偏光画像処理については、長年研究室レベルではさまざまな取り組みがなされてきており、その効果についても広く知られている。にもかかわらず、その仕組み自体が製品検査等の分野に適用されている例はいまだに多いとは言えない。
ここでは、産業用カメラのリーディングカンパニーであるTeledyn DALSAが展開している2種類の偏光カメラとともに、それらがもたらす検査ライン導入への可能性について紹介する。
偏光カメラ概要
光の特性を表す3つの要素、すなわち強度、波長、偏光の内、前者2つはほとんどすべての「カメラ」が検出の基準としているものである。
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、弊社)が30年以上にわたって国内で展開してきたTeledyne DALSA製のインダストリアルカメラについても、そのほとんどが、幅広い波長を包含する光の強度を計測するモノクロカメラか、特定の波長域の光の強度を計測するカラーカメラであり、インライン製品検査等のアプリケーションで多くの実績を重ねてきた。
一方、偏光には通常人間が認識することができない多くの物性情報が含まれており、エリプソメータに代表される、深さ方向でナノメーターレベルの解像度での検出が可能な、大変高感度な技術として古くから活用されてきた。
しかしながら、これらの装置は、点光源の制限等により、1回で計測できる測定範囲はミクロンオーダーにとどまり、その利用は研究室レベルが中心となっていた。
近年の、高速に広範囲の偏光情報の収集を可能とする偏光カメラの登場は、この制限を打ち破り、偏光を使った高感度測定技術をマシンビジョンの世界で活用するための扉を開いたものといえる。
偏光カメラの種類
たとえば図1に示すような反射偏光光学系においては、入射面に平行な振動成分(P成分)と垂直な成分(S成分)とは異なる反射特性(位相のずれや反射率の違い)を示す。
そのため、一般に直線偏光(偏光板等を通過することにより、1つの方向のみに振動している光)された光は反射面において楕円偏光に変換される。
このとき、両成分の反射特性、およびその結果である楕円形状を決める要素には、入射光の波長や、入射角度、反射面の物質の光学定数や膜厚(表面に光を透過する薄膜がある場合)などがあり、これらのいずれかに変動があった場合、敏感に楕円形状も変化する。
今回紹介する偏光カメラにより、この楕円形上の変化を高速かつ広範囲に取得することができ、従来の可視カメラでは検出できなかった欠陥等の検査装置への応用が可能となってくる。
Teledyne DALSAでは、現在2種類の偏光カメラを展開している。 1つはSONY製の偏光エリアセンサを搭載したエリアカメラであり、視野がカバーする2次元平面内の各微小エリアごとに、0°, 45°, 90°, 135°の4つの偏光成分を抽出することができる(図2)。
ただし、偏光エリアセンサ自体が、異なる偏光フィルタを貼りつけた画素が千鳥格子上に配置されている構造となっているため(図3)、厳密な意味で同じポイントにおける異なる角度の偏光成分を取得することはできない。
そのため、各画素のすべての方向の偏光成分は、周辺の偏光成分を使って補完処理を行うなどして、便宜的にそろえる必要がある。しかしながら、偏光エリアカメラは、概念的にも非常にわかりやすく、さまざまな光学系による偏光画像を容易に取り込むことが可能な、使い勝手の良いカメラといえる。
もう1つは自社センサを搭載したラインカメラである。ラインカメラの場合、対象物(あるいはカメラ)が動いていることが前提となっており、その移動スピードとカメラのスキャンスピードを適切に同期させてやらなければまともな画像を得ることができない。
そういった意味で、適切な画像取得までのハードルはエリアカメラに比べると高いのだが、ラインへの導入を考えると、下記のような数多くのメリットがあると考えられる。
1)正確性
ラインカメラの場合は、異なる方向の偏光フィルタを貼りつけたラインセンサが平行に並んだ構造となっている(図4)。
もちろん、ある瞬間に各ラインセンサが撮影している場所はわずかにずれてはいるが、対象物の移動速度とラインスキャンスピードを適切に同期させることにより、正確に同じ場所の異なる方向の偏光成分を取得することが可能となっている。
2)解像度
Teledyne DALSA製のカメラの場合、エリアカメラの解像度は2,448×2,048であり、ラインカメラの解像度は2,048となっている。
しかしながら、エリアカメラの実質的な解像度はその1/4(水平・垂直方向それぞれ1/2)と考えられ、一般にラインカメラの方がより高精細な検査ができると考えられる。
3)均一性
前述のとおり、偏光画像はいろいろな条件の変化に非常に敏感な特性を示す。そのため、偏光画像を検査等に使う場合、視野内の照明条件をできるだけ均一に設定してやる必要がある。
エリアカメラの場合、2次元的な視野範囲を均一な条件で照明環境を構築しなくてはならず、ライン上にのみ均一な照明を必要するラインセンサの方が一般に精度の高い検出が可能といえる。
4)連続処理
これはすべての対象物にあてはまるわけではないが、連続したシート状の対象物を検査する場合、切れ目なく連続的に検査を行うことができるラインカメラの方が圧倒的に有利である。もちろん、連続していない対象物についても、トリガ信号を使って、フレーム単位の処理を行うことも可能である。
