はじめに
キーサイト・テクノロジーは、アジレント・テクノロジーから電子計測事業が会社分割し、2014年8月に営業を開始した。ルーツは、1939年に創業したヒューレット・パッカード(HP)になる。
HP、アジレントから続く約80年の歴史とともに積み上げてきた電子計測のテクノロジーと製品ラインナップを誇る。従来のベンチトップ型の計測器から、近年モジュール型の計測器やハンドヘルド計測器へと製品展開をしてきている。
ベンチトップ型の高性能計測器で培ってきた技術をモジュール型やハンドヘルド型の計測器に応用することで、ソリューションの選択肢を増やし、多くのユーザニーズに応えている。
2014年6月に、その堅牢なハンドヘルドシリーズに赤外線サーモグラフィ「TrueIRサーモグラフィ U5855A」が登場し、2015年には高温測定を可能とする2モデル(U5856AおよびU5857A)をラインナップに追加した。本稿では、U5850 TrueIRサーモグラフィシリーズの機能を中心に紹介する。
キーサイトTrueIR赤外線サーモグラフィ
解像度と価格のバランスに優れ、ユーザが期待する使い勝手に配慮したキーサイトのサーモグラフィの5つの特長を紹介する。
1) ファインレゾリューション機能による低価格・高解像度の実現
2) 堅牢かつエルゴノミクス配慮の設計
3) 近距離でも鮮明フォーカス
4) 温度変化の解析機能と広温度範囲の測定
5) パワフルなソフトウェア
1)ファインレゾリューション機能
●解像度と価格
瞬時空間分解能(iFOV)は、サーモグラフィが検出できる最小サイズを示すものである。温度を正確に測定するには、測定対象物のサイズがそのサーモグラフィのiFOVより大きい必要がある。
サーモグラフィの検出素子は、各ピクセルで捉えた面の平均温度を測定している。各ピクセルの捉えられるサイズは測定対象物との距離によって変化する。
高解像度は特に外壁や屋根など大きなものを点検する場合や、大きな機械など対象物からある程度距離が必要な場合、そしてPCBA(電子基板アッセンブリ)などの小さな対象物を測定する場合に必要となる。
サーモグラフィの解像度が高くなればなるほど、対象物の温度をより詳細に測定することができ、より鮮明な熱画像(IRイメージ)を得ることができる。
解像度に比例してサーモグラフィの価格もあがるため、ソリューションの選択肢が予算により狭められることも少なくない。たとえば、320×240ピクセルのサーモグラフィの価格は、160×120ピクセルクラスのサーモグラフィの2倍程度である。
●ファインレゾリューション
TureIRサーモグラフィに搭載されているファインレゾリューション機能は、熱画像の有効解像度を4倍にし、瞬時空間分解能を1.5倍に改善するものだ。この瞬時空間分解能は、低解像度の素子に対して複雑なアルゴリズムを使って実現した。
強力なデジタルイメージプロセッサと高度なアルゴリズムにより、システムの遅延なくリアルタイムに画面に表示することができる。つまり、ファインレゾリューションは有効なイメージ品質と測定確度をサーモグラフィのコストを増やすことなく改良するものである。
●マルチフレーム
詳細のプロセッシングをみていくと、同じ場面の赤外線イメージのフレームを複数回撮り続けている。手ブレなどの影響で、若干、各フレームの位置がずれるが、フレームごとに少しずつ違う情報をもつことになるため、熱イメージの情報も少しずつ異なる結果になる。
複数のフレームを取得する過程で、インターポレーション(補間)技術により、解像度が拡張される(たとえば160×120ピクセルが320×240ピクセルへなど)。
インターポレーションは元の素子から得られた隣接するピクセルから得られるサブピクセルによって拡張される。 インターポレーションプロセスは高速に行われるので、高解像度のイメージはリアルタイムでLCD上に表示することができる。
●スーパーポジショニングプロセス
それぞれのフレームは少し位置がずれて捉えられるので、単に重なるフレームを平均化するのではうまくいかない。スーパーポジショニングプロセスは各フレームの特徴のあるピクセルを認識することからはじまる。
