スキル不要の3次元変位計測機 ハンディ3D変位測定ツール 「EZ3D」の紹介

誰にでも簡単に3次元の変位計測が行える、ハンディ3D変位測定ツール「EZ3D」がEZ Metrology社からリリースされた。

従来の3次元計測機の課題である大掛かりなハードウェアやソフトウェア操作スキル、もしくは、スケール・隙間ゲージ・段差ゲージを用いた人の手による計測の課題である個人差や作業時間などの難点を一気に解消できる強力なツールである。本稿では、その代表的な機能・特長について紹介する。

背景と主なアプリケーション

たとえば、自動車のボディのアライメントは外観に影響を与えるだけでなく、車両剛性や空力の影響による操縦安定性、衝突時の安全性など様々な車両性能に影響を及ぼす。

そのため、品質管理の現場では荷重や温度変化を与える試験が行われ、各部のアライメントが厳しくチェックされている。従来、これらの測定には、3次元計測機、もしくは隙間ゲージや段差ゲージなど使用されているが、3次元測定システムは高額かつ装置の据付・調整に時間がかかり、操作・測定には知識と経験が必要であった。

また、隙間ゲージや段差ゲージは、1ヵ所ずつ人の手で測定するためかなりの時間を要し、さらに、作業員によって計測結果にバラツキが生ずるなどの問題がある。

ハンディ3D変位測定ツール「EZ3D」は、タブレット端末をベースとしたハンディタイプのシステムで、ステレオカメラとターゲットシールを使用した画像解析により3次元変位を計測する。複数のターゲットを同時に認識できるため、1台でギャップ変位・段差変位のみならず、面形状の変化や素材の伸縮の影響などの計測も可能となる。

ターゲットの3次元位置の変化量は繰り返し同じ箇所を撮影することにより測定が可能となる。タッチスクリーンによる直感的な操作で、測定、結果の確認からレポート作成まで容易に行えるため、複雑なソフトや計測道具の使いこなし、熟練の技は必要なく、写真を撮るだけで誰でも簡単・迅速に、高精度かつ同じ計測結果が得られる。

計測にかかる工数の削減、品質の向上、開発スピードの短縮化に貢献する。 温度変化試験、負荷試験中の構造物/アセンブリの隙間/段差/せん断変位などを測定するアプリケーションにおいて非常に有用なツールとなる。

計測の概要

EZ3Dは「貼って撮るだけ」をコンセプトとしている。基本的な計測のための作業としては、図1のような2種類のラベルを対象物に貼り付け、図2のハードウェア本体に組み込まれたステレオカメラでそれを撮影するというものだ。

図1 計測対象への貼付ラベル

図2 EZ3D本体と測定の様子

ステレオカメラの撮影も、タブレットPCに組み込まれたソフトウェアからタップ操作でシャッタを切る、という内容であり、一般的なタブレット端末でカメラアプリを起動して写真を撮るのとあまり変わらない。

得られるデータとしては、リファレンスラベルを基準座標としたターゲットラベルの3次元座標値となる。ひとつのターゲットラベルに対し3次元の座標が得られる仕組みは、一般的によく知られ認められている画像解析による立体視の原理を利用していると説明すればご理解いただけるだろう。

撮影後のデータはすぐに画面上で確認することが可能になっている。図3左のように画像上のリファレンスラベルに座標系を表わす矢印が表示され、ターゲットラベルの近くにはその座標値が表示される。

図3 座標値の表示

データがきちんと取得できているかどうかをすぐに確認できることで、撮りこぼしなどの単純なミスも未然に防ぐことができるようになる。 同じ箇所をもう一度撮影すると、今度は最初に測定された座標値からの変位量が表示される(図3右)。

対象物に力が加わったり、温度変化で膨張・収縮などの変化が起こったりした場合に、どのくらいの変形が起きたのかが即座にわかるように配慮されているわけだ。

もちろん、同じ場所を3度目、4度目とさらに撮影していくことで、変位が発生する度にその変位量を測定していくことができる。試験中に繰り返し同じ箇所を撮影することで、ゆっくりとした変化の様子をデータに収めることが可能になる。

精度と計測範囲

EZ3Dはこのように非常に間単に3次元変位測定を行うことができるが、それでいて最高0.05mmという精度の高い測定も実現している。カメラにはHDサイズ(1,280×720ピクセル)の解像度をもつデバイス採用し、サブピクセル処理による画像解析を行うことによりこの高精度を達成している。