Teledyne DALSAは、このような数多くのメリットをもった偏光ラインカメラを世界で初めてリリースした功績を認められ、2017年のVision Systems Design’s Innovators Awards においてPlatinum賞を受賞している(図5)。
画像強調とサンプル評価事例
Teledyne DALSA製偏光ラインカメラの場合、0°, 90°, 135°の異なる3つの方向の偏光成分が同時に得られるので、それらをR, G, Bの各チャネルに出力させることにより、疑似カラー化された偏光状態を容易に確認することができる。
しかしながら、検査内容により、特定の偏光成分の強度や、楕円偏光状態(方位角や楕円のふくらみ度合)が重要となるケースがある。一般に、各偏光成分画像に対し適当な画像間演算を行うことにより、それらが強調されてくる派生画像を作成できることが知られている。
たとえば、図6のSTOKESと呼ばれる派生画像においては、AoP(Angle of Polarization)画像が方位角のみを反映した画像になっている。以下に、偏光ラインカメラを使って、弊社内でさまざまなサンプルを撮影した結果を示す。
各サンプルの撮影条件(光学系や各種設定パラメータ等)や使用する派生画像の種類については、弊社技術者が経験に基づき適当と考えるものを選定したものであり、サンプルごとの評価についてもあくまで弊社の私見となっている。
1)メガネレンズ(透過照明)(図7)
(ア)サンプルは穴の開いたメガネレンズ
(イ)通常のモノクロ画像(Conventional)では、穴周辺のストレスは確認できない
(ウ) 偏光疑似カラー画像(Polarization)では、ストレス(残留応力)がはっきりと確認できる
(エ)中央下のDoLP画像では、レンズ上のひっかき傷もより鮮明に表れている
2)定規(透過照明)(図8)
(ア)サンプルはストレスを与えた定規
(イ)モノクロ画像では、メモリや文字ははっきりと見えているが、ストレスは確認できない
(ウ)AoP画像においては、メモリや文字は消え、ストレスのみがくっきりと抽出されている
3)射出成型品(透過照明)(図9)
(ア)サンプルは射出成型で作られた樹脂製の蓋
(イ)モノクロ画像では、油性マジックで描かれた線や点(赤点線)もゴミ(青点線)も黒く検出されている
(ウ)偏光疑似カラー画像では、射出成型時の残留応力が放射状に表れている
(エ)DoLP画像においては、偏光方向がランダムなゴミは黒く、表面に塗布された油成分により偏光方向が揃ったマジック痕は白く検出されている
4)LCD(反射照明)(図10)
(ア)サンプルは電源OFF時のLCD画面
(イ)AoP画像においては、表面傷がくっきりと現れている
5)スルーホール(反射照明)(図11)
(ア)サンプルは基板上のスルーホール
(イ)モノクロ画像では照明条件によりスルーホールの見え方に方向的な偏りがある
(ウ)DoLP画像では照明条件の影響が少なく、材質の違いを反映したきれいなスルーホールが確認できる
導入検討プロセス
前述のとおり、偏光ラインカメラは偏光エリアカメラに比べ、数多くのメリットをもつ一方、光学系やカメラパラメータの最適な設定には経験とノウハウが必要となっている。
弊社では、エリア、ライン両方のサンプル評価用カメラをもっており、さらに偏光ラインカメラ用に図12(写真は透過光学系で測定時のもの)にあるような評価システムも準備している。
これにより、検査対象に応じたさまざまな条件(倍率、入射/反射角、照明の種類、ステージ移動速度、トリガ条件、カメラスキャンスピード等)の組み合わせを試すことが可能となっている。
また、画像入力だけでなく、派生画像の作成を含めたポストプロセスにノウハウをもつ技術者もいるので、今まで可視カメラでは検出できなかったサンプルなどをお持ちの場合は、ぜひ一度相談をしてみてほしい(opto-sales@ctc-g.co.jp 偏光カメラ担当者あて)。
おわりに
偏光画像については、古くからその有効性が知られていたにもかかわらず、なかなか産業分野、特にインラインの検査装置での活用が広まってこなかった。
しかしながら、近年固体撮像カメラを使って、高速で安定した偏光画像の撮影が可能となったことで、急速にその応用分野が広がっている。
一般的に、偏光画像が有効とされる、ガラス製品、フィルム製品、フラットパネルディスプレイ、精密光学部品等の検査だけでなく、近年では顔認識、細胞培養の観察、OCT(光干渉断層計)、リモートセンシングなど、幅広い分野での利用が始まっており、今後のさらなる展開から目が離せそうもない。
また、Teledyne DALSAでは、特に偏光ラインカメラの8K画素クラスの高解像度化にも取り組んでおり、実現の暁には、さらなる適用分野の拡大が期待される。
※映像情報インダストリアル2019年3・4月号『ブーム到来か!偏光カメラ』特集より転載
■問い合わせ
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
TEL.03-5712-8510
E-mail:opto-sales@ctc-g.co.jp
http://www.ctc-g.co.jp/
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