東芝テリー(以下、テリー)は、1950年代に国産第1号の監視カメラを製造して以降、産業用カメラの開発・製造・販売を行ってきた。近年のデジタル化への波がCCDセンサの終息とともに加速しており、併せて取引先の開発部門からの照会も急増している。本稿では、国内外で普及が進むUSB3 Visionの特性と当社の取り組みについて述べる。
カメラ自体の変化
1) 撮像素子(イメージングデバイス=センサ)の変化
1950年代の“撮像管”カメラから始まり、1980年代の“CCD”カメラ、2000年頃からは他社に先駆けてテリーが独自開発をしたオリジナルCMOSデバイス搭載の“CMOS”カメラと、時代にマッチしたデバイスを採用してきた。
2)インタフェイスの変化
TVフォーマット、のちにはプログレッシブスキャンタイプの“アナログ”カメラ、そして“CameraLink”、“IEEE1394”、“GigE”と変貌していくインタフェイスに対応し、様々な機種をリリースしてきた。また『USB3 Vision』に関しては、テリーは業界内で早くから取り組んできた。
2018 年の産業用カメラ事情~アナログカメラの終焉~
アナログ地上波放送終了から久しい。テレビ=デジタルとなった。したがって売れなくなったアナログ関連部品の多くが廃止となり姿を消している。産業界においても同様である。
カメラメーカがアナログカメラの生産継続を掲げるためには、大量の部品確保、または部品を自社生産することを強いられる。いずれにしても、取り扱いメーカの減少・価格の上昇が予想される。ユーザにおかれてはシステムを変えたくないという考えが強いと思うが、アナログカメラの枯渇は時間の問題となっている。
また、イメージデバイスの変革の大きな流れとして、CMOSデバイスがシェアを増やしていることは言うまでもない。CMOSデバイスは製造が容易で価格が安価なことから、スマートフォンやデジタルカメラ用途で需要が増大している。産業界でもCMOSデバイスメーカが乱立し、選定時の選択肢が増えてきた。
従来CMOSの弱点と言われていた感度や画質の面でもCCDに劣らないものが登場したため、高速・高画素・安価というアドバンテージをもつCMOSを採用することはもはや必須となっている。CCDはまだある。ただし大手メーカが撤退方向にあり、推測すると、完全にCMOS化される日は近い。
USB3 Visionってどうなの?
PRを始めた頃よく訊かれた質問である。USBは汎用性が高くPCとの接続が容易なことから、USB2.0の時代からPCへの入力機器として各社がカメラをリリースしてきた。ただし、転送速度が不充分なこと、マシンビジョン規格が策定されなかったことから、観察用途を除き産業用としては不向きといわれていた。
しかし、USB3.0に関しては、マシンビジョンのニーズに適合させるため、AIA(Automated Imaging Association)にてUSB3 Visionとして規格化され、マシンビジョンスタンダードとしてすでに成立している。USB3 Visionカメラのアドバンテージとしては、以下が挙げられる。
1. USB3.0ポートが現在発売されているPCにほぼ標準搭載
2. 5Gbps (Super Speed) の広帯域
3. 規格化されたことによる信頼性の向上
図1にUSB3.0のシステム構成を示す。なお、すべての理解が困難であっても、Host(=PC)~Hub~Device(カメラ等)の関係が図のようになっているという程度の認識をしていただければ問題はない。
販売初期の顧客の反応と現在の認識
『USB ?そんなものは見たくもない!!』『本当に使えるの? 取りこぼしないの?』など、USB2.0カメラで失敗した経験からなのだろうか、こういった声がよく聞かれた。
懐疑的なユーザが多い中、USB3.0カメラの拡販にむけて自社セミナー等を通じて紹介を続けてきた。その甲斐があり、現在ではたくさんのお客様に採用していただいている。
前述のとおり、USB3.0はマシンビジョンスタンダードとして成立している。これから採用を考えている方も安心して評価していただきたい。表1にUSB2.0とUSB3.0の相違点を示す。
基本的なことであるが注意点をひとつ。誤ってUSB2.0端子にUSB3 Visionカメラを接続した場合どうなるか。「通信スピードが出ない」また場合によっては「カメラが認識されない」といった現象が起こる。
識別方法としては、コネクタの中が青いものがUSB3.0端子であるので、接続前に確認をお願いしたい。例外的に中が黒のUSB3.0端子もあるが、その場合、スーパースピード対応を意味する“SS”の記載、あるいは“USB3.0”の記載があるので気がつくのは容易である。
