多くのマシンビジョンアプリケーションでは、偏光カメラを使用すると、標準のモノクロ、カラー、マルチスペクトル、ハイパースペクトルカメラでは得られない情報を取得できる。
偏光カメラを使用する利点は、反射シーンと透過シーンを分離する必要があるアプリケーション、透明な被写体の形状を分析する必要があるアプリケーション、鏡面反射や光散乱の除去が重要なアプリケーションで有効である。
偏光とは
偏光は、2つの成分によって座標で表すことができる。図1aでは、特定の波長の45°偏光がX成分とY成分に分かれており、その大きさは図の壁と床に示されている。偏光が垂直の場合、Y成分は元の偏光と同じ大きさになり、X成分はゼロになり、その成分にはエネルギーがないことになる。
45°偏光の2つの成分を取り、位相を90度シフトした場合(たとえば、XとYの軸で特別に配向した波長板など)、これらの成分の合計は、Z方向に沿った任意の点の電界ベクトルが円形方向に回転するので、円偏光となる。
図1bまた、一般的に2つの直行する光の振幅と位相が等しくないことがあり、その結果、楕円形状で回転する電界ベクトルによって表されるケースがあり、これが楕円偏光となる(図1c)。
光を偏光するには、数種類の方法がある。具体的にはダイクロイック偏光フィルタ、結晶偏光子、およびワイヤグリッド偏光フィルタを使用する方法がある。
直線ダイクロイック偏光フィルタは、2つのコーティングされたガラスの間に伸縮および染色されたポリマー膜をラミネートすることによって実現される(図2a)。
この偏光フィルタに偏光しない光を透過させると、その偏光軸方向に直線偏光が生じる。 結晶偏光子は、結晶材料の複屈折の効果を利用している(図2b)。具体的には、方解石などの不等方性結晶の倍屈折の特性を利用する。
このような結晶の屈折率は、光の電界と相互作用する軸内の異なる電場をもつ非対称分子間隔と結晶軸によって異なる。入射光は、異なる速度で移動する直交した偏光成分を有する2つの光線に分割され、これらを分離することで2つの直線偏光が生成できる。
リソグラフィで生成されたワイヤグリッド偏光フィルタは、ガラスまたは適切な基板の上に配置された細いサブ波長の平行金属ワイヤを配列しています(図2c)。
これらのワイヤグリッド偏光フィルタに非偏光が入射すると、電界ベクトル成分がワイヤに平行な入射光が反射または吸収され、残りの電界ベクトル成分がワイヤに垂直に伝達される。偏光成分は、波長によって動作が異なる。
可視光偏光フィルタは、紫外線または赤外線波長でうまく機能しない場合がある。一方、波長板は通常、特定の波長用に設計されている。 円形ダイクロイック偏光フィルタは、四分波リターダと直線ダイクロイック偏光フィルタを組み合わせたものである(図2d)。
この四分波リターダ(π/2)は、円偏光を直線偏光に変換し、リニア偏光を遮断または通過させる。逆方向では、ダイクロイック偏光フィルタによって無偏光が直線偏光される。この直線偏光は、リターダ位相ずれによって円偏光に転換する。各偏光フィルタには性能特性がある。
これらの特性を調べることで、正しい偏光フィルタを選択できる(表1)。これらすべての異なる偏光子は、生体医学、マシンビジョン、顕微鏡などの用途で使用できるが、直線ダイクロイック偏光フィルタは最も低コストで、最も一般的に使用されている。
ハレーションを低減する必要があるアプリケーションでは、ダイクロイック偏光フィルタの使用が最も実用的であると考えられる。一方、紫外線(UV)から赤外線(IR)といった広い波長で高い消光比を必要とするアプリケーションでは、結晶偏光子に利点がある。
すべてをイメージセンサに
ソニーのIMX250MZRおよびIMX250MYR CMOSセンサではワイヤグリッド偏光フィルタを採用している。3.45μmの2,464×2,056の画素に対して、4ピクセルごとに0°、90°、45°、135°の指向性偏光フィルタを配置している(図3)。
これらの4つのフィルタを通過した光をセンサのフォトダイオードで受け、後段の処理により、偏光角度(AoLP)と直線偏光度(DoLP)得ることができる。
