現在、わが国の食品業界では他業界と同様、人手不足が深刻になりつつあり、ロボットによる自動化が注目されている。本稿では特に衛生を考慮した「食品対応」ロボットを中心に、ビジョンセンサおよびIoTについて、主な機能および適用事例を紹介する。
はじめに
ロボットは工場の生産性向上に寄与するとともに製品の品質を安定させ、人を3K(危険、汚い、きつい)作業から解放することが評価され、先進工業国だけでなく、新興国でも急速にロボットによる自動化が進みつつある。
国際ロボット連盟IFRでは、2020年まで平均15%の年率でロボットの出荷が増加すると予測している。近年、特にわが国では労働人口の急速な減少による深刻な人手不足の業界が増えており、食品業界からも多くの自動化・ロボット化の引き合いをいただいている。
食品業界向けロボット
図1は食品対応ロボットの例である。
これらは、機械工場向けとは異なり、洗浄可能、食品機械用グリス使用等、特に衛生を考慮した「食品対応」設計がなされており、図2に示すように、ピッキング、パッキング、パレタイジング等の各工程に使用される。
また、これらの作業に付随した、対象物の分別・選別、包装部材へのラベル貼り、検査工程、入出荷工程にもロボットが使用されている。
ビジョンセンサ
ロボット用のビジョンセンサは、対象物をカメラで捉えて画像処理・解析を行うことで、対象物の位置・姿勢検出、あるいは、対象物の品質検査等を行うために用いられる。
ビジョンセンサは、図3に示すように、対象物の平面的な位置・回転角度を求める2Dタイプおよび、対象物の3次元空間上の位置・姿勢を計測できる3Dタイプがある。
3Dタイプの1つであるバラ積みセンサを使用することでロボットはコンテナの中にバラ積みされた食品を1つひとつ取り出すことができる。図4に主なビジョンセンサの用途を示す。
図5は、コンベア上を流れてきた食品を、コンベアを止めることなくビジョンセンサで検出して取り出し整列するコンベアトラッキング機能の例である。コンベアの速度はエンコーダと呼ばれる回転位置検出センサで計測している。
食品向けロボットの適用事例
図6は、食品向けロボットの適用事例である。様々な食品のロボットによる整列、箱詰め、搬送が行われている。また、箱詰めされた食品を積み上げるパレタイジングもロボット化されている。
図7はアーモンド生産工程での異物除去の例である。アーモンドは、専用機によって殻を剥かれるが、小石等の異物が混ざっていたり、虫に食われたりしているものがあるため、商品として出荷する前にこれまでは人が選別作業を行っていた。
このシステムでは、ビジョンセンサが異物や不良アーモンドを検出し、ゲンコツロボットと呼ばれる平行リンクロボット「M-3iA/12H」がそれを高速に取り除いており、コンベア上には出荷可能なアーモンドのみを残すことができる。
協働ロボット
ロボットに関する最近の大きなトピックの1つとして、協働ロボットの登場がある。協働ロボットは、これまで人とロボットとを隔ててきた安全柵を不要とし、人とロボットのそれぞれの得意技を活かした協働作業を可能とする。
図8は、段ボール箱を運搬して移動台車に整列する例である。重い段ボール箱の運搬は協働ロボットが行い、移動台車上で段ボール箱の位置の微調整を人が行っている。ここでは、ロボットが得意な重量物搬送と人が得意な位置の微調整という分業が行われている。
安全柵なしで人との協働作業が可能なこの「緑のロボット」CR-35iAは、第三者安全認証機関から国際規格ISO10218-1適合の安全認証を取得しており、人に触れると即停止する等の安全に関する基本機能を備えている。
協働ロボットにはCR-35iAのほかに、CR-15iA、CR-7iA、CR-4iAがあり、それぞれ可搬質量が35kg、15kg、7kgおよび4kgである。
ROBOGUIDE
ROBOGUIDEはロボットを使った自動化システムをPC画面上で設計するためのシステム設計支援ソフトウェアである。
ロボットの動作プログラムの作成およびロボットが意図した通りに動作するかどうかのシミュレーションによる確認もPC画面上で行うことができる。図9はROBOGUIDEで作成した生産システムのレイアウト検討、教示、動作確認の例である。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)
FIELD systemは生産現場にある様々な機器をつなぐ、IoTのためのオープンプラットフォームである。
図10に示すように、生産現場にある当社製あるいは他社製の様々な機器(食品製造機械、ロボット、PLC、センサ等)をネットワーク(Ethernet)でつなぎ、これらの機器の稼働データをリアルタイムで収集・解析して故障予知等を可能とする枠組みを提供する。
これにより生産システム全体としての生産性、エネルギー消費量等を最適化することを目指している。このようなデータは工場の生産性、信頼性にかかわる重要な情報を含んでいるため、工場外へ漏れることがないように厳重なセキュリティ管理機能が用意されている。
FIELD systemは様々なパートナー企業との協業で成り立っている。FIELD systemはオープンプラットフォームであり、この上で当社製およびパートナー企業製の各種アプリケーションソフトウェアが稼働する。
例として、生産システムの見える化を推進するiPMA、予防保全・故障予知を可能とするiZDT、代表的なAIである深層学習機能などがある。
FIELD systemに接続する機器向けのインタフェイスおよびFIELD system上で稼働するアプリケーションのためのインタフェイスについては、パートナー企業向けに公開している。
おわりに
食品業界の自動化・ロボット化は、これから本格化することが予想されている。食品は、1次加工食品、2次加工食品等が存在し、各々自動化・ロボット化の適用技術も異なっている。
食品製造工程の機械化・ロボット化は、オイル漏れや機械の破片混入等の特有の課題があるが、これらを確実に解決することにより、システム全体としての食品衛生の質を高めることができる。
われわれロボットメーカは、食品業界へのロボット適用に伴う課題にしっかり向き合い、これを確実に解決し、この業界のさらなる発展に寄与すべく力を尽くす所存である。
※映像情報インダストリアル2019年1・2月号「自動化を実現する産業用ロボット」特集より転載
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