また、ケーブルを長くしたいのだが、何か方法がないかという質問をよくいただく。AOCハイブリッド(アクティブ光ケーブル)がこの問題を解決してくれる。これを使用すれば20m超の長距離も可能となる。詳細は営業担当にお問い合わせいただきたい。 このように、弱点であったケーブル長についても克服しつつある。
進化するテリーのUSB3 Visionカメラ
プロトコルが同じでデバイスが同じならば、どのメーカのカメラでも同じなのでは?とお考えになるかもしれない。しかし、テリーの USB3 Visionカメラは、独自機能を多数搭載し他社製品との差別化を図っている。その特長と機種について述べる。
テリーオリジナルIPコアの採用
一般にカメラへのコマンドを処理するのはCPUの役目である。そのままのCPU処理では応答に時間を要するため、ソフトウェアを最適化することで時間短縮を図ることは可能なのだが満足のいく通信スピードではなかった。
そこでテリーは独自開発のIPコア「TELI Core Technology」(図2)を搭載することで、コマンド応答時間を約1/100に短縮することに成功した。時間短縮のみならず高集積化もあわせて実現した。
これは、弊社USB3.0カメラ“BU”および“DU”シリーズの根幹を成す部分で、リリースの時期の新しい機種ほど機能が拡充されている。 なお、最新のGigEカメラ、Camera Linkカメラにも、このTELI Core Technologyが搭載されている。
現在のラインナップを表2に示す。ラインナップ順としては、まずCCDモデルを一通り揃え終えた。さらに高画素化・高速化への要求に応えるためCMOSモデルに移行している。今後のCCD終息に併せ、0.4Mや1.6MのCMOSモデルをリリース予定である。
では各期のモデルごとに機能の紹介をしていこう。
1) USB3 Visionスタートモデル ~ⅰ期、ⅱ期モデル
2012~13年当時“It’s a NewStandard”と称して、スタートを切ったBU初期シリーズ(図3)。
小型で特徴的な外観を備えているので展示会や広告で見たことがある方も多いであろう。なお、この時点ではすべてCCDモデルである。簡単に各部の働きを説明しよう。
➀入出力端子(➅e-CONコネクタ)
入力1系統(TRIG IN)と出力2系統(シリーズによっては入出力1系統、出力1系統)。4ピンe-CONコネクタ採用で取り扱いが楽になった。
また、従来カメラのように特殊でなく一般的なコネクタであるため、特別な治具を必要とせず配線の手間も省ける。図4に配線例を示す。なお、e-CONコネクタ用のカバーも市販されており、接合部の防塵対策として活用をお薦めする。
➁LED
オレンジ・赤・緑でカメラの状態がわかるようになっている。たとえば、転送エラーが発生すると赤が点灯するなど数パターンの状態を表示する。
➂USB3.0コネクタ(➄スクリューロック付)
マイクロBコネクタを採用し、さらにスクリューロック採用でケーブルの抜けを予防。振動対策としてスクリューロック付ケーブルの使用を推奨する。
➃安心の3年間保証
テリーカメラの無償保証期間は原則1年間であったが、最適な設計コンセプトのもと本シリーズより3年間保証とした。長くお使いの方も安心である。
➆、➇小型筐体、軽量
特徴的デザインの小型カメラである(29(H)×29(W)×13(D)mm(突起部除く))。また、質量も27gと業界最小・最軽量クラスのカメラである。
➈センサ部
CCD、CMOSの様々な画素数、デバイスサイズに対応可能。今後さらに対応デバイスは増やしていく予定。 テリーカメラのユニーク機能については、下記のものが搭載されている。
●イベント通知機能(共通機能)
システムの高速化に必要な要件としてはもちろんフレームレートを速くすることが第一であるが、露光時間により左右されるため、タクトタイムの短縮には上記のような高速処理が必須となる。
コマンド通信が速くなるがゆえ、処理が速すぎて完了状態の確認が困難となる場合がある。そこで、「イベント通知」という機能が効果的になる(図5)。
たとえば、トリガ入力、露光の開始・終了、USBバスへのデータ転送の開始・終了などカメラの内部動作状態をホスト(PC)のソフトウェア上から知ることができるため、ホストはシステムの次の動作に迅速に移ることができる。
●バス同期(vi期モデルと1.3M CMOS白黒を除く)
BUシリーズではUSB3バス接続だけで、複数台接続のカメラ同期が可能である。すなわちバス同期機能である。では図6にてこの説明をする。
仮にCamera A、B、Cが同一バス内に接続されているとしよう。バス同期は、ハードウェアトリガなしで複数台のカメラの同期が可能である(図6下:波形図参照)。