これらの特徴のあるピクセルは、すべてのフレームに共通の特徴としてマッピングされ、各フレームはそのマッピングにしたがって位置を調整する。それから高解像度イメージにする処理をする。図1はスーパーポジショニングプロセスのイメージである。
●イメージ再構築
温度イメージをより鮮明で、クリアにするにはイメージの再構築が必要である。その際に、平均化、ノイズ低減、エッジの改善アルゴリズムなどの数学的モデルを利用して、イメージを鮮明にしている。
●ファインレゾリューションの効果
ファインレゾリューションの効果は簡単に確認でき、最も簡単な方法は、1mm幅のバーの温度をファインレゾリューション機能と通常の測定を等距離で比較することだ。図2は、TrueIRのディテクタ列がどのような位置で細いバーを捉えているかを示したものである。
物理的な空間分解能(iFOV)の制限で、1 つのフレーム情報だけではバーの平均温度が記録され、正確に測定できない。 複数のフレーム情報を利用することで、ファインレゾリューションはサブピクセルの情報を得ることができる。
図3は、160×120ディテクタとファインレゾリューションで320×240ピクセルにしたものを比較したものである。
ファインレゾリューションが1.5倍iFOVですぐれており、つまり、1.5 倍正確に温度を測定していると言える。160 × 120 素子のクラスのサーモグラフィで、TrueIRのファインレゾリューションを選定いただくことで、コストをかけることなくよりよい解像度を手にすることができると言える。
2)堅牢、エルゴノミクス設計
サーモグラフィは、プラントや電気設備、太陽光発電設備などメンテナンス用途で使われることが多く、過酷な現場環境に耐えうる堅牢性が重要である。
• 2m落下耐性
• 保護等級IP54(防塵防沫)
また、サーモグラフィ本体の重心バランスがよいために見た目より軽く感じ長時間使用でも疲れにくく、手首の負担も軽減するようなエルゴノミクスにも配慮した設計になっている。
3)近距離フォーカス
マニュアルフォーカスがゆえに10cmの距離まで近づいてフォーカスをあわせることが可能になる。対象物に近づき、より対象を大きくとらえることができるので、詳細までとらえることが可能となる(図4)。
4)温度変化の解析機能と広温度範囲の測定
U5850シリーズは、詳細に温度変化を解析し確認するために、温度変化を時系列にモニターするイメージロギング機能、およびそのイメージ上の任意マーカ部を時系列にグラフ化するトレンドチャート表示の機能が搭載されている。
わずか0.07℃の温度感度により、温度変化を正確に捉え、保存、解析することができる。 さらに、350℃まで対応可能なU5855Aから、ラインナップを拡充し、650℃まで対応可能なU5856A、~1,200℃まで対応可能なU5857Aと、高温測定にも対応が可能となった(図5)。
5)パワフルなソフトウェア
現場で取り込んだイメージをPCで解析とレポート作成までを簡単に行うソフトウェアも無償提供している。
取り込んだイメージは、あとからマーカを追加したり、配色のバランスを変更したり、放射率の変更などが可能で、自社のロゴなどを追加したレポートもクリックするだけで簡単に作成することができる。このほかにも、LEDトーチライト、レーザポインタといった便利な機能がある。
また、クィックアクセスボタンは、可視画像、重ね合せ、熱画像と表示の切替が可能だが、切替不要なモードをOFFにして、可視画像と熱画像だけの切替ボタン操作にする機能など、カスタマイズが可能でユーザのちょっとした要求に応える様々な機能がこのクラスの製品でありながら搭載している。
おわりに
キーサイトのTrueIRサーモグラフィシリーズは、十分な解像度と使い勝手を兼ね備えたシリーズながらも、コストパフォーマンスにも優れている。ぜひ、TrueIRサーモグラフィシリーズを一度手にとって使ってみていただきたい。
※映像情報インダストリアル2018年7月号『赤外線イメージング』特集より転載
■問い合わせ
キーサイト・テクノロジー株式会社
計測お客様窓口
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E-mail:contact_japan@keysight.com
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