株式会社ブルービジョン(以下当社)は、プリズム分光による光信号処理ができるカメラの製造販売を行っている。
本稿では、偏光プリズム分光技術を使用し、特にガラスのように表面が光沢である透明物体の被写体に対し、表面反射像をS波として撮像し、裏面からの反射像をP波として撮像することを特徴とする、2焦点ラインスキャンカメラ(写真1)および専用レンズについて紹介する。
開発の経緯と技術的特長
当社は、偏光ビームスプリッタを用い、被写体からの反射像をP偏光成分およびS偏光成分に分離し、2個のラインセンサを用いて、それぞれの映像信号を出力する偏光カメラBV-C3300を製造している。
用途としては、穀物等、屋外で収穫された原材料に混入している異物のソーティングである。特に野鳥の羽根、鉱石、人工フィルムのように偏光を発生する異物のソーティングに適している。
また、本製品を販売する過程で、同じ焦点位置に配置されている2個のセンサ位置を異なった位置に配置することにより、新しい応用が期待できると考えた。
たとえば、フィルム、ガラス等、厚みのある透明物体の表面反射画像をS波、裏面反射画像をP波として撮像するには、P波用センサとS波用センサの配置位置を異なった場所に配置すればよい。これが、2焦点カメラBV-C3350の発想である。
動作原理
図1は、基本モデルである偏光カメラBV-C3300の構成である。光沢のある被写体表面で反射した光は偏光され、P偏光またはS偏光のベクトルに分離される。レンズを介して集光された光線は、偏光ビームスプリッタにてP波信号とS波信号に分離され、それぞれのセンサに像を結ぶ。
2個のセンサを使用した利点は、偏光信号のように、位相の違いによって非常に大きなコントラスト(消光比)のある信号を取扱う場合、個々の信号に対して感度を設定できるので、どちらもS/Nの良い信号が得られることである。
図2は、透明な被写体を斜めから撮像し、異なった焦点画像を得る概念図である。被写体が薄い場合は、画像間のMTFに差をつけるために斜めから撮像して被写体A~B間の距離Eを長くとることが有利である。
エリアセンサの場合に斜めから撮像すると上下方向の画像がぼける傾向になるが、ラインセンサの場合はこの問題が発生しない。本図の場合、被写体の光路長がEmm異なる。
この結果、センサAはA面に焦点が合う位置に配置し、センサBはB面に焦点が合う位置に配置することにより解決している。本方式は、撮像したい被写体の奥行に合わせて、センサ間の位置を決めなければならない。したがって本製品は、受注後生産としている。
製品仕様
表1は、本製品の仕様である。被写体からの入射光は偏光ビームスプリッタにて2つの偏光像に分離される(図1)。
プリズムからの射出光は、画素サイズ7μm、4,096画素の可視光用ラインセンサに結像してフォトンから電気信号に変換される。この2つのセンサを光軸方向の異なった位置に配置することにより2焦点画像の撮像を得ている。
それぞれの信号は、DSNU補正、PRNU補正、シェーディング補正、Gain制御、露光制御、黒レベル制御等がされたのちカメラリンク信号として出力する。
図3は、ラインセンサの分光特性である。基本機種は可視光全体をカバーし消光比は10:1である。単一波長であれば1000:1以上の消光比にも対応が可能である。
プリズムカメラ用専用レンズ
偏光カメラは、図1に示したように直角プリズムを使用した分光方式を用いている。構成として45°入射のプリズムクラスタを2個接着することにより分光を得ている。
分光特性は反射面での多層膜設計とセンサ~プリズム間に挿入するトリミングフィルタの特性で決定される。プリズムに入射した光はその色(波長)によって屈折する角度が変わり、長波長の赤は大きな角度を持たずに焦点を結ぶ。
言い換えれば色によって焦点距離が違った値になる。この色によって光軸上の結像位置が変わることを軸上色収差と言う(図4)。
また、光学系に斜めに入射した光が結像するとき、その色(波長)によって屈折率が違うため、焦点を結ぶ位置が変わり像の大きさが変化する。このように、色によって像の大きさが変化することを倍率色収差と言う(図5)。
当社では、これらの収差が最小限になるよう設計された、プリズムカメラ専用のレンズをラインナップしている。図6は、最適光学設計が行われている当社製品と一般的なFマウントレンズを使用したときの収差の違いを表している。
レンズのラインナップ
当社では、広範囲な被写体の大きさに対応するため焦点距離20mmから105mmまでの6機種を製品化している(図7)。また、FマウントおよびM52マウントレンズも準備している。カバーするワークサイズは30mm以上である。
開発事例
本製品の用途として、以下がある
• 偏光を発生する異物のソーティング
• 凸凹のある被写体の同時2焦点撮像
• LCD、半導体の表面・裏面検査
• 透明フィルム樹脂の間の気泡、異物検査
• 透明フィルム等の厚み・キズ測定
• ガラス素材、ディスプレイの検査
• ボトル検査
• 複屈折素材の観察
図8は、野鳥の羽根の画像である。P波画像では偏光の影響がなく、S波画像では強いS波画像として現れるので、S/N良くソーティングを可能にしている。
図9は、透明フィルムでカバーされた箱の画像である。P波画像はフィルム表面の反射なく内部の箱の画像が撮像され、S波画像はフィルム表面の反射画像が撮像できる。
図10は、透明なアクリル板の表面と裏面にある黒線の撮像例である。センサAはアクリル板の表面に焦点が合っているので、表面の黒線がMTFの良い画像として撮像できる。
センサBはアクリル板の裏面に焦点が合っているので、裏面の黒線がMTFの良い画像として撮像できる。 このように、2焦点ラインスキャンカメラを使用することにより、異なる2面に焦点の合った画像を同時に得ることができるので、透明物体、凸凹のある被写体の検査に有効である。
今後のロードマップ
透明物質の表裏同時検査、凸凹のある被写体の奥行き方向の検査のようにより複雑な画像計測のニーズはこれから拡大していくと考える。
当社ではプリズム分光技術を用いた特殊カメラに特化した製品の提供企業として今後も製品のラインナップを拡大してく所存である。また、プリズムカメラ用レンズを準備し、かつ近赤外領域にも拡大した製品の開発も行っている。
■製品に関するお問い合わせ先
株式会社ブルービジョン
TEL.045-471-4595
E-mail:sales@bluevision.jp
http://www.bluevision.jp/
■販売に関するお問い合わせ先
ダイトエレクトロン株式会社
TEL.03-3264-0326
E-mail:camera-info@daitron.co.jp
http://www.daitron.co.jp/
コメントを残す