原理としては、USB内にあるタイムスタンプを利用し同一バス上のカメラに同期をかける。ただしノーマルシャッタモードのみ動作するので注意していただきたい。この機能は、ステレオカメラやモーションキャプチャーに応用が可能である(図6上)。
2) CMOSモデル・多機能化 ~ⅲ期モデル、ⅳ期モデル
ⅲ期以降はすべてCMOSモデルとなっている、これより特別な機能(バルクトリガ、シーケンシャルシャッタ)が追加になった。まずは、機能説明。
●バルクトリガ(ⅲ期~)
聞き慣れない名称かもしれないが、テリーカメラ特有の機能の1つであるのでぜひこの機会に覚えていただきたい。バルクトリガ機能は、1回のトリガ信号の入力で、指定した複数回分の露光および映像出力が最短時間で行える機能である。
用途例として、複数フレームから最適画像の選択を行うアプリケーションや移動量測定などで使用する場合に有効である。図7は1回のトリガ入力に対して3枚連続で出力する場合の例である。
●シーケンシャルシャッタ(ⅲ期~)
シーケンシャルシャッタ機能は、トリガモードとの併用により、あらかじめプログラムされたGain、Exposure、ROI position、 Trigger delayなどの複数のカメラのパラメータ設定を、トリガ入力の度にフレームごとに設定をカメラ内部で自動的に切り換えながら撮影を行うことができるものである(図8)。
● シーケンシャルシャッタとバルクトリガの組み合わせ動作
図9にシーケンシャルシャッタとバルクトリガを組合せた場合の応用例を示す。ワンショットトリガをカメラに入力するというシンプルな制御を行い、異なるシャッタ速度の2枚の画像を撮影・出力し、シルク検査と外観(傷、欠損等)検査を同時に行う例である。
カメラに対しては、撮影前にシーケンシャルシャッタを2シーケンス分メモリに登録、メモリ読み出し順を指定、バルクトリガ設定を2ショット分の設定を行っておく必要がある。 このような機能拡充が施されたⅲ期・ⅳ期モデルであるが、外形は29(H)×29(W)×16(D)mm、重さ32gと依然小型軽量となっている。
3)ⅴ期モデル
ⅴ期モデルとして、テリーオリジナル 6.5M CMOSデバイスを採用したモデルをリリースした。すでにCameraLink版で実績のある6.5M CMOSカメラのUSB3 Vision対応版となる。5M超の画素数が必要とされる幅広いニーズに応えることが可能となった。
このCMOSデバイスは、撮像面のアスペクト比が1:1の正方形であること、セルサイズが5μmとなっているところから、レンズ性能を余すところなく効率よく利用できる。前述の独自機能に加え、ビニング機能を有している。
ビニング機能とは複数の画素を1つの画素に見立てて読み出す機能のことをいい、図10のようなイメージで取り込み、表示をさせる機能である。
ビニング機能の特長としては、複数画素を1画素とみなすため1画素あたりの撮像面が大きくなる。解像度が下がる分フレームレートは上がるが、いちばんのメリットはS/Nの向上にある。
つまり、撮像面積は変わらず(=光学系の変更無し)にノイズの少ない画像を得ることが可能になる。また、本モデルはDUシリーズと称し、高い光軸精度、デバイス性能を最大限生かす各種機能等、Premium typeのBUシリーズの位置づけとなる。
また、高品質、高信頼性を保つために弊社オリジナルの自動調整を採用している。デバイスサイズがひとまわり大きいことから、BUシリーズとは外形が異なり、40(W)×40(H)×35(D)mm、質量85gとなっている(図11)。
4)ⅵ期モデル
ⅵ期モデルとして、12Mのローリングシャッタモデル(カラー)をリリースした。12Mカメラとしては小型で、外形29(H)×29(W)×16(D)mm、質量32gである(図3参照)。
これはⅲ期~ⅴ期モデルの特長的機能を踏襲したカメラとなっている。ローリングシャッタ方式のため、動く被写体を撮像する場合は工夫が必要となるが、静止画撮像においては充分に高画素・高画質性能を発揮できる。
5)ⅶ期モデル
さらに進化した新CMOSデバイスを使用しているため、さらに高感度、低ノイズとなる。産業用としては定番となった3M、5Mをラインアップした(外形は図3を参照、サイズはⅲ期、ⅳ期、ⅵ期と同一)。
6)ⅷ期モデル
12Mのグローバルシャッタモデルでこちらは、BUの1つ上を行くDUシリーズ(外形は図11)としてリリースされた。
以上が現行品である。業界統計ではUSB3.0のシェアは約12%となっているようで、アナログに迫る勢いのようだ。もはやUSB3.0は次世代インタフェイスではない。
ところでUSB3.1ってどうなの?