生成されたイメージは、2,464×2,056ピクセルの4分の1の1,232×1,028ピクセルになる。または、従来のRGBベイヤーパターンと同様に元の解像度のまま出力するように補間することもできる。
偏光フィルタは、カバーガラス上ではなくチップ上のマイクロレンズの下に成形されているため、隣り合ったピクセルによって誤検出されるクロストークを減らす。
センサは直線偏光フィルタを採用しているため、光の直線偏光度(DoLP)を計算するために使用できる。円偏光を測定する場合、光の経路に1/4位相フィルムを補う必要がある。
現在、市販のセンサで円偏光のフィルタを搭載するものは製造されていないが、チップ上に円偏光フィルタを形成する方法は日夜検証されている。
偏光性能
イメージセンサに偏光フィルタが配置されると、センサの量子能率(QE)が変化する。ソニーのIMX250MZR CMOS偏光センセンサの場合、400~950nm波長でQEを測定すると、ソニーのIMX250LLRと比較してQEが減少する。
たとえば、470nm、525nm、640nmの場合、IMX250LLRのQEは53%、66%、58%である。一方、ピクセルの角度に一致する偏光をもつ IMX250MZR は、それぞれ約 43%、48%、43%である(図4)。偏光フィルタまたは偏光センサの主要な性能指標は、偏光軸に対して垂直な偏光を可能な限り遮断できることである。
偏光消光比(ER)とは、高品質のリファレンス偏光センサの偏光軸を偏光軸に揃えたときに得られる最大信号の比率で、基準偏光が「交差」または90°回転させたときに得られる最大信号の比率である。 偏光フィルタの種類、品質、波長によって、ERは大きく異なる。ソニーのIMX250MZRの測定結果を図5に示す。
1)ストークスパラメータ
パラメータのセット(ストークスベクトル)は、電磁放射の偏波状態を表す。これらの定義は、もともと、学者であるジョージ ストークス卿によって定義された。
4次元のStokesベクトルは、入射電波の強度(I)、直線偏波のうち、垂直成分に対する水平成分の優位性(Q=p_0-p_90)、平面から45°と135°回転させた偏光成分間の垂直成分に対する偏光成分(U=p_45-p_135)、および左右の円形偏光輻射の差(V)から構成される。Sony IMX250MZR CMOS偏光センサでは円偏光を直接測定できないため、I、Q、U値のみが使用可能。
これらから、下記の方程式を使用して、直線偏光の度合い(DoLP)と直線偏光の角度(AoLP)を計算することができる。
2 × 2 の個別指向性フィルタの強度の結果は、AoLP、DoLP、またはAoLPとDoLPの両方を組み合わせた出力をソフトウェアで表示できる。
さまざまな方法を考える
偏光解析には多くの方法がある。最も単純なものの1つは、標準的なカメラレンズの前に取り付けられた安価なリニア偏光フィルタを使用することである。
この偏光体を回転させることで、さまざまな画像を撮影できる。この単純な方法は、最近、NVIDIAでさまざまな偏光方向で撮影した複数の画像から被写体の3D形状を回復する用途で使用されている。
またCanon EOS 7Dのレンズ前面に取り付けられたHoyaリニア偏光フィルタを用いて、最初にカメラ位置とテクスチャの整った領域の初期の3Dモデルを生成するためにマルチビューステレオ方式が使用された。
対応する偏光イメージから各ビューの位相角マップを計算した後、NVIDIAはあいまいさを解決して方位角を推定し、特徴のない領域の深さを計算し、深度マップを融合して被写体の3D形状を生成した(図6)。
偏光カメラは、個々の画像フレームをキャプチャする間に機械的に回転する偏光装置や波長板によって実現できるが、より洗練された方法も開発されている。
Bossa Nova Technologiesが開発したこの手法の1つは、強誘電性液晶(FLC)に基づく偏光フィルタを使用して、画像の各ピクセルの4次元ストークスベクトルを計算するための4つの偏光フレームを取得する(図7)。
したがって、カメラは直線偏光の度合い、円偏光の度合い、偏光の角度、楕円角を決定することができる。他の方法としては、複数のイメージセンサとプリズムを使用して同じ作業を行う。