一方、計測範囲としては2つのカメラでオーバーラップして撮影できる範囲となる。おおよそのイメージとしては図4のとおりである。

図4 本体サイズと計測範囲

広範囲の測定はできないが、大型構造物であっても図5のように複数箇所にリファレンス/ターゲットラベルを貼っておき、各所をそれぞれ撮影することで、局所的な変位を測定することはもちろん可能だ。

図5 ラベルの貼り付け例

EZ3Dのソフトウェアはひとつの測定箇所に関する一連のスナップショットやデータを“セッション”と呼ぶ枠組みの中で管理している。複数のセッションを並行して走らせて切り替えながら運用することができるため、複数の箇所を並行して測定していくことが可能になるわけだ。

手順簡略化、時間短縮化のための工夫

このほかにも測定の一助となる機能をいくつか保有している。ひとつひとつは地味だがかゆいところに手が届く機能であり、こうしたところの積み重ねが利便性の向上に少なからず貢献しているため紹介しておきたい。

先ずは、照準合わせのためのレーザーである。前述しているが図4のとおりEZ3Dの計測範囲はカメラから350mm離れた位置を中心として奥行き方向に100mmの領域となっている。

上下左右の位置合わせはタブレットに表示されたステレオカメラの映像から容易に確認できるが、奥行き方向の位置合わせはこのレーザーによって確認できる。EZ3D 本体から照射されるレーザーは 2 本あり、350mm離れた位置で交差するように設計されている。

図6のように2本のレーザーによる輝点が2つ視認できるため、これらが近づく位置で撮影を行えばいいわけだ。 

図6 照準合わせレーザーの輝点

また、図7のように高輝度照明も備えている、EZ3Dはその小さな筐体サイズを生かし室内照明の影になるような狭い場所の計測も可能となる。EZ3Dに備わっている照明はそうした場所でも安定して高精度の測定を実現する。 ソフト面でも自動レポート作成の機能が備わっている。

図7 高輝度照明

一連の撮影を終えセッションを終了すると自動的にエクセルのレポートが作成されるようになっており、他の測定システムではありがちなわざわざデータエクスポートの操作をする必要はない。

別のPC端末へのデータの移行や追加解析も行いやすいように配慮されている。エクセルのシートには撮影した画像と、複数回の撮影それぞれの時刻、3次元座標値、変位量が含まれる。

様々な現場へ

製品名に“ハンディ”と入れているだけあって、本体を「手に持って」操作・移動することができる。大きさは図4のとおり、重量は約2.2kgである。

常に携帯して持ち歩けるレベルではないが、どのような場所にも人ひとりが気軽に持ち運べるサイズだ。 計測対象側にもラベルを貼るスペースとそれをステレオカメラで撮影できる空間だけが必要であるため、たとえば車の室内のような狭い空間であっても計測を行うことができる。

大がかりなシステム構成や堅強な固定冶具が必要となる変位測定システムでは非常に困難となる計測要求であってもEZ3Dであれば満たすことができるだろう。

また、使用温度範囲は-40℃~+80℃となっており、気候や地域による寒冷・暑熱の環境下やそれを再現する環境試験装置内でも計測が可能であるよう設計されている。

まとめ

つまり、いい意味で、テキトーに写真を撮影していけば、それだけで3次元変位測定が可能になる、というわけだ。これの意味するところは、単に計測の作業が楽になり測定時間が短縮できるというだけには留まらない。作業員を選ばないのだ。誰が操作してもよい、ということは、計測スキルを必要としないという意味である。

特定の計測担当者をアサインし、習熟のための訓練を行う必要がないという意味である。もちろん実際に運用する場合には、いつも決まった担当者が使用することになるかもしれないが、他の業務との兼ね合いを考慮しなくとも現場にいるすべての人間にそこにEZ3Dがあるということを周知しておけばよいだけだ。

デジタルカメラで写真を撮影するのに特定の担当者が決められている現場はおそらく存在しないだろう。それと同じことである。EZ3Dは長期的な運用をする上で他の計測機では避けては通れない“引き継ぎ業務”からも解放されている。もちろん、誰が扱っても個人差は発生しない。

※映像情報インダストリアル2017年8月号より転載

問い合わせ
株式会社東陽テクニカ
TEL:03-3245-1242
http://www.toyo.co.jp/mecha/

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