住宅設計と並行し、工務店の指導などを通じて高断熱住宅の普及にも取り組む松尾和也氏(松尾設計室)。住宅づくりの現場でもとても身近な存在になったサーモグラフィカメラであるが、所持しているにも関わらず使用頻度が低いといったケースが少なくない。
また、使い方によっては、その効果が薄くなってしまうこともある。サーモグラフィカメラをフル活用している松尾氏に、実務者の視点からその活用法を伺った。
「勘」を補うツールとしても有効
松尾氏のポリシーは、「自分で計算し、実測する」こと。その徹底ぶりは「目に見えないものは全て計測する」ほど。カタログ上のスペックだけで判断せず、生のデータを自ら収集することで、「真に費用対効果の優れたもの」を選ぶことができると考えているからである。
これまで温度測定には、放射温度計を使っていましたが、ピンポイントでしか測れないことや、対象から離れるほど精度が低下することに悩んでいた。そのため、8 年ほど前に、サーモグラフィカメラを導入した。
当初は国内メーカのカメラを利用していたが、東京大学大学院准教授の前真之氏から、スマートフォン用の FLIR ONE を譲り受けて以来、フリアーのカメラを愛用し続けている。
松尾氏がフリアーのカメラを使っている最大の理由は、スーパーファインコントラスト(MSX)という独自技術にある。これは、熱画像に、通常の写真を重ね合わせ、画像を鮮明にする技術である。
温度差の少ない高断熱住宅を撮影しても「細部が明瞭で、後でどこを写したのかがすぐわかります。勘でわからないことを教えてくれるのがサーモグラフィカメラの良さです」と松尾氏は語る。
実践と実測による「答え合わせ」を繰り返しいくことで、高断熱住宅づくりの「勘」が養われていくが、サーモグラフィカメラは、その「勘」を補完するためのツールだと言う。
ビジネスチャンスが拡大する可能性も
松尾氏が使っているサーモグラフィカメラは、フリアーの E6 と FLIR ONE PRO である。現場などできちんと温度を測定する必要があるときは E6 を使い、FLIR ONE PRO は普段から持ち歩くためのものと位置付けている。
サーモグラフィカメラが活躍する場面のひとつが、完成見学会である。松尾氏がカメラを手に説明することもあり、来場者にカメラを渡して、自身で見て確かめてもらうこともある。
リアルタイムでサーモグラフィカメラを使い、温熱環境を可視化することで衝撃を受ける来場者が多くいる。消費者は「計算結果より、視覚的なインパクトで判断します。契約率も上がるかもしれません」と松尾氏。
また、リフォーム・リノベーションの現場でも、サーモグラフィカメラが威力を発揮する。改修前の状態を、サーモグラフィカメラで見れば、熱環境上の弱点がすぐに把握でき、効果的な改修の計画を立てるのに役立つ。
ストック型市場への転換が叫ばれる中、断熱改修もストック市場では有望な分野だと言われる。松尾氏は「サーモグラフィカメラで既存住宅の性能を見せれば、断熱改修の潜在的な需要を引き出せるのではないか」と助言をしてくれた。
まさに、サーモグラフィの視覚的なインパクトを利用することで、ビジネスチャンスが拡大する可能性もある。
高断熱住宅に合った設定がカギ
サーモグラフィカメラの活用にあたってまずやるべきは、カメラの設定である。オートのまま使うと、測定スケールが変わり、ごくわずかな温度差でも画像に反映されて温度ムラがあるように見えてしまう。
高断熱の効果をきちんと見せるには、測定する温度スケールを固定しておくことが大切である。
夏なら 10℃~ 40℃、冬なら 5℃~ 35℃と、「住宅の性能を最も良く表せる」設定にしておく必要がある。なお、フリアーの現行ラインアップでスケール固定が可能なのは、E6-XT 以上の機種と FLIR ONE PRO となっている。
その他の設定はデフォルトのままでも大丈夫である。
設定ができたら、あとは回数を重ねてサーモグラフィカメラに慣れることが大切。松尾氏も「とにかくカメラを持って撮りまくること」と説く。
使っていくうちに思わぬ発見をすることもある。たとえば、夏、自身の設計した住宅の周辺にカメラを向けたところ、水が張った田んぼなのに、想像以上の高温になっていることが判明。夏の通風はほとんど効果がないと気づいた――そんな経験もあるそうである。
サーモグラフィカメラは、今や消費者でも入手できるほど身近な存在になっている。消費者からも住宅の性能が「丸見え」になる時代がすぐそこまできている。
工務店は、サーモグラフィカメラを実務でしっかり活用し「見られてもいい住宅」をつくることが、今後の生き残りのためには必要になっていきそうである。
フリアーシステムズジャパン株式会社
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