画像の偏光の度合いと向きを推定するには、少なくとも3つの異なる角度のアナライザまたは半波長板が必要なため、FluxdataはFD-1665Pカメラでは、それぞれ0、45、90°の異なる方向に向けられた3つの偏光フィルタが配置されており、偏光画像は3つの独立したCCDセンサによって撮像され、偏光情報を生成する処理が行われる(図8)。
ストレスの低減
多くの場合において、画像の円偏光やellipticity angleを計算する必要はない。ガラス内の応力誘起複屈折を測定するなど、産業用およびマシンビジョン用アプリケーションでは、AoLPとDoLPの計算で十分な場合が多い。
このような用途では、Sony IMX250MZR偏光センサをベースとした偏光カメラを使用することで、円偏光やプリズムベースの装置に比べて非常にコンパクトでありながら、動画や静止画画像を容易に取得が可能になる。
このため、新しい Sony センサは、LUCID の小型なPhoenixに最適である。これらの用途には、製品検査や不具合検出、3次モデリングの生成、ギラツキ・乱反射の除去などがある。
たとえば、炭素繊維の特性の1つは、繊維の方向と平行に偏光しない光を偏光させることが挙げられる。
カーボンファイババンドルの配向と位置を把握して、ファイバの配向を決定するために、表面を照らすリングライトからの偏光のない赤色ライトの偏光(図9)を照射する。
偏光フィルタ搭載センサからの出力を偏光処理した画像はマシンビジョン用途に有用だが、単純にかすみ除去した画像などもいろいろな用途で使用できる。
大気に含まれる不純物よって散乱される自然光が部分偏光されているという事実から、偏光技術と光沢的方法を組み合わることによってかすみのある画像を澄んだ画像にすることができるとYOAV SCHECHNER氏が彼の論文「Polarization-based vision through haze」で指摘している。
このようなかすみ除去は、異なる方向から偏光フィルタを通して撮影された2つの画像を用いて実現することができる。LUCIDのPhoenix偏光カメラにより、0°、90°、45°、135°の角度で画像データを撮影することができる。
FRAUNHOFERIISのPOLKA IMAGINGソフトウェアは、直線偏光角度の計算を行い、各ピクセルにファイバの方向を表示することができる。図10の下の画像は偏光度を輝度表示したもので、上の図は偏光角度に色付けした表示である。
このようなカメラは、従来のイメージング技術では見えないプラスチックやガラスの内部応力解析にも使用できる。さらに、擦り傷や表面上の問題を強調することができる。
たとえば、透明な物体、特にプラスチックで製造された物体は、偏光カメラを使用して撮像すると、内部の不均一性が応力や表面特性に応じて偏光方向を回転し光の特性を変更する。
図11に示す携帯電話のケースをモノクロ画像撮影しても、表面の欠陥や内部応力特性は示されないが、偏光カメラを使うと簡単に視覚化できる。
将来の展望
偏光映像を応用するアプリケーションは、たとえばリモートセンシングや顕微鏡、3次元画像処理のように数多く存在する。
特殊なレーザーを使用するアプリケーションでは、依然として高価な結晶偏光子を使用することが求められるが、汎用的な写真では依然として低コストのリニアおよび円偏光フィルタを使用されることが多い。
産業用イメージング用途では、Sony IMX250MZRなどの偏光イメージセンサに基づく低コストのカメラの導入により、このような分析を行うために必要な高価な機械的または電気光学的な装置が置き換えられた。
これにより、このような装置に複数の偏光装置を導入する必要はなくなり、その装置のコストを劇的に減少させることができる。
将来的には、CMOSイメージセンサにさまざまなオンチップフィルタを搭載していくトレンドは続くことが予想されるため、イメージング業界には新しく刺激的な可能性が開かれることになる。
※映像情報インダストリアル2019年3・4月号「ブーム到来か!偏光カメラ」特集より転載
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