このUSB3.1とはGen1(転送速度5Gbps)のことではなく、Gen2 Super Speed+(転送速度10Gbps)のことである。紛らわしいのでUSB3.1といえばGen2のことを指すとして話をさせていただく。
なお、このとき(図1)のUSB3.0のシステム構成に加えてSuper Speed+関連の層が加わることになるが、ここではこの程度にとどめておく。USB3.1のメリットとしては、高速転送のほかに、Type Cコネクタ採用がある。Type C コネクタの何が良いのかを次に示す。
➀上下関係なく挿せる(対応機器においては)
➁大容量電流対応(Power Delivery対応(以下、PD)の場合)
➂MacBookやPC、タブレット等に順次標準搭載されている
「わっ、いいことばかり!!」と思われた方、ちょっとお待ちを。下記のような面も持ち合わせている。
• 転送帯域が10Gbpsとさらに高速となるため、使用可能なケーブル長が短くなる。
• カメラ側とPC等に判別機能あればよいのでType Cコネクタ自体は問題がないが、ケーブルの芯線構成が変わり、評価済みのケーブル・線材が使えなくなる。
すなわち「カメラを開発しても、すぐには市場に投入できない」こととなる。高画素高速のために5Gbpsを超える場合は、USBではできないのだろうか。たとえばソニー製IMX253(約1,200万画素)を使用した場合は、仕様書では 68.3 フレーム/sec(8bit出力)となっている。ところが、USB3.0は転送エンコード方式に8b/10bを採用しているため、実効帯域が4Gbpsとなり30フレーム/sec程度でしか出力できない。
一方、USB3.1のエンコード方式は128b/132bであるため、実効帯域がUSB3.0の2.4倍の9.69Gbpsとなるため70フレーム/secを超える転送が可能であり、このセンサ性能をフルに発揮させることができることになるのだが、前述のとおり、すぐに投入することは困難である。解決する方法はある。2017年年12月の国際画像機器展にて注目を集めたモデル~Dual USB3という方式である(図12)。
USB3.0を2出力にして、5Gbps×2で10Gbpsを実現したものである。USB3.1と比較した場合のメリットを次に示す。
• ケーブルが2本になるが、現在流通しているケーブルを使うのでケーブル長は従来どおりで使用できる。
• 入力ボードも新たにUSB3.1対応品を用意する必要はない。
• USB3.1とほぼ同じ広帯域を実現
市場投入は、もう少し先であるが、高解像度かつ高速出力が必要なユーザの期待に応えるべく、奮闘しているところである。
映像の専門メーカとして
テリーは、一部無線関係の業務を除くと監視・産業用と、ほぼ映像の専門メーカである。本稿がカメラ選定の一助となれば幸いである。USB3.0カメラに関してのみならず、アナログからの切り替えを含めた様々なインタフェイスや周辺機器に関すること、CCDを含むカメラに関するお問い合わせ等お待ちしている。詳しくは以下にて検索いただきたい。
産業用カメラ界において、“技術と信頼のブランド テリー”と評していただいている弊社をお選びいただければ幸いである。
おわりに
今回もありがたいことに、USB関連記事の寄稿依頼を頂戴した。そして、今号には映像情報50周年企画として、約30年前の弊社の記事が復刻掲載されている。自分が技術者として入社したのは、ほぼこの頃。業界内ではすっかり古い人間になってしまった。
しかしながら当時の知識は今でも役立つものが多く、これからマシンビジョンの門を叩く人や入門したばかりの人をはじめとする次世代に継承することの重要さを改めて感じつつ筆を置くこととする。
* 記載の商品および規格の名称は、それぞれの各社が商標として使用している場合がある。
■問い合わせ先
東芝テリー株式会社
TEL:042-589 -8775
E-mail:mv_mi@toshiba-teli.co.jp
http://www.toshiba-teli.co.jp/
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