ヤード表面の発熱監視の例である。熱画像は広範囲に表面温度を捉えることが可能であり、発火前に発熱を見つけることが可能となる。この例では、熱画像に任意設定した計測エリアの最高温度を警報判定し、接点出力を行う。

図7 広域発熱監視

②プラント異常発熱監視
 工場プラント設備では、異常発熱が大きな事故に結びつく場合がある。異常発熱がどこに発生するか特定できないケースでは、エリアを分割し、監視することで検出が可能である。分割したエリアごとに上限警報温度を設定し、設備ごとに異なる許容温度に対応して検出を行う。図8にこのシステム構成を示す。

図8 プラント異常発熱監視

2)コントローラと組合せた例
 熱画像計測装置専用のコントローラユニット(CPG-GMP2L)と組み合わせることで、フィルタ、エッジ検出、2値化などの画像処理と、任意に入力可能な演算式を組み合せた熱画像判定システムが構築可能である。

図9は、加熱成形され、棒状になった対象物の温度を計測するとともに、いずれかで断線が生じた場合に警報出力を行うシステムである。

図9 ストランド断線判定

温度は棒状の対象物ごとに設定した計測エリアの最高温度をコントローラに表示するとともに、外部へ連続アナログ信号を出力可能である。また、全体を覆う計測エリアを設定し、エリア内を任意設定温度で2値化し、粒子解析機能を用いることで断線判別を行う。

小形熱画像センサによる安心・安全分野での応用

小形熱画像センサは2,000画素の熱画像素子を搭載し、防塵・防滴構造を備えた現場設置形のサーモグラフィである。その小形、軽量、ネットワーク対応などの特長を活かし、熱画像での温度異常監視の連続測定や多点温度計測などの用途に使用されている。

また、赤外線サーモグラフィは、非接触で熱画像を測定できることや可視カメラでは問題となるプライバシー保護ができることなどの特長があり、人体検知への利用や新型インフルエンザ感染等の拡大懸念に対応するセンサへの社会的な要請に応えることができる。

幼児や高齢者、介護者などの見守りのセンサとして、熱画像センサを用いた研究が行われている。熱画像を用いる理由は、可視カメラでは、このような場所ではプライバシーの問題があり、また対象者からの放射されるエネルギーを非接触にて測定するため、まったくの暗闇でも人体を測定でき、人体への影響も考慮する必要がないためである。

図10のように、ベット、トイレやお風呂などに熱画像センサを設置して、異常状態を検知すると管理センターや病院であればナースステーションあるいは関係の人に無線でアラートを送信する。

図10 熱画像センサを用いた見守り

図11は熱画像センサを用いた介護者用のトイレでの看視の実験の例である。熱画像センサをトイレに設置して、正常動作と転倒など普段見られない異常動作の熱画像を解析して、判別分析の検知アルゴリズムを作成している。

図11 熱画像センサを用いた介護者用トイレでの看視実験

これを実験結果に適用したところ異常(転倒)パターンの判別率は97.8%であった。さらに、現在、実際の病院でのデータを蓄積して、機械学習によるアルゴリズムを開発して検知精度を上げるべき試験を実施している。

おわりに

今回紹介した熱画像計測装置「CPA-L4」の演算回路には、高速で柔軟性の高いデバイスを採用している。

今後、この演算能力をフルに活用して、従来、コントローラによる画像処理が必要であった用途に対しても、本体にて画像処理~警報判定~警報出力の機能を活用した分野に適用していく。

また、熱画像データをWebコンテンツに変換し、ワイヤレスでスマートフォンやタブレットなどの汎用端末上に表示する拡張機能も開発中である。

今後、安価な小形熱画像センサの活用も含めてIoTシステムでの熱画像による温度分布用のセンサとしての活用を拡大していく。

※映像情報MOOK:赤外線イメージング&センシング~センサ・部品から応用システムまで~より転載

問い合わせ
株式会社チノー
TEL:0480-23-2511
https://www.chino.co.jp/

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