太陽光への外乱光耐性を実現する 3次元ToF方式CCD/CMOS
ハイブリッドセンサ「epcシリーズ」

近年、ドローンを含む自動走行ロボットを始め、自動車(ADAS)や携帯電話、セキュリティ用途などで、距離センサのニーズが高まっている。

本稿では、太陽光耐性を強みとした距離センサとしてToF(Time of Flight)用受光素子を自社で設計・製造するESPROS Photonics社の紹介をする。

ESPROS Photonics社について

ESPROS Photonics(以下、ESPROS)はスイス Sargansに拠点を置く2006年創業のCCD/CMOSセンサメーカである(図1)。

図1 ESPROS社 本社の写真
背後の山の内部に半導体製造工場(FAB)を有する

数十億円規模の先行投資を行うことで実現した自社の半導体製造工場(FAB)を敷地内に有しており、半導体素子の設計から製造までを一括して自社で行う。主な製品はToF(Time of Flight)用のCCD/CMOSハイブリッドセンサ「epcシリーズ」である(図2)。

図2  epcシリーズ:epc660チップと、その評価用カメラDME660

ToF(Time of Flight)について

一般的にToF(Time of Flight)は距離計測用センサとして応用され、1点での距離計測のほか、面で距離を計測することができるため、3次元カメラとしても使用される。

広く認知されているToFカメラとしては、すでに製造中止となったがMicrosoft社のKinectが挙げられる。一般的にToFカメラの構造としては、内部に光源を内蔵している。

ToFカメラは、光源から投光した光が、計測対象表面で反射してカメラに戻ってくるまでの時間を計測する。光速は一定のため、時間が計測できれば距離に換算することができる(図3)。

図3 ToFカメラ動作原理

ToFの技術は測量機器や人体検知センサに搭載されているほか、自動車のADAS(先進運転支援システム)用の距離センサなどで自動車メーカ各社が採用に取り組むなど、昨今注目を集めており、ドローン用センサとしても広く採用されている。

ESPROS 社の「epcシリーズ」について

ESPROS社の「epcシリーズ」(図2)は、ユーザによるToFカメラの開発を簡単化する

。前述のとおり、ToFを利用した距離センサの開発には、光速の時間差を捉えるカメラの開発が必要となるが、1nsで30cm進む光を精度よく捉えることは技術的困難が付きまとう。

本製品は、光速の時間差は受光素子内部で自動的に計算できるほか、投光のタイミング出しやLED/LDの駆動回路といった必要機能についてもSoCとして受光素子に内蔵している。

そのため、投光デバイス(LED/LD)をセンサに配線のみで、撮影対象の立体情報(距離情報)を画像として取得する3次元の距離計測カメラを開発することが可能である(図4)。

図4「epcシリーズ」を利用したToFカメラ内部設計例

「epcシリーズ」は、計測点数別に幅広いラインナップを揃えており、1点での距離計測から最大320×240px(QVGA)の解像度をもつToFカメラまで開発可能である(表1)。

表1 「epcシリーズ」ラインナップ

ToFカメラの弱点<外乱光>を克服した「epcシリーズ」

一般的に、ToFカメラの弱点は外乱光(太陽光)である。投光した光の反射光を計測するという原理ゆえ、強い外乱光が存在する環境では反射光が阻害され、計測不能に陥る現象が発生する。

つまり外乱光によって画像が真っ白に「サチって」しまう。そのため、ToFカメラは屋外では使用できないもの、と認知されていることが多い。

面ではなく1点のみのLiDARとしてToF技術を使用する場合は、投光する光としてLD(レーザー)など強力な光源を使用することで、太陽光に強いセンサを開発することも可能である。

しかし光源やデバイス自身が巨大となる上、発熱の問題が常に伴う。 ESPROS社のToFセンサ「epcシリーズ」は、こうした課題を独自の技術により解決している。

1)裏面照射による大幅な感度引き上げ
 自社半導体製造工場で専用の工程を容易することで、通常実現の難しい裏面照射(BSI)を実現している。裏面照射により、受光部分の面積を大幅に引き上げることができ(フィルファクタ100%)、高感度を実現している。

同時に、非常に短い露光時間での露光が可能なので、太陽光を受光している時間を短くしながら、微量な反射光を効率良く捉えることが可能である。

2)静電容量の引き上げ
 もう1つの工夫として、受光可能な光の総量、つまり静電容量を通常のCMOS素子に比べて大幅に引き上げている。この工夫により、ある程度の太陽光を受光したとしても、簡単には「サチらない」仕様を実現している(図5)。

図5 11.5万luxの太陽光下であっても安定した距離画像が撮像可能

採用事例:エレベータセンサ

 太陽光への耐性を理由にESPROS社のToFセンサが採用されている事例が数多く存在する。 スイスを拠点とする自動ドア用センサの大手メーカ CEDES社での採用事例はエレベータ用の人感センサである。

エレベータは一般的に屋内の設備だが、日の傾きによって太陽光の影響を受けることが多々ある上、一般的に誤動作が許されず、太陽光の有無にかかわらず安定して利用できることが条件となる。

面で距離計測できるToFカメラを使用することで単純な人感検知に限らず、人物の歩く速度に合わせたドアの開閉制御ができるなど、エレベータ用センサとしての付加価値を実現している(図6)。

図6  エレベータ、自動ドア用のセンサは太陽光耐性が必要となる

採用事例:ドローン用距離センサ

屋外利用できる特長を活かして、「ドローン用距離センサ」としてepcシリーズが採用されている。ドローンで距離センサが必要となる用途は大きく分けて3つ存在する(図7)。

図7 ドローンに求められる距離センサ3つの用途

① 離着陸時における地面との位置関係把握
② 障害物回避
③ 対象物との距離を一定に保って飛行

特に③については、高額なレーザースキャナなどを使用して実現するメーカも存在しているが、epcシリーズを距離センサとして採用することにより、安価に距離を一定に保つ機能を実現することができる。対象物との距離を一定に保つことにより、橋梁の測定や、地面に存在する障害物を回避しての飛行が可能となる。

※映像情報インダストリアル2018年1月号より転載

問い合わせ
株式会社リンクス
TEL. 03-6417-3371
E-mail:info@linx.jp
http://linx.jp/